18"その枠外は何を持って
夜明け前、村は不自然なほど静かだった。
風は吹いている。
虫も鳴いている。
それでも、何かが噛み合っていない。
村の外れで陣を張っていた私兵たちは、誰一人として村に近づけずにいた。
「……進め」
命令は出ている。
だが、足が動かない。
恐怖ではない。
殺気でも、威圧でもない。
ただ、本能が拒んでいる。
「理由が、分からない……」
■■■■■■
「どうする」
ユウトの問いに対して転移者は目の前の表示に目を落とす
【ステータス】
名前:ノラ
勇者適正:無し
祝福:無し
魔力量:???
固有特性
・世界拒否
・因果遮断
・干渉無効(常時)
・魔の理
・剣の理
備考
・観測不可
・特異点
・定義不能
・管理対象外
それは、数値ですらなかった。
比較も、分類も、出来ない。
かつてジュームが見ていたステータス画面には、
ここまでの項目は存在していない。
召喚を管理する者ですら、
“見えないままにしていた領域”。
ノラは、そこにいた。
何もせず、何も考えず、
ただ、村に“在る”だけで。
「……これ以上は無理だ」
私兵の隊長が、歯噛みする。
「王国の管理下に置く? 笑わせるな」
「触れられないものを、どう囲う」
剣を振るうことも、魔法を使うことも出来ない。
戦闘以前の段階で、拒絶されている。
「撤退する」
命令が下された。
私兵たちは、踵を返す。
敗北を理解しないまま、
理解できないものから距離を取る。
村に、音は戻った。
朝が来る。
ユウトは、家の前に立つノラを見る。
「……なあ」
静かな声だった。
「お前、本当に何者なんだ」
ノラは、空を見上げたまま答える。
「ただの転移者だよ」
嘘ではない。
だが、真実でもない。
「……どうする」
ユウトが、もう一度聞く。
ノラは、少し考えてから言った。
「何もしない」
その言葉で、世界は静かに肯定した。
戦わない最強。
測れない異常。
ノラという存在は、
今日も村に、何も起こさなかった。




