村長宅、増量キャンペーン
よく考えたら主人公の村長アルベルトっておっさんもいいところなんですよね。
ファンタジーでおっさん主人公ってどうなんだろう?
そらは晴れ渡り小鳥がさえずり心なしか窓から見える空が近くなったようにも感じられる。
事実多少とは言え近くなってるのだが。
「家が伸びた。縦に。」
どうしてこうなったのだろう。
時はさかのぼり場所は地中深く。
「今のところは順調だな。」
責任者であり操舵手でもあるモリブデン=クロムは実験が順調である事に胸をなでおろす。
『勇者計画』の一つ『地の勇者』さらにその中の一つ『大地の筒計画』。
地中を掘り進み物資もろもろの輸送や工作などを行うと言う結構無茶な計画だ。
「ちゃんとデータは取ってあるんだろうな?」
「大丈夫ですって。」
「地表に近づきすぎるなよ。あくまでも実験段階なんだからな。」
今回は地表に影響がでないよう気を使ってはいるがそれでも近すぎれば地面が波打つなどは免れない。
この計画に限ったわけでは無いが採取されるデータは多岐に渡る。
周囲への影響や外装の耐久度に進行速度。
懸案が片付いた後も有効利用されるはずのものだろう。
そんな思いを胸にモリブデンは舵を進める。
「そろそろ帰還ルートに入る。実験基地へ進路を取りつつ徐々に地表へ向かおう。」
「了解です」
だが此処で問題が起きる。
「モリブデンさんちょっと浮上速度が速すぎませんか?このままだと予定より早く地表に出てしまいます。」
「ん?おぉ本当だ。すまないな。」
舵を元に戻し再び緩やかな浮上へと入る。
「あれ?舵が効き辛い様な…」
「いやモリブデンさん!また浮上速度が上がってますって!このままだとかなり手前で地表に!」
「くそ!舵が!記録係!異常は出ているか!?」
「動力部と推進機関に異常が!他にもデータを見る限り何かに引き寄せられてるみたいです!」
「何かとは何だ!」
「不明です!このままだとその『何か』にぶち当たります!」
「総員!衝撃が繰るかも知れん!備えろ!」
悲しいかな予測は当たり鈍い衝撃と構造の歪む音が聞こえる。
計器類が此処が地表近くだと示す。
「ぐっ!状況は?」
「構造体は少しゆがみましたが外装を含め軽微と予測。動力が駄目ですね。これ以上動けないでしょう。幸い地表近くに出れましたので生き埋めって事態は免れましたな。ただ…」
「ただなんだ?」
「地表に出た際に何か下から小突きあげてしまったようです。現状その何かが上に乗っかってる状態ですな。」
「民家か何かを破壊してしまったのか。現在位置と周囲の状況を。」
「現在位置ですが…」
そして村長宅。
「朝起きて顔洗ってお茶飲んでたら家が高くなってたことに気づいた。意味がわからない。」
「こりゃまた凄い事になってるなアルベルト。」
「なぁナット。」
「なんだアルベルト。」
「お前のせいじゃないよなコレ。」
「違うな。予算もらってねぇもの。」
「予算があればやるのかよ。」
「当然だろ?」
村長宅より幅の広い箱状の何かが土台の下から顔を覗かせる。
それでもまだいくらか地面に残ってるようでそれなりに巨大なもののようだ。
それと同時にいくらか驚くべき点がある。
「しかし此処までなっておいて家に異常が見られないとはな。」
「まぁ多少水平が狂ってるかも試練が今見た程度だと大きな問題はないな。」
「ナット。お前の腕が確かなのは知っていたがこういう状態で確認したくはなかったよ。」
「ん?あぁしかし土台とあの箱状の何かとくっついちまってるな。まるで一つの建物みたいに。どうやったらこうなるかわからんが。」
この日を持って村長宅は階数を増やす事になった。