9"壊れた者が辿り着く
その男は、村の入口で倒れた。
柵の外。
誰にも気づかれない場所で、力尽きるように。
最初に見つけたのは、朝の見回りをしていた村人だった。
「……人だぞ」
駆け寄ると、男はひどい状態だった。
服は裂け、靴は片方しかない。体中に古い傷と新しい傷が混じり、呼吸は浅い。
「生きてるか」
問いかけに、返事はない。
それでも胸は上下している。
村人たちは、迷わず男を運んだ。
ここでは、それが当たり前になっている。
数時間後、男は目を覚ました。
だが、焦点は合っていなかった。
「……来るな」
掠れた声で、そう呟く。
「もう……前には……」
ユウトは、少し離れた場所からその様子を見ていた。
かつての自分と、どこか重なる。
ただし、この男は――限界を越えていた。
「名前は?」
問いかけに、男は反応しない。
「食べられるか」
スープを差し出しても、口を開かない。
まるで、拒否する力すら残っていないようだった。
夜、男は突然叫んだ。
「無理だ……無理なんだ……」
体を起こそうとして、崩れ落ちる。
「戦え……戦えって……」
誰も責めていない。
誰も命じていない。
それでも、男の中では終わっていなかった。
ユウトは、拳を握りしめる。
逃げることを選べた自分。
逃げる前に、壊れきった彼。
「……ここは、大丈夫だ」
それでも、声は届かない。
翌朝。
男は再び眠りについた。
今度は、少しだけ穏やかだった。
村人は言う。
「時間が必要だ」
「それでいい」
誰も追い出そうとはしない。
村は、相変わらず静かだ。
魔物も来ない。
争いも起きない。
ただ、人だけが増えていく。
ユウトは思う。
この村は、救いじゃない。
奇跡でもない。
壊れるのを止める場所でもない。
――壊れきった後で、息をする場所だ。
そして、その静けさが続く限り。
この村には、また誰かが辿り着く。
噂に引かれ、追い詰められ、
それでも、まだ生きている者が。




