村長宅、準備
戦争は技術を発展させる。
世の中でよく使われる言葉だ。
今回の魔物の王との戦いでも発展した技術は多岐にわたる。
魔法技術しかり素材技術しかり生産効率の強化等等。
正確に言えば今回は『戦争』ではない。
魔物とは何か。
魔素によって変異した何か。
魔物の王とは何か。
通常以上に変異した何か。
とどのつまり『戦争』というより『自然災害』に近いのだ。
『戦争だから』技術が発展するのではなく『戦争に金が掛かるから』技術が発展するのだ。
つまり湯水のように資金をぶち込むからその周辺分野が発展するのだ。
例えば同じように資金が流動した大航海時代には船や保険が発展したし
日本の道路行政の結果土木技術は眼を見張るものであるし
東西冷戦中に蓄積された宇宙技術は大変なものだ。
例え『自然災害』でも国家の危機クラスならば資金を注ぎ込もうと言うものだ。
故に注ぎ込まれる資金は莫大でその危機に対して
個人でできる事などあまり無いのだ。
アルベルトの気分は沈んでいた。
あの魔物のような何かによって命を落としかけたのだ。
それ以上にアレがこの村に来た事。
そして軍人達さえ歯が立たなかったという事実。
もちろん軍は対策をたてるだろう。
今回の襲撃はもちろんの事、各地からの報告を受け有効な手立てを探るだろう。
それが軍の仕事であるし役割だ。
ならば村長としては?
出来たとして避難訓練や日ごろの注意を促す程度だ。
もちろんこれとてやるとやらぬとでは雲泥の差ではあるが。
歯がゆい。
あれだけの危険を感じておいて自分にできる事の少なさが歯がゆい。
もしまたアレと遭遇するとしたらどうすれば良いか。
村の自警団では歯が立たないだろう。
村の為に何が出来る?
何が必要で何をするべきだ?
難題とも言える疑問がアルベルトの胸中でグルグルと渦巻く。
溜息を一つ吐くと同じように吐かれた溜息の後に呟きが聞こえた。
「次はどう改造しよう」
ナットだった。