2章⑨
「セザール、セザール!」
がたがたと体を揺すられ、再び目を覚ました。
最初に視界に飛び込んで来たのは悲痛な表情を浮かべたロジェだった。
「よかった……! 生きていた、生きていた!」
ぼたぼたと流れる涙が頬に落ちる。
セザールは首の動く限りで辺りを見渡した。
どうやらここは、自宅近くの川の辺らしい。
空を眺めれば、遠くから薄赤い光が滲むように溢れだしている。
起き上がろうとするが、首と腹部が痛い。
ロジェに手を借り、やっとの思いで地面に座った。
「僕、一体どうなったんだ……天使様は……」
「天使様?」
ロジェは、二人がはぐれてから今までの事について語り出した。
セザールの姿を見失ったロジェは、通路を追った。
だが行き止まりに行き着き、一縷の望みに駆け地上を探すことにしたという。
水路の地図を見て、最も流れ着く可能性の高いこの川付近を見て回ったらしい。
「ああ、生きた心地がしなかったよ……ところで天使様って」
「赤い髪の、黒い服を着た綺麗な女性の姿をしていたんだ。
僕を神の元に運ぼうとしてくれた」
「天使、かぁ。
うぅん、うちの絵画にいる天使の姿とは随分違うけど、彼女が天使と言うならば、きっとそれは夢だ。
だって君は死んでない。生きてここに居るのだから」
そうだね。
セザールは空を仰いだ。
星は少しづつ姿を消し、新たな朝の光が覗く。
どうせ家に帰れば、こっぴどく叱られるのだろう。
ならば、もう少しこの空を眺めて居たかった。




