老兵、若輩に語る
あれからどういうルートで帰宅したのかは知らないが、嘉乃は下宿先のアパートに辿り着いた。その時嘉乃は、もう何もする気が起きず、夕飯を摂ることも諦めそのままベッドに倒れ込むほど多大な疲労を感じていた。
(疲れた……絶対あいつのせいだ……!)
数時間前の攻防を思い出し、嘉乃は全ての恨み辛みをあの男に向けた。ただ、不思議と恐怖はなかった。帰りの道中何度もあの出来事を思い出したが、あまりに現実離れし過ぎていて夢だったかと思ってしまうほどだった。しかし今になって事の重大さがじわじわと嘉乃に染み込んできていた。あれは紛れもない“命の危険”だった。
(でも、生きてるのもあいつのお陰、かな……)
疲労と、安堵感が嘉乃の体を重くする。瞼が重力に従って虹彩を隠す。
(あ、だめ、まだ明日の準備、してない)
スプリングの反動と、近くの道路を通る大型車両のもたらす振動と、心地良い布団の反発で嘉乃は眠りに堕ちて行った。
「あー、寝ちゃった……」
結局嘉乃が目覚めたのは、窓際に入り込む太陽の光と同時だった。
(今からシャワー浴びても、平気か)
昨夜帰り着いてから何もせず睡魔に負けてしまった為、起床と同時に全ての心残りを晴らすことにした。
シャワーを浴び、汚れと共に嫌な思い出も流す。湯を沸かし買えなかったコーヒーの代わりにココアを朝食の共にした。少し焦がしたトーストとスクランブルエッグが嘉乃の空ききった胃を満たし、嘉乃はゆっくりと自分にエンジンを掛けた。
(ああ、今日勉強会だよ……どうしよ)
段々と動き始めた頭は今日の予定を嘉乃に思い出させる。今日の放課後の勉強会の予定は以前より決まっていた。男の放った今日の4時に公園で、というのは完全な横槍でしかない。優先する必要などあるはずがなかった。しかし嘉乃の心は微かに揺れた。
悶々とする嘉乃に対し時計は無情に針を進める。ふと時間を確認すると、出発の時間が迫っていた。
(時間だ)
鏡でもう一度身だしなみをチェックし、嘉乃はアパートを出る。今日も外は風が冷たい。洗ったばかりの髪を、秋の終わりの風が撫ぜて行った。
「おはようヨシノ!」
「おはようミシェル」
「……何だか元気ないわね」
「そ、そう? そんなことないと思うけど」
嘉乃の友人・ミシェルは嘉乃の変化に目敏く気付いた。嘉乃は否定したが、消えきれない疲労感が今日の嘉乃を包んでいる。友人でなくとも嘉乃が完全でないことに気付くほどに。
「今日の勉強会だけど、場所はカフェテリアでいいかってジョスが言ってたわ」
「あ、ごめんミシェル。今日のそれ、パスしていい?」
嘉乃は申し訳なさそうに手を顔の前で合わせた。
「どうしたのいきなり? 前々から決まってたじゃない」
「うん、本当にごめん。昨日、急ぎの用事が入っちゃって……」
不意の欠席連絡に、ミシェルは細く整えられた眉を歪める。
「どうしたのよ? 体長でも悪いの?」
「ううん。全然そういうことはないんだけど……ごめん。あ、必要なら参考資料とか置いていくよ?」
「結構。紙よりもヨシノ本人がいなきゃ意味ないんだから。あーあ、ビルが寂しがるわね」
そこでミシェルは、にやりと何か含みのある笑みを嘉乃に向けた。その意図に気付いた嘉乃は慌てて弁解をする。
「ビリーとは何もないって言ってるじゃない!」
「えー? ビルの方は相当ヨシノにお熱みたいだけどお?」
ビルというのは嘉乃たちの友人で本名はビリーと言った。嘉乃に気があるらしく、日々アプローチを続けていた。しかしそれが日常になり過ぎてしまっていた為、ビリーのアタックは仲間内では日々の恒例行事と化していた。
「とにかく! 今日は行けない! ごめん!」
「はいはい。次は必ず来てよね」
「オーケイ……」
罪悪感に苛まれながらも、嘉乃には確認しておかなければならないことがあったのだ。
(4時……4時になった、けど……)
嘉乃は昨日の公園に居た。どうしても昨日のわだかまりをなくしておきたかったのだ。
「居ねえし」
だがしかし時間指定をした張本人がその指定時刻に指定場所に居ない。嘉乃は時計を何度も確認するが、その度長針は一目盛分しか動いていなかった。それを10回ほど繰り返し、いい加減待つ意味はないかと思い始めた頃、覚えのある声が耳に届いた。
「本当に来てたのか」
「っ、あなたが呼んだんでしょう?」
「俺は強制はしてねえぞ?」
「ぐっ……」
そう、選んだのは嘉乃なのだ。男はあくまで“知りたければ”という仮定で話をしていた。嘉乃は必ずしもここに来る必要はなかった。だが、彼女は指定通り公園に来てしまった。
