4章⑥
セザールはそんな会話など気にも留めず、カーテンの隙間から会場を眺める。
明るくなれば、もしかしたら見つかるかもしれない。
あの時のように。
僅かな望みをかけて探すも、エステルらしき姿が見つかることはなかった。
暫くすると、ボックス席にノック音が響く。
「お食事の準備が整いました、ラファイエット様」
どうやら内容からしてガルニエ家の使用人のようだ。
廊下に出ると、給仕服の男性が頭を垂れていた。
使用人はラファイエット家の人々を、レストランの個室へと案内する。
そこには既にペトロニーユが待ち受けており、此方に向かって軽くお辞儀した。
「お待たせして申し訳ない」
「ガルニエ様!」
サラは悲鳴にも似た感嘆の声を上げ、ぴょんと飛び跳ねる。
ペトロニーユは目を細め、口元に手を当てた。
「おや、私としたことが。
今夜は素敵なお嬢さんも一緒だったね。
そうか、君がサラ……で間違いないかな」
「まあ、私の名前をご存じで?」
「もちろんだとも。今日はご息女も一緒だと聞いていたからね。
お母様からの亜麻色の髪に、お父様譲りの顔立ち。
君を見れば誰だって振り返えることだろう」
つらつらと歯の浮くような台詞を並べられ、サラは顔を真っ赤にする。
普段容姿を揉められても澄ました顔をしているくせに。
そう言ってやろうと思ったが、気分を害してしまえば後が怖いと思いとどまった。
妹は憧れの支配人の顔を直視できないらしく、下を向き「嬉しいです」とぽつぽつと言葉を並べているばかりだ。
「サラ、失礼だろう。
ちゃんと相手方の顔を見なさい」
「ははは、お気になさらず。
それより今夜の公演はどうでしたか」
「素晴らしかったよ。
やはり、良いものは何度観ても飽きが来ない。
今日は息子も最後まで見れたようだし、私も満足だ」
父の目配せに応えるように、セザールは頷いた。
「嬉しいよ。さ、立ち話もなんだから、席に着こう。
じきに食事もやってくる」
促されるまま席に着くと、見計らったように食事ワゴンが現れる。
四人での夕食会は驚くほど早く進んでいった。
以前の三人会食の時とは大違いだ。
終始サラがペトロニーユに話しかけているからだろう。
今日は悉く、妹に救われている気がする。
話の矛先が自分に向くことがないのがどれほど楽か、セザールは身をもって理解した。
だが父はそんな息子に、時折「お前は話さなくて良いのか」と訊ねてくる。
「大丈夫です。今日はサラに楽しんで貰いましょう」
「でも私としては、ペトロニーユにはお前と話して欲しいのだが」
「……光栄ですが、その。
今彼女に話しかけてもサラが割って入ってきてしまうでしょう」
それもそうだな、と納得した父は再び食事を取り始める。
「そうだ、ラファイエット家の皆様方。
折角月の出ている夜です、食後に庭園へ行きませんか?
少し冷えますが、この時期の澄んだ空気は心地良い。
月明かりに照らされた花々は必見ですよ」
「勿論ですわ! ね、お父様、にいさま」
「ああ、同行させて頂こう」
セザールも、首を縦に振る。
ペトロニーユとの食事などどうでもよかった。
どうすればエステルに会えるだろうか。
そのことばかり考えていた。




