ピチピチの女子高生
あのハゲまじウゼェ。
なんでいきなり居残りにさせるかな?
小テストの点が悪いごときでゴタゴタぬかすなっての。
期末テストで点取れれば良いんだろ?前回だって35点取って、赤点回避したのに、「これじゃダメだ」とか、何なの。
私がピチピチの女子高生だから、ワンチャン狙ってたりして…アイツとなんてあり得ない!マジ!
いつものハンバーガー屋で合流したら、アイツの話をネタにしよっと。
少しは楽しくなるだろうし、最近付き合ったとかいう彼氏の惚気話を聞くよりマシ。
あ〜、でもつまんね。
冷めたポテトつまむの飽きたし、つまらない話に相槌打つのダルイ。
「私達友達だよね〜」とか笑える。孤立したくないから一緒にいるだけだっての。
あ〜つまんね、つまんね。
「何か面白いこと起こらないかな〜」
*
いつもの角を曲がり、いつもの通りを進めば、いつものハンバーガー屋がある。
ハンバーガー屋に着いたら窓際の席をチェック。いつもの席に笑いながら手を振り、ちょっと小走りで店内に入る。
これもいつものこと。
しかしながら、今日はこちらが手を振ったにも関わらず、なぜか向こうは一瞥しただけ。
それを見て、いつもの作り笑顔に、少し不安が混じった。
「ごめんね〜待たせて!あのハゲが監禁してきて…」
妙な不安を取り除こうと、普段より少し話を大きく切り出してみたが、どうやら話を面白くした程度で収まる問題ではないらしい。
いつもの三人のうち、一人は身体を引きつかせながらテーブルに伏したまま、二人はこちらを窺いながら、引きつく背中を時折撫でている。
「…どうしたの?何かあったの?」
『どうせ彼氏と別れたんだろ』という心の声は、誰にも聞かせる訳には行かない。
こちらが聞いたにも関わらず、二人とも答えようとせず、ゆっくりと視線を落とした。
「この尻軽女!!」
突然立ち上がり叫んだ罵声に、三人だけでなく、周囲も驚きを隠せないようであった。
「ねぇ、それは言い過ぎだよ…」
「そうだよ、寝取ろうとした訳じゃないんだし…」
二人の諌める声は届いていないのであろうか、激しい憎悪の目は微動だにしない。
二人の言い方もまるで裏があるようであったし、突然罵声を浴びせられたショックもあり、とても席に座ろうとは思えなかった。
店内に談笑が戻り始めると、彼女はゆっくりとイスに戻り、再びテーブルに伏した。
四人の間に、沈黙が流れる。
「わ、私今日は帰るね!あ、今夜メールする!じゃあね!」
とりあえず、この場を離れようと強く感じた。
引きつった作り笑顔で手を降ると、二人は軽く手を振って返した。
二人の安堵の表情が見えた。
「今日は、なんかごめんね」
風呂から上がり部屋に戻ると、メールが着信していた。
「なんかね、例の彼氏が別の人を好きになったとか言い出してね。気にし過ぎなだけだと思うんだけど…」
話によると、男子同士で女子の誰が可愛いかを話していた際に、例の彼氏が私を推したのを聞き、それで勘違いしたらしい。
とりあえず、返信を打つ。
「うん、分かった。明日会って話してみるね。おやすみ!」
送信完了を確認し、ベッドに身を投げた。
実に馬鹿馬鹿しい話だ。
翌日登校していると、少し先を歩いているのが見えたので、早速誤解を解くことにした。
「おはよう。ねぇ、昨日のこと、聞いたんだけどさ。」
こちらに視線を投げかけただけで、返答はない。
「あのさ、聞いてる?」
「話しかけないでよクソ尼。」
へ?
思わず、変な声が出た。
しばらく思考が追いつかなかった。
クソ尼?
「何を…言って…」
気がついた時には彼女はもういなかった。
信じられないというのが、正直な気持ちであった。
激しい憎悪を感じた。
昼休み、廊下で立ち話をしているので、再び話しかけに行くことにした。
「ねぇ、ちょっといい?」
こちらを見た途端、談笑していた笑顔から、さっと笑いが引いた。
「今日の朝に話そうとしたんだけどさ」
「何なのマジ、つきまとわないでくれる?」
軽蔑の眼差し、まるで社会の底辺を見るような。
「え?なになに?もしかして、コイツが例の痴女?」
彼女と同じクラスであろう女子が指差した。
「そうそう、コイツが寝取ったの。」
「うわっ、いかにもって感じじゃん!男釣って楽しんでそうな。」
にやけた口元が、悪意の塊にしか映らなかった。
「コイツ、ビッチだなぁとは感じてたんだよね〜。でも私の彼氏に手を出すとかね、あり得ないわ。キモいよ、マジ死ね。」
「キ〜モッ、死ねよ。」
「死ねビッチ。」
話したこともない人に、なぜ死ねと言われなければならないのか。
我慢ならない。
「聞こえてんの?死ね。」
「は?」
誰だろう、いきなり声を出したのは。
声の主が自分だと理解する冷静さは、もう無かった。
「勝手にビッチ呼ばわりしないでくんない?」
三人の表情には、もうあのにやつきは見られない。
「何のことだか全然分かんないけど、彼氏の気が浮ついたのは、あんたがそんな魅力の欠片もないババアだからじゃないの?」
「はぁ?何言ってんの」
「クソビッチが」
「うるせぇんだよメンヘラが!」
右手を後ろに振り、まるでサイドスローのように大きく振り回した。
パチン!
平手打ちによる、会心の一打が決まった。
廊下が静まり返った。
「うっぐ……う…」
赤く腫れた頬を手で抑え、彼女はまるで放たれた矢のように、泣きながら廊下を走り出した。
向かう先は女子トイレの個室。
廊下にたむろしてた男子たちが、泣きながら女子トイレに飛び込む女子に驚き慄いていた。
「ちょ…」
「何あんた…」
まさかこんなことをするとは思いもしなかったのだろう。二人の顔は凍りついていた。
野次馬たちが何事かと集まってきたが、痕跡も何もないと分かると、散り散りになっていった。
予鈴が、鳴った。
学校のクラスというのは、なぜか孤立するとよく目立つ。
担任から特にお咎めがあった訳でもないが、噂はすぐに広まった。
「あんなこと言われたら、はたきたくもなるよね…」
廊下で平手打ちと聞きつけ、いつも集まっていた友達は、そうやって慰めの言葉をかけてくれた。
しかし、今は露骨に避ける。
「暴力女のお友達」というレッテルを貼られるのが、きっと耐えられないのだろう。
誰とも話せないので教えてもらった訳でもないが、彼女たちが私の陰口に参加していることぐらいは分かった。
みんなと距離を置き、時折好奇の視線を感じながら食べる給食は、とにかく不味かった。
給食の味は変わってないハズなのに。
学校での生活は一変した。
根暗の居場所と馬鹿にしてた図書室に通い、興味も無かった文庫本を借りて、教室で読んだ。
借りた本が誰かに隠されてしまうこともあったが、最近はほとんどない。
陰口を叩く人も、「暴力女」と言われることもほとんどなくなったが、独りぼっちという現実だけは増すばかりだった。
昼休みの終わりを告げる予鈴を聞いて、借りている本をそっと閉じた。
授業も嫌、休み時間も嫌、教室も、学校も嫌。
早く帰りたい、辛い。
本の上に額を乗せ、ゆっくりと目を閉じた。
世界が暗転する。