「若者は探究心が旺盛だなあ。いや、好奇心か?」
「どちらでもありません。私は物事をうやむやなままにするのが嫌いなんです」
「んー、何でもいいがそういう奴は早死にするぜ」
「関係ないでしょう!? 教えてくれるんじゃないんですか!?」
男の言葉に嘉乃は苛立ってきた。せっかく勉強会の予定をキャンセルしてまでここに来たのだ。何か得て帰らなければ全ての行動の意味がなくなる。
「まあまあそう逸るなよ。若いのは生き急ぐ奴が多くていけねえな。よっしゃ、乗りな」
男はそう言って近くに停めていた車のドアを開けた。予想外の紳士的な振る舞いに嘉乃は一瞬たじろいだ。
「そんな警戒するなよ。お前みたいなガキんちょ取って食ったりしねえから」
「ガキじゃありません。私もう20歳です」
「20!? おいおい、ティーンじゃねえのか!」
「とっくに終わりました!」
留学を始めてからほぼお決まりのように上がる容姿と実年齢の話題に、嘉乃は辟易していた。欧米人とアジア人の容姿の差異など今更珍しいことではない。それを一々指摘されからかわれるのに飽きていた。
「本当か? パスポートに載ってる年齢と違うってことはねえよな?」
「見せられないけど同じです!」
嘉乃はいささか乱暴に車に乗り込んだ。
「ティーンじゃねえならもう少し優しく乗り込むこった」
男はドアを閉めると、車の前を回り自身も運転席に乗り込んだ。そしてエンジンを掛け車を動かす。
「今日はあの車じゃないんですね」
「ああ、ジュリエッタは修理に出した」
「じゅ、ジュリエッタ?」
「昨日俺らが乗りまわした車のことさ。ああ、綺麗なボディがキズモノになっちまって……」
「そうですか……」
「ちなみに今日のはペトラだ」
やはりこの男の車に対する愛情は生半なものではないらしい。車に女性の名前を付けて愛でるなど嘉乃には出来そうになかった。
「それより、どこに向かってるんですか?」
「行きゃあ分かるさ」
それから特にこれといった会話もなく、車は進んだ。その道中、昨日見た景色が嘉乃の目に入って来た。昨日の攻防の跡か、道路の破損や建物の損傷が所々にあった。微妙に見覚えのあるそれらから目を逸らしつつ、フロントガラスに映る道筋の記憶を辿った。
「あれ? ここって……」
「お嬢ちゃんが昨日案内してくれなかった場所さ」
車が止まったのはサンダースのバーの前だった。しかし、嘉乃のおぼろげな記憶と相反する点が幾つかあった。
「あの、このバーって少し前まで営業してましたよね?」
「してたな」
「じゃあ何でこんなに寂れてるんですか」
サンダースのバーは建物は残していたが、お世辞にも稼働している店には見えなかった。嘉乃の記憶の中では、細々ながらもバーは営業していた筈だった。
「正確に言うと今日の午前中で店仕舞いした。いや、させたって方が正しいか」
「店仕舞い、させた……?」
不穏な言葉が聞こえた気がした。嘉乃の耳が耳鼻科に世話になる必要がないのなら、この男は自分の力でサンダースのバーを閉めさせた、という内容を聞き取ったことになる。
「そうだ。ここで話すのもなんだしそこのカフェでも入るか」
男はサンダースのバーだった店の前にあるカフェを指した。小さい、寂れたカフェだった。この場所にカフェがあったかと思いながらも嘉乃は男に促されるまま店に入った。
「コーヒーと、何にする?」
「カプチーノで」
無愛想な若い店員はオーダーを取るとすぐ厨房に戻って行った。どうやら1人で店を切り盛りしているらしい。
「それで?」
「それで?」
「あなたの正体ですよ。4時に公園に来たら教えてくれるって言ってましたよね?」
「おお、そうだったな」
「私はあなたとお茶をするために来たんじゃないんです! 前々からあった予定もキャンセルしたんですから!」
「そりゃ悪かったね」
「思ってないでしょ」
茶化す男にいい加減じりじりしてきた嘉乃は、本題に入るように強く促す。その間にあの無愛想な店員によってオーダーしたものが運ばれてきた。
「何から話すか……ああ、そういや自己紹介してなかったな俺はヘンリーっつうんだ。お嬢ちゃんは?」
「嘉乃です」
「ヨシノね。アジアのどこから来たんだ? 俺の見立てじゃ日本なんだが」
「そうです。それで、あなたどういう人なんですか? 私の見立てじゃカタギの人ではないんですが」
「切り込むねえ。ま、当たってるよ。もう引退はしてるがな」
「やっぱり……」
