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3"売れ残りは何も起こさない
村での生活は、拍子抜けするほど単調だった。
朝起きて、畑を手伝い、昼は簡単な食事をとり、夕方には家に戻る。それだけだ。だが、不思議と飽きは来なかった。
「助かってるよ」
畑で一緒になった村人が、ぽつりと漏らす。
「何がですか?」
「作物の育ちがいい。去年より、ずっとな」
天候が良いわけでも、肥料を変えたわけでもない。ただ、土が落ち着いているのだと言う。
別の村人は、夜が静かになったと言った。
「前はな、夜になると見回りが欠かせなかった」
「魔物ですか?」
「ああ。遠吠えだけでも聞こえると、眠れなくてな」
今は、それがない。
村全体を覆っていた、じわりとした緊張が消えている。
原因は分からない。
だが、誰もが無意識に理解していた。
――何かが、ここにある。
夕方、村長のバルドが酒を片手に言った。
「お前、妙に落ち着いてるな」
「そうですか?」
「この村に来た旅人は、大抵そわそわする。魔物の話を聞けば尚更だ」
「……慣れてるだけかもしれません」
嘘ではない。
ただ、理由を説明する言葉が見つからなかった。
夜、寝台に横になり、天井を見つめる。
ここは安全だ。
根拠はないが、確信に近い感覚があった。
その感覚が、どこから来るのか――
考えるのを、やめた。




