そう言えば手土産がない
随分涼しくなってきましたね
投稿無い日でもアクセスがあって嬉しいものです
序盤なのでほぼ毎話ですが、今回も新キャラ出てます
どこかのタイミングでキャラまとめとか出来たら良いなとか思うております
スカーレット家への訪問に向けて、仕事をする際の正装であるジャケット(エミリーからのプレゼント)に身を包んでいた。
ちなみに当然1階で実力者同士の密約が結ばれたことは知るよしもない。
(しかしエミリーの家に行くのは一年ぶりか?あ、そう言えば手土産もなにもないぞ。魔法具を戴くと言うのにこれは失礼では?)
それに気付いたラウルは急いで1階に降りるとエミリーに確認をする。
「エミリー!そう言えば何も手土産用意できてない」
「え、そんなのいいわよ。ラウルは顔出すだけで十分喜ぶから」
「流石に商人をしている人間としてそれはちょっと」
いくら親しい間柄とは言え、そういう部分はしっかりと筋を通さねばならない。
ましてや信頼や筋と言う部分が大事な商売を生業にしているものであるなら尚の事だ。
悩む二人を見たアルトリアも意見を出す。
「ならラウル、宿に置いてあるんだが、僕が買ってきた北都の伝統菓子はどうだい?この辺じゃ流通量も少ないし珍しいと思うけど」
「え、でもそれは渡す人居たんだろ?そこまで世話にはなれないって」
提案はありがたいが、そこまで世話になるわけにはいかないと思いやんわりと断りを入れる。
「じゃあ一回中央市場行く?時間的にはまだ余裕あるしお父様ならワインとかで喜ぶと思うわよ」
「お酒か。だったらカグラさんの所ならいいヤツが仕入れてあるはずだ、急いで行くか」
知り合いの酒蔵に勤める店主を思い出し準備を急ぐ。
中央市場に着いた3人はその足を急ぎ向かう。
そのなかでアルトリアはラウルに訪ねる。
「ラウル、そのカグラさんって何者だい?」
「知り合いの酒屋の店主だ。この辺で一二を争うくらいでかい酒蔵持ってて、リゼルハイトにおいてカグラさんが把握していない酒は存在しないって言われるくらいネットワークも広い人なんだ。そして鬼人だから酒は滅法強い」
「流石ラウル、顔が広いね」
「たまにロジャース商店でも酒の類いは扱うからな。公私ともにめちゃめちゃ世話になってる」
「そう言えばお父様も時々鬼人の店主からお酒を注文してるって言ってたような」
ラウルの話を聞いてエミリーも何か思い出したようだった。
「リゼルハイトで酒蔵を持っている鬼人はカグラさんだけだから多分一緒だ。良かった、なら少なくとも口に合う物はありそうだしカグラさんに選んで貰えるな」
「いや、まぁお父様ならラウルから何か貰えるだけで大喜びよ?多分その辺の草とか小石でも」
「流石に雑すぎるだろ。幼子でギリな物だからな」
そうこう話をしている内に目的地に辿り着く。
「着いたぞ、ここがカグラさんの所だ」
二人は思わず息を飲んだ。
リゼルハイトはレンガなど石造りの建物が多いのだが、珍しい瓦屋根と木造建築の酒蔵は二人の目を引いた。
「凄い、こんな立派な建物なのね」
「少し前に東都よりもっと東に行ったんだけど、そこでの建物の造りに似ている。木造建築は職人技が必要だと聞いているが、まさかリゼルハイトにこんな建物を建設できる人物がいるのか?」
「━━━そりゃアタシが極東出身の鬼人だからさ」
聞き覚えの無い女性の声がし振り替えると漆黒の長い髪をポニーテールのように括り、額には2本の角を生やした人物が立っていた。
そ
角以上に気になったのが、2メートルを超す長身であると言うこと。
3人を見下ろす形でその女性が続けた。
「ラウル、珍しいじゃないか。友人と一緒に来るなんて。………勇者アルトリアに魔法使いエミリーか。どんな関係だい?」
「「…ッ!」」
一瞬二人を見ただけで正体(?)が分かったことに対して反射的に警戒するが、ラウルがやんわり制止したことで落ち着いた。
「ちょっと用事がありましてね。この二人は俺の幼馴染みなんですよ」
「……ラウル、この人が?」
「ああ、カグラさんだ」
「はじめましてだな。アタシはカグラ、ここの酒蔵の管理者をしている。で、ラウル用件は?」