嘉乃は、男、ヘンリーが通常の職種の人間ではないと薄々感じていた。そんな不安が的中した嘉乃を余所に、ヘンリーはコーヒーを口に運ぶ。
「相変わらず苦いな」
「それで、お向かいのバーを店仕舞い“させた”っていうのはどういうことなんですか」
「んー、それか? 午前中締め上げて来たのさ。昨日だったらあいつの対応次第でもう少し温情をくれてやろうかと思ったが……俺を殺そうとした挙句ジュリエッタをキズモノにしたんだ。それ相応の制裁だろ?」
「じゃ、じゃあ、サンダースさんは……」
嘉乃は次にヘンリーが放つ言葉を予想し身構えた。映画や小説では、その筋の人間に目を付けられた人間は生きてはいないというのが、答えのセリフの定石だったからだ。
「今頃夜逃げの準備じゃねえの?」
「へ?」
拍子抜けだった。
「夜逃げだよ夜逃げ。これ以降俺らの視界に入るなって警告したから今あの店も空になってるんだろ」
「そう、なんですか」
「この街で奴の安全が保障出来るのは8時までだがな」
前言撤回。最後の言葉は明らかに危険な臭いがした。
「……もう少し質問していいですか?」
「いいぞ」
「ヘンリーさんの、職業は?」
嘉乃はついに核心を突く質問を切り出した。これを聞くともう戻れない気がしたが、聞いておかなければならない気もしたのだ。ヘンリーは苦いコーヒーを一口飲むと、カップを口から少し放し、静かに嘉乃の質問に答えた。
「ギャングだな。元」
「……」
嘉乃の不安はまたも的中した。しかもまた悪い方向で。
「この人、ここらシマにしてるグループのボスだからね」
「おいジム、ばらすなよ」
唐突に、無愛想な店員がコーヒーのおかわりを注ぎに来た。そこで嘉乃は自分がオーダーしたカプチーノの存在を思い出した。カプチーノは少し冷めてしまっていた。しかしそれよりも嘉乃はジムと呼ばれた店員の言葉の方が気になった。
「地元の有名人がよく言うよ。こんな若い子連れ込んで次は何しようってのさ」
「ひと時の戯れだよ。老い先短い男の細やかな楽しみだろ?」
「お嬢さん気を付けてね。この人女遊び激しいから」
ジムは忠告をしてまた裏に戻って行った。そして残されたのは、嘉乃とヘンリーと新しいコーヒーと冷めたカプチーノだけになった。
「ボス、なんですか」
「元だって言ってるだろ。もう隠居の身だよ」
「でも、昨日は……」
そうだ、確かにヘンリーは昨日サンダースの店に自ら向かっていた。第一線を退いたのであれば、そんなことをする必要はないはずだ。
「俺の後任が人使いの荒い奴でなあ……若い奴の手が回らないから暇人のお前が行けって。衰えた老兵を戦場に送り出すなんて、あいつは悪魔なのかもしれない……」
ヘンリーはわざとらしく悲壮感漂う口調で我が身を嘆く。いくらか脚色しているだろうことは嘉乃にもすぐ分かった。
「ふーん」
「しかもサンダースの店の正確な位置を教えないまま放り出しやがって……」
「だから私に道聞いたんですね」
「そしたら変な奴らに襲われてジュリエッタがキズモノになるし……」
愛車のジュリエッタの話が出ると口調は途端に真剣になった。やはりヘンリーの車に対する愛は深いらしい。
「あの、えーっとジュリエッタ、さん? が居たのはヘンリーさんの車庫か何かだったんですか?」
「そうだ。俺のプライベートな車庫だ。っくしょう、あいつらそれもぶっ壊しやがって……きっちり請求してやらねえとな」
「相手、心当たりが?」
「ある」
「……あと、付かぬことを伺いますが、アランさんという警察の方とは」
「顔見知りだ。あいつもデカくなったなあ」
「まさか、警察との癒着、なんて」
「それを聞くのは野暮だぜヨシノ」
次々に胸につかえていた疑問をぶつけるが、返って来る答えは大概不穏なものだった。これ以上聞いて深入りするのも危険だと判断した嘉乃は、最後に1つ質問をしてこの質疑応答を終えることに決めた。
「昨日、6時に何か約束でもあったんですか?」
それを聞いたヘンリーはにやりと含みのある笑いを嘉乃に向けた。その前職にそぐわしい悪い笑みだ。
「それを聞くのも野暮だよなあ。ティーンを卒業したお嬢さん?」
その一言で大方を悟った嘉乃は、質疑応答を終了しカプチーノに口を付けた。冷めてはいるが飲めなくはない味だった。
「あ、そうだ。コーヒー……」
「何だ。コーヒー飲みたくなったのか?」
「違いますよ」
嘉乃は昨日買えなかったコーヒーのことを思い出した。あの騒動に巻き込まれたせいで買いそびれた、軽度のカフェイン中毒の嘉乃の共。冷めたカプチーノは嘉乃にその存在を思い出させた。
