14"守られているという恐怖
最初に変わったのは、村人の表情だった。
「最近、外の人が増えたな」
「噂が広がってるらしい」
朝の井戸端で交わされる声は、以前より低い。
危険がないことが、いつしか不安に変わっていた。
「……守られてる、って思うとさ」
誰かが、ぽつりと言った。
「それが無くなったらって考えちまう」
言葉は、すぐに後悔を含んで消えた。
ユウトは、その様子を黙って見ていた。
何もしていない。
だが、何も起きない。
その状態が、人を疑心暗鬼にさせる。
昼過ぎ、来訪者の一人が村の外れで立ち止まった。
「ここだ」
地面に、杭が打ち込まれる。
「何をしてる」
声をかけたのは、村長だった。
「調査だ」
「許可は出してない」
「壊すわけじゃない」
杭に結びつけられたのは、小さな魔石だった。
淡く光り、魔力を拡散させる。
魔物を引き寄せる、簡易的な装置。
「……やめろ」
村長の声が、震えた。
「危険だ」
「だからこそ、確かめる」
男は、杭から手を離した。
その瞬間。
空気が、凪いだ。
音が、消えた。
魔石の光が、すっと弱まり――消える。
「……は?」
男が息を呑む。
何も、起きなかった。
魔力は拡散しなかった。
存在そのものが、否定されたかのように。
「撤収だ」
リーダーの声が、硬い。
「これ以上、刺激するな」
だが、その目は諦めていなかった。
夜。
村の広場に、緊張が漂う。
「外の連中、信用できるのか」
「でも、追い返したら魔物が来るかもしれない」
恐れは、方向を失う。
守られているという事実が、
同時に「依存」を生んでいることに、誰も気づいていなかった。
ユウトは、家の前で空を見上げた。
星は、いつもと変わらない。
それでも、胸の奥に小さな棘が刺さる。
――選ばない、という選択。
それが、もう許されなくなりつつある。
遠くで、剣が鳴る音がした。
来訪者たちは、準備を始めている。
守られている場所を、
守っている存在を、
引きずり出すために。




