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4"噂の芽
数日後、行商人が村を訪れた。
荷車一台、男一人。
緊張した様子で村に入ってきたが、すぐに拍子抜けした顔になる。
「……静かだな」
酒場代わりの広場で、行商人は首を傾げた。
「この辺り、魔物が多いって聞いてたんだが」
「前はな」
村人が笑って答える。
「今は、何も起きない」
「何も?」
行商人は、不安そうに周囲を見回した。
「そんなこと、あるか?」
「あるんだよ」
断言したのは、バルドだった。
「理由は分からんが、ここしばらくは平和そのものだ」
行商人は、しばらく考え込んだ後、ぽつりと言った。
「……守り手でもいるのか?」
その言葉に、場が静まる。
誰も答えない。
だが、数人の視線が、無意識にこちらへ向いた。
居心地の悪さを感じ、視線を逸らす。
その夜、行商人は村に泊まった。
翌朝、彼は別れ際に言った。
「ここ、不思議な村だな」
「そうか?」
「ああ。壊れた連中が、寄り着きそうだ」
その言葉は、冗談とも予言ともつかない響きを持っていた。
行商人が去った後、村には小さな噂が残った。
――何も起きない村があるらしい。
それは、まだ弱く、風に乗る前の芽だった。




