ジュームの視点1" 歯車は今日も回る
「あらあらあらぁ……」
広い広い、玉座の間。
誰もいないはずの場所で、ジュームは一人、指先で水晶を転がしていた。
「また売れ残り、ねぇ」
水晶の中には、いくつもの光が渦巻いている。
それは魂だった。
燃え尽きた勇者。
壊れた英雄。
使命を果たせなかった者たちの残滓。
「ほんっと、よく燃えるのよぉ」 「先代の子たちって」
転移召喚。
勇者選定。
異世界オークション。
それらは全て、同じ装置の歯車だ。
負けた勇者の魂を燃料にして、次の勇者を呼ぶ。
勝てば延命。
負ければ補充。
ただそれだけ。
「ひどい? 冷たい?」
ジュームは肩をすくめる。
「でもねぇ、私がやらなくても回るのよ」 「私、司会進行役なだけだもの♡」
水晶の一つが、ふっと揺れた。
「……あら?」
映ったのは、とある村。
小さくて、地味で、何もない場所。
そこに――
“値段の付かなかった転移者”がいる。
「売れ残りちゃん」
ジュームは、くすりと笑う。
「あなた、ほんっと想定外」 「魂の匂いがしないのよねぇ」
燃料にならない。
器としても測れない。
「枠の外って言ったけど……。正確には、歯車に噛まないのよ」
水晶の中で、魔物の影が村を避けて通る。
誰かに命じられたわけでもなく。
「強すぎる存在が居るとねぇ。弱いものは、勝手に避けるの」
ジュームは椅子に腰掛け、足を組んだ。
「でも安心して。今は、何もしないわぁ」
歯車は、壊れるまで回すもの。
止まるまで、観察するもの。
「あなたが“何も起こさない”限り世界も、あなたを無視する」
それが、この世界の優しさであり、残酷さだ。
「さぁて……」
「次は、誰が壊れかけて流れ着くのかしらねぇ」
ジュームは、水晶を棚に戻した。
歯車は、今日も静かに回っている。




