村長宅、回転す
今回も探り探りです。
『勇者計画』の担当方が我が村を訪れる。
最近はもうなれたものだ。
「ではアルベルト砲の試射の説明ですが」
「すいませんいみがわかりません」
「新型魔道砲ですからね。いざと言う時動かないと困りますので」
「撃つのは確定なんですね。そしてその伝言はナット辺りに申し付けたんですね。
すいませんがこれからは私のほうへ直接お願いできないでしょうか。あの男だとほぼこちらに情報が届かないもので」
アルベルト砲で決定なのか。
それはさておき。
テストのため空中に魔法で作られた標的が浮かび威力最小限での試射のための準備とデータ取りの為、各員慌しく動く。
短くは無いだろう人生を過ごした我が家幼き日の思い出と共に射角を取り台座ごと回りだす。
意味がわからない。
地面に固定されているはずの土台が回りだすのも意味がわからないが
そこまでするなら新しく立て替えたほうが良かったのではないかと思う。
「…発射準備。発射準備完了。発射5秒前、4、3、2、1、ぱっちゃ!」
担当者が噛むも我が家から突き出た大砲は特有の轟音ではなく
まるで金属で出来た獣が地の底から這い出るかのような唸りをあげて光りだし
いい歳こいたオッサンがぱっちゃ!とか言っちゃったのを気にしないかのごとく
目標に向かって一条の線を描きそれを貫き担当のオッサンが噛んだ。
私と同年代辺りであれは辛かろう。
「…思った以上の威力だが」
「…しかしこの挙動は」
「…だとするとどこかに見落としが」
等となにやら専門的な話が聞こえる。
雰囲気を察するに予想以上の高威力となにやら不可解な現象が起きたようだ。
ふむ、とするならば我が家は別の場所に新しく立て直したほうがいいのではないか。
副産物とはいえ流石に国の一大計画の成果だ。
機密云々もそうだが一村長の家として使い続けるのも不味かろう。
思い出の詰まった我が家故名残惜しいのもあるがいたし方あるまい。
新築に際して何がしか補助が出ると嬉しいのだが。
その事を先ほど噛んでいた担当の方に話すとその必要は無くむしろ住み続けた方がよいとの事。
何を言い出すんだこのオッサンは、さっき噛んでたくせに威風堂々と。
ぱっちゃ!とか言っていたオッサン曰く魔道砲の作り出す力場と
元々長くそこにすんでいた私との間になにやら魔法的な繋がりが出来ている可能性があるらしい。
生活の拠点を変えない限りは問題なさそうだがそうでない場合最悪爆ぜる可能性ありとの事。
何が爆ぜると言うのだ。