「ちょっと色々あってスカーレット家に行くことになりまして、手土産を購入したいんです。カグラさんの所からも良くお酒を買っていると聞いたので」
「あ~なら任せな。すぐに選んでやる。3人とも中に入って待つといい。喫茶スペースもあるからゆっくりしていきな」
蔵に入ると着物を召した齡10になるかならないかくらいの少女が深々と礼をして出迎えた。
「いらっしゃいませ、お客様。あ、ラウルお兄ちゃん!」
ラウルに気が付くと顔を明るくして駆け寄ってくる。
ラウルはそのまま少女を受け止める。
「こらルリ、今日のラウルはお客様だよ。席に案内しな」
「別にいいですよカグラさん」
「えーっと、ラウルその子は?」
エミリーに声をかけられたことで改まり2人の前に立つ。
「初めまして、ルリと申します」
「カグラさんの妹のルリちゃんだ」
「何であんたにそんなに懐いてるの?え、まさかそんな趣味が……」
若干侮蔑の目を見せるエミリー。
いくらラウルの事が好きでも幼女趣味は容認できない。
「違うって!昔カグラさんたちがリゼルハイトに来たての時ルリちゃんが迷子になったのを偶々俺が助けてあげたら懐かれたんだよ」
「ラウルお兄ちゃんは、ルリの恩人なんです」
ニッコリと屈託の無い笑顔を浴びせる。
直後気になったことについて質問をするルリ。
「所でお姉さん達はラウルお兄ちゃんのお友達ですか?」
「そうだよ。僕はアルトリア、勇者をしている」
「なんと勇者様ですか?いつもありがとうございます」
深々礼をするルリにアルトリアも少し苦笑いだが優しく応える。
「いいんだよ、君のような子供が笑って過ごせるならそれで十分さ」
「はい!
……えーっと、お姉さんの名前は?」
「エミリー・スカーレットよ。所でルリちゃん、ラウルのことはどう思っているの?」
「ラウルお兄ちゃんですか?勿論大好きなお兄ちゃんです。ここでお店が出来るのもラウルお兄ちゃんのお陰ですから」
「……?それってどういう」
「その話は気になるなら後でしてやる。ルリ、席に案内して飲み物を持ってくるんだ。
今回はアタシからのサービスさ、好きなものを頼むといいさ」
喫茶スペースに通されるとどうやらコーヒーが自慢の品とラウルから教わったのでそれを戴く。
「美味しい、とても酒蔵にあるコーヒーとは思えない」
「カグラさん曰く、清酒を作るのに水にこだわりがあってそれをコーヒーにも使っているらしい。その要領で夏場はかき氷も人気なんだとか」
「ごめんやっぱりアタシはミルク欲しいわ」
「上手く強みを共存させているのか。僕も色々コーヒーは嗜んできたが、ここのは最上位に入るな」
エミリーは苦味がやはりダメなようでミルクを求める。
アルトリアの口には合うようで誉めちぎっている。
「おや、魔法使い様は苦いのが得意じゃなかったか。いいよ、遠慮せずいれるといいさ。そして勇者様のお口には合うなんて光栄だね」
「早いですね、いいのありましたか?」
箱に酒瓶を入れて奥からカグラがやって来る。
優しく箱を机に置くと丁寧に並べ出す。
「スカーレットの当主さんならお得意様だからね。その上でとっておきを用意した。この辺はあの人が好きな銘柄のワインなんだが、丁度昨日新作を貰ってね。こいつを持っていくといい。後ついでに清酒もつけておこう」
「ありがとうございます。毎度毎度助かります」
「なに、他ならぬラウルの頼みだ。喜んで協力させて貰うさ」
ニッと豪快に笑みを浮かべるカグラ。
そして一瞬鋭い目線をこちらに寄越した。
「所で来たときから気になってたんだが、ラウル。お前さん何かあったな?」
「な、何がでしょう」
「おっと、隠し事かい?わざわざアタシのところの酒をもってスカーレット家に行くくらいだ。しかも勇者もつれてだ。そうなると結構な大事だろう。それともアタシにも言えないようなことかい?」
一瞬3人は目配せをする。
2人とも小さく頷いたため腹を括ることにした。
「今から言うことは公になるまでは他言無用でお願いできますか?」
「それはルリも聞いていい話なのか?」
「話さないと約束できるなら」