「昨日買いに行こうと思ったのに、あの騒ぎのせいで買えなかったんですよ」
目の前の男を睨みながら、“あの騒ぎ”の部分を強調して嘉乃は話す。コーヒーをココアに代用させたヘンリーの罪は重いらしかった。
「何だそんなこと。おいジム!」
「何ですか」
名前を呼ばれたジムは、渋々といった感じで裏から顔を出した。
「ここ豆も売ってたよな? 何か良いのあるか?」
「どれも良いよ」
「だとよ。ヨシノは豆にこだわるタイプか?」
「と、特にはないですけど……何かオススメはありますか?」
嘉乃がそう聞くとジムは暫し考え込み、ポケットから何かメモを取り出し確認し始めた。
「……昨日入って来たのはコナとモカ、とクリスタルマウンテン。今入ってるので一番自信あるのはコロンビア」
「何だ、クリスタルマウンテン入ってるのか! 俺にもくれよ。あ、挽いてくれな」
「あんたは後だよ。お嬢さんはどうする? 好みは?」
「何でも飲むんですけど……学生の、お財布に優しいのは……」
留学中の大学生は金がない。とくにこだわりのない軽度のカフェイン中毒者嘉乃は、その時の気分と価格でコーヒーを選んでいた。
「じゃあ、今日のとこはコナだ。挽く?」
「あ、お願いします!」
「俺のクリスタルマウンテンもー」
ジムは裏に戻らず、カウンターの奥にあるコーヒー豆の棚に手を伸ばした。嘉乃のコナと、ヘンリーのクリスタルマウンテンをそれぞれ取り出した。
それを横目で見ながら、嘉乃は壁に掛けられた時計を確認した。見ると昨日ヘンリーと別れた時刻と同じ、6時を指していた。
「ああ、家まで送るか?」
「結構です」
「外暗いぞ? いくら俺の顔が効くってもなあ……」
「……途中まで、お願いします」
「そうしとけそうしとけ」
両方のオーダーした豆を挽き終え、ジムが席にやって来た。ジムからコーヒーを受け取り、嘉乃はカプチーノの料金と合算して払おうとした。しかし、ヘンリーの手が財布を出そうとする嘉乃の手を制した。
「え?」
「昨日の詫びだ。素直に受け取っとけ」
「気障に決めたところ悪いんだけど、こんな田舎の小さな店でカードで支払うの止めてくれない?」
見ると、ヘンリーがジムに黒光りするカードを手渡している。見たことはおろか名前を聞く機会すらほぼない嘉乃は一瞬目を疑った。瞬きをしてジムの手元を確認するが、そこには変わらず黒光りするものがあった。
「けち臭いこと言うなって。使えないこたぁないんだろ?」
「面倒なんだよ」
カードを持ったジムの後姿を見ながら、はたと気付いた嘉乃は急いでヘンリーに頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!」
「気にするなよ。詫びだって言ったろ」
(いやいやカプチーノ1杯とコーヒー豆でブラックカード出させるなんて……)
操作を終えたジムが伝票とレシートを持って戻って来た。至極面倒臭そうな顔でヘンリーにカード使用の署名を求める。
「これいつも面倒なんだよなあ」
「ならキャッシュで払ってもらえる?」
(それは同感……)
サインし終えたヘンリーは、ジムにチップを渡し、自身のクリスタルマウンテンを抱えて嘉乃に帰りを促す。足取りは軽い。
「じゃあどこまで送る?」
「イーストストリートまでお願いします」
「了解」
帰りの車内でも、特にこれといった会話はなかった。時折過ぎる景色にヘンリーが説明を加え、それに嘉乃が相槌を打つのみだった。説明は大半が若気の至りの悪事だった。
「ここでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
イーストストリートの入り口付近で嘉乃は降りた。下宿先のアパートはここから歩いて数分だったが、細かな住所を知られるのは避けたかった。
「じゃあなヨシノ。何か困ったことがあったら俺の名前出せよ」
「そうならないように気を付けます」
嘉乃の言葉に軽く笑い、ヘンリーはパメラを動かした。そこで嘉乃は大切なことを思い出し、去っていくヘンリーに叫んだ。
「そういえば! 怪我! ちゃんと手当しましたか!?」
「おうよ!」
窓からのサムズアップと一言だけの元気な返答をし、ヘンリーは去って行った。それを確認出来た嘉乃は、アパートに足を向けた。と同時にもう1つ大切なことを思い出した。
「あ! ストール!」
ストールもマフラーもない嘉乃には、秋の終わりの夜風は冷たかった。