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暗転  作者: 小人頭領
2/2

ピチピチの女子高生

あのハゲまじウゼェ。

なんでいきなり居残りにさせるかな?

小テストの点が悪いごときでゴタゴタぬかすなっての。

期末テストで点取れれば良いんだろ?前回だって35点取って、赤点回避したのに、「これじゃダメだ」とか、何なの。

私がピチピチの女子高生だから、ワンチャン狙ってたりして…アイツとなんてあり得ない!マジ!

いつものハンバーガー屋で合流したら、アイツの話をネタにしよっと。

少しは楽しくなるだろうし、最近付き合ったとかいう彼氏の惚気話を聞くよりマシ。

あ〜、でもつまんね。

冷めたポテトつまむの飽きたし、つまらない話に相槌打つのダルイ。

「私達友達だよね〜」とか笑える。孤立したくないから一緒にいるだけだっての。

あ〜つまんね、つまんね。


「何か面白いこと起こらないかな〜」



いつもの角を曲がり、いつもの通りを進めば、いつものハンバーガー屋がある。

ハンバーガー屋に着いたら窓際の席をチェック。いつもの席に笑いながら手を振り、ちょっと小走りで店内に入る。

これもいつものこと。

しかしながら、今日はこちらが手を振ったにも関わらず、なぜか向こうは一瞥しただけ。

それを見て、いつもの作り笑顔に、少し不安が混じった。

「ごめんね〜待たせて!あのハゲが監禁してきて…」

妙な不安を取り除こうと、普段より少し話を大きく切り出してみたが、どうやら話を面白くした程度で収まる問題ではないらしい。

いつもの三人のうち、一人は身体を引きつかせながらテーブルに伏したまま、二人はこちらを窺いながら、引きつく背中を時折撫でている。

「…どうしたの?何かあったの?」

『どうせ彼氏と別れたんだろ』という心の声は、誰にも聞かせる訳には行かない。

こちらが聞いたにも関わらず、二人とも答えようとせず、ゆっくりと視線を落とした。


「この尻軽女!!」


突然立ち上がり叫んだ罵声に、三人だけでなく、周囲も驚きを隠せないようであった。

「ねぇ、それは言い過ぎだよ…」

「そうだよ、寝取ろうとした訳じゃないんだし…」

二人の諌める声は届いていないのであろうか、激しい憎悪の目は微動だにしない。

二人の言い方もまるで裏があるようであったし、突然罵声を浴びせられたショックもあり、とても席に座ろうとは思えなかった。

店内に談笑が戻り始めると、彼女はゆっくりとイスに戻り、再びテーブルに伏した。

四人の間に、沈黙が流れる。

「わ、私今日は帰るね!あ、今夜メールする!じゃあね!」

とりあえず、この場を離れようと強く感じた。

引きつった作り笑顔で手を降ると、二人は軽く手を振って返した。

二人の安堵の表情が見えた。


「今日は、なんかごめんね」

風呂から上がり部屋に戻ると、メールが着信していた。

「なんかね、例の彼氏が別の人を好きになったとか言い出してね。気にし過ぎなだけだと思うんだけど…」

話によると、男子同士で女子の誰が可愛いかを話していた際に、例の彼氏が私を推したのを聞き、それで勘違いしたらしい。

とりあえず、返信を打つ。

「うん、分かった。明日会って話してみるね。おやすみ!」

送信完了を確認し、ベッドに身を投げた。

実に馬鹿馬鹿しい話だ。


翌日登校していると、少し先を歩いているのが見えたので、早速誤解を解くことにした。

「おはよう。ねぇ、昨日のこと、聞いたんだけどさ。」

こちらに視線を投げかけただけで、返答はない。

「あのさ、聞いてる?」

「話しかけないでよクソ尼。」

へ?

思わず、変な声が出た。

しばらく思考が追いつかなかった。

クソ尼?

「何を…言って…」

気がついた時には彼女はもういなかった。

信じられないというのが、正直な気持ちであった。

激しい憎悪を感じた。


昼休み、廊下で立ち話をしているので、再び話しかけに行くことにした。

「ねぇ、ちょっといい?」

こちらを見た途端、談笑していた笑顔から、さっと笑いが引いた。

「今日の朝に話そうとしたんだけどさ」

「何なのマジ、つきまとわないでくれる?」

軽蔑の眼差し、まるで社会の底辺を見るような。

「え?なになに?もしかして、コイツが例の痴女?」

彼女と同じクラスであろう女子が指差した。

「そうそう、コイツが寝取ったの。」

「うわっ、いかにもって感じじゃん!男釣って楽しんでそうな。」

にやけた口元が、悪意の塊にしか映らなかった。

「コイツ、ビッチだなぁとは感じてたんだよね〜。でも私の彼氏に手を出すとかね、あり得ないわ。キモいよ、マジ死ね。」

「キ〜モッ、死ねよ。」

「死ねビッチ。」

話したこともない人に、なぜ死ねと言われなければならないのか。

我慢ならない。

「聞こえてんの?死ね。」

「は?」

誰だろう、いきなり声を出したのは。

声の主が自分だと理解する冷静さは、もう無かった。

「勝手にビッチ呼ばわりしないでくんない?」

三人の表情には、もうあのにやつきは見られない。

「何のことだか全然分かんないけど、彼氏の気が浮ついたのは、あんたがそんな魅力の欠片もないババアだからじゃないの?」

「はぁ?何言ってんの」

「クソビッチが」

「うるせぇんだよメンヘラが!」

右手を後ろに振り、まるでサイドスローのように大きく振り回した。

パチン!

平手打ちによる、会心の一打が決まった。

廊下が静まり返った。

「うっぐ……う…」

赤く腫れた頬を手で抑え、彼女はまるで放たれた矢のように、泣きながら廊下を走り出した。

向かう先は女子トイレの個室。

廊下にたむろしてた男子たちが、泣きながら女子トイレに飛び込む女子に驚き慄いていた。

「ちょ…」

「何あんた…」

まさかこんなことをするとは思いもしなかったのだろう。二人の顔は凍りついていた。

野次馬たちが何事かと集まってきたが、痕跡も何もないと分かると、散り散りになっていった。

予鈴が、鳴った。


学校のクラスというのは、なぜか孤立するとよく目立つ。

担任から特にお咎めがあった訳でもないが、噂はすぐに広まった。

「あんなこと言われたら、はたきたくもなるよね…」

廊下で平手打ちと聞きつけ、いつも集まっていた友達は、そうやって慰めの言葉をかけてくれた。

しかし、今は露骨に避ける。

「暴力女のお友達」というレッテルを貼られるのが、きっと耐えられないのだろう。

誰とも話せないので教えてもらった訳でもないが、彼女たちが私の陰口に参加していることぐらいは分かった。

みんなと距離を置き、時折好奇の視線を感じながら食べる給食は、とにかく不味かった。

給食の味は変わってないハズなのに。


学校での生活は一変した。

根暗の居場所と馬鹿にしてた図書室に通い、興味も無かった文庫本を借りて、教室で読んだ。

借りた本が誰かに隠されてしまうこともあったが、最近はほとんどない。

陰口を叩く人も、「暴力女」と言われることもほとんどなくなったが、独りぼっちという現実だけは増すばかりだった。

昼休みの終わりを告げる予鈴を聞いて、借りている本をそっと閉じた。

授業も嫌、休み時間も嫌、教室も、学校も嫌。

早く帰りたい、辛い。

本の上に額を乗せ、ゆっくりと目を閉じた。

世界が暗転する。

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