13"それは些細な
衝突と呼ぶには、あまりにも些細な出来事だった。
畑の端で、村の若者が倒れていた。
「大丈夫か」
声をかけたのは、例の一団の一人だった。背の高い男で、腰に剣を下げている。
「……足を、取られて」
若者は苦笑しながら立ち上がろうとしたが、うまく力が入らない。
「無理するな」
男はそう言って、若者の肩を掴んだ。
その瞬間だった。
空気が、わずかに歪んだ。
風が止まり、虫の音が消える。
「……?」
男は眉をひそめ、周囲を見回した。
何も起きていない。
だが、何かが「触れるな」と告げたような感覚が、確かにあった。
「離してくれ」
若者が、静かに言った。
男は一瞬迷い、手を放す。
「悪い」
それだけで、場は収まった。
だが、その様子を見ていた者がいた。
「今の、感じたか」
「ああ」
一団の仲間が、低い声で囁く。
「人に触れただけだぞ」
「それで、だ」
彼らの視線が、村へ向く。
昼過ぎ、宿の前で言い争いが起きた。
「この村、何か隠してるだろ」
「隠してない」
村人の答えは、短い。
「じゃあ、なんで魔物が寄らない」
「さあな」
嘘ではない。
だが、真実でもない。
「俺たちは危険を避けたいだけだ」
「ここは危険じゃない」
噛み合わない会話。
そのやり取りを、ユウトは少し離れた場所から見ていた。
胸の奥が、静かにざわつく。
言葉一つで、均衡は崩れる。
「……調べさせてもらう」
一団のリーダー格の男が言った。
「村の外れをな」
拒む理由は、ない。
その夜、村の外で小さな音がした。
金属が擦れる音。
次いで、何かが落ちる音。
だが、悲鳴はなかった。
翌朝。
「魔物の痕跡が……消えてる?」
調査に出た男が、困惑した声を上げた。
「倒した形跡もない」
「逃げた?」
「いや……最初から、いなかったみたいだ」
理解できない現象。
それが、彼らの不安を煽る。
「ここは、安全すぎる」
その言葉は、褒め言葉ではなかった。
ユウトは、空を見上げる。
雲は穏やかで、風は優しい。
だが、人の欲と恐れは、天候に関係なく動き出す。
噂は、もう引き返せないところまで来ていた。