「勿論ラウルお兄ちゃんとの約束なら守ります」
宣言したルリの目は強い意思が見て取れる。
こんなところで嘘をつくような子じゃないのは分かっているので信用して口を開く。
「………実は、俺に勇者の加護が宿されました」
「………!?」
「!?……それは、本当か?」
「はい。その件を受けて昨日王と話もしてきました」
明らかに動揺しルリは驚きのあまり声も出ず、カグラは絞り出すように質問をした。
2人とも共通して驚きと思わず額に汗をにじませた。
そんな様子を見ながらラウルは続ける。
「王命により東都方面に向かうことになりましたが、準備を整える必要がありスカーレット家の魔法具を譲っていただける事になりました。故にお礼と挨拶の品を用意するためカグラさんの協力を仰いだんです」
「そういうことかい。分かった、ならアタシから祝いの品を寄越そうじゃないか。一先ずこの酒代は要らないよ。持っていくといいさ」
「そんな。それとこれとは話が別です」
「そうかい?………うん、ならあんたに依頼をしようか。東都方面にアタシの知り合いの鍛冶職人がいてね。そいつから荷物を受け取ってくれ。報酬先払いでその酒をやる。それなら構わないだろ?」
「………はい、ありがとうございます。では報酬ありがたく頂戴します」
「あいよ。ちなみにそいつの名前はクサナギって人間だ。もし旅を続けるとなるならそいつに色々頼むといい。魔法関係はアレだけど純粋に武具とか作る能力はかなり優れてるからね。まぁ祝いについては考えとくよ。ルリ、包みを持ってきてくれ」
包みに酒を入れて貰い、東都にいるというクサナギと言う人物の住所などのメモも受け取った。
「そう言えばいつ旅に出るんだ?」
「多分諸々準備して1~2週間後くらいですかね?」
「そうかい。まぁ多少戦う準備もあるだろうし、東都から帰ってきたときには顔出しな。盛大に祝ってやるから」
「ラウルお兄ちゃん、頑張ってね」
「ありがとう二人とも。じゃあ行ってきますね」
手土産を無事入手し二人に別れを告げた。
一行は改めてスカーレット家に向かうことになる。
しばらく歩いていると何か思い出したようにエミリーが質問をする。
「ねえ、ラウル。さっきは何となく聞きそびれたんだけどルリちゃんの話していたラウルのお陰でお店が出来るってどういうこと?」
「あ~、それか。………個人情報も含むから少しぼかして説明するけど、結構あの姉妹はワケアリな所があって極東から来てるんだよ。紆余曲折を経てリゼルハイトに辿り着いたんだが当然伝も何もないゼロベースでスタートした。その後ルリちゃんきっかけでカグラさんと知り合って相談を受けてたんだ。
で、極東でも元々手を出していた酒に関する仕事がしたいって言われたから当時ロジャース家が殆ど使ってなかった倉庫のあった土地を貸し出すことにした。出展に際してのギルド登録とかもウチが後ろ楯になってあげたんだ。稼ぎが出てから土地代は払って貰えばいいって契約で貸したんだけど、極東仕込みの酒は思いの外好評ですぐにリゼルハイト随一の酒屋になり今に至る」
「どうしてラウルはそんなすぐにカグラさんの後ろ楯まで買って出たの?変な話裏切られたり、もし変なことをされたらロジャース商店に傷が付くかも知れなかったのよ?」
エミリーの疑問は至極当然である。
見ず知らずの人物に土地を貸すだけではなく、商売を始めるにあたっての後ろ楯など一個人では普通好んで買って出る者などいない。
その疑問にはラウルは淡々と答える。
「うーん、何となくかな。俺ってこれでも人を見る目はかなりいい方だと思っている。今のところ手助けして失敗したってことは一つもないし、感覚的にこの人は大丈夫だって思ったからほぼ疑いゼロで決めたもんな」
「エミリー、これがラウルの良いところだろ?僕たちも昔からラウルのこの感覚に何度も助けられたじゃないか。だからラウルはこの国で随一の商人なんだよ」
アルトリアの言う通り、そういう部分がラウルの良さでありエミリーが惚れている部分なのだ。
だからラウル・ロジャースと言う人物は凄く、惚れてしまったのだと再認するのだった。




