先輩勇者の訪問
ちょいちょい投稿済みのも加筆始めます
台詞の間に描写を増やす程度です
そして文章量も徐々に増やすんで投稿頻度は減ります
━━━翌日。
意外とぐっすり眠ったラウルは、ドアを叩く音で目が覚める。
「………ん?誰だ、こんな時間から」
寝巻きの上に一枚羽織り階段を下りドアを開ける。
そこには爽やかな金髪のイケメンが立っていた。
「ずいぶん眠そうじゃないかラウル。情けない勇者様だ」
「………アルトリア?
━━━!?アルトリア!?何でここに。てか何で勇者の事を」
アルトリア・スカイ。
ラウルより頭一つ背が高く、美しい金髪が映え、瞳は鮮やかな蒼い目をしている。
ラウルとエミリーの幼馴染みであり、当代最強と評される勇者である。
「まぁまぁ細かいことは置いといて。上がってもいいかな?話があるんだ」
「あ、あぁ。何か飲むか?」
「それには及ばない。朝市でモーニングセットを買ってきた。食べながら話をしようか」
そういって左手に持った紙袋を掲げた。
どうやらドリンクに類いも用意されているらしい。
「流石アルトリアだな。じゃあ適当に座っててくれ。流石に着替えてくるから」
「じゃあそうさせて貰うよ」
近所にサクッと買い物に行けるくらいの格好に着替えて階段をかけ降りる。
「悪い待たせたな」
「気にしないでくれ。突然押し掛けたのは僕なんだから。それよりほら。これが最近人気のサンドイッチのセットらしい。勝手にコーヒーにしたけど、ラウルはミルクとか要らない人だったよね?」
「良く覚えてるな。毎度感心するよ」
「そう言うのはラウルの方が上だと思うよ。
と、まぁ本題も話そうか。ラウルに勇者の加護が付与されたってのは本当でいいんだね?」
「多分な。それを何でアルトリアが知ってるのかは分からないが」
サンドイッチに齧り付きながらアルトリアに視線を向ける。
「実は勇者になると新しい勇者の誕生を感知できるようになるんだ。ザックリだけどどの辺とかもね。でも今回感じた気配がこの森の周辺だったからきっとラウルだろうと思って、偶然リゼルハイトに帰ってきてたから顔を出してみようと思ったのさ」
「え、勇者パワー怖」
「そのうちラウルも使えるようになるさ。にしても、そうかラウルが本当に勇者になるとは」
腕を組み頷きながら笑みを浮かべるアルトリア。
対照的にジト目を向けるラウル。
「何か含みがあるな」
「いや、まさか。よく僕と二人で勇者ごっこで遊んだことを思い出してね。それに幼馴染みから僕ともう一人勇者が出るなんて嬉しいと思っただけだよ。ちなみにエミリーはこの事を知っているのかい?」
「当然のごとく知ってる。そんで来週東都に行けって王から言われてるけどエミリーが同行してくれる予定だ。今日はそれに向けて武器とかの準備をするって約束をしてるんだ。多分1時間もすればエミリーが迎えに来てくれる」
「ちなみにどこで用意するつもり?商人のラウルの方が詳しいかもしれないがリゼルハイトなら勇者御用達のお店は色々ある。けど、結構ピンキリだから気を付けた方がいいよ」
「いや、今回はそういうのには頼らない。スカーレット家にある魔法具を優遇してくれるらしい。戦闘経験の無い俺の護身用にって」
「ふぅん?………そう言えばラウルは【勇者権限】は確認していないのか?」
「何だそれは?初耳なんだが」
知らない単語に疑問符を浮かべるとアルトリアは少し表情をしまらせる。
「そうか、一般の人には知られていないのか。ラウル、勇者の加護ってどう言うものと認識している?」
「?……俺の認識じゃ身体能力や魔力量とかの成長を促すと言うか底上げをするみたいなイメージだが?」
「間違いじゃないけど、それだけじゃない。
じゃあ先輩勇者として説明しよう。
━━━まずラウルの言う通り勇者の加護っていうのは勇者としての能力を底上げするものさ。それはフィジカルであり、アジリティであったり、保有魔力量であったり。そして1つだけその勇者一人だけのユニークスキルというものが与えられる。それを【勇者権限】と呼んでいる。どう言うものが付与されるかはその人物の素養によって異なるから一概には分からない。けど、これが勇者の加護の根幹にあたる部分だ」
「権限の部分は初めて聞いた。勇者の加護ってそんな感じなのか。……差し支えなければアルトリアはどんな能力なんだ?」
「僕の場合はシンプルさ」
そういうと右手を前に翳す。
少しすると魔力の渦が生まれそこに手を突っ込むと、群青の剣を取り出した。
「この聖剣がそうだ。これは相手が強ければ強いほど切れ味や魔力を帯びた斬撃の威力が相乗されるというものだ。つまりは相手が強いほど僕も強くなるし逆に死ぬ確率が下がるんだ」
「なんだそのチート武具は」
簡単な説明でも理解できる超絶性能だ。
流石は当代最強の勇者と評されることがある。
しかし当の本人は少し認識が違うようだ。
「そうでもないさ。使い手である僕自身の力がないと意味がないから毎日死ぬ気で鍛えないといけないんだよ。いくら武器が凄くても使い手が弱いんじゃ意味ないからね」
「ふぅん?まぁそのうち俺も何かに目覚めるということか。あ、そうだ。折角ならこう言うものがあれば便利とかあれば教えてくれ」
「便利、か。………基本的に東都方面であればそれほど備えずともどうにかはなると思うよ。エミリーも一緒であればなおのこと。でもあったら便利なのはポーションだったり、防護系の魔法具じゃないかな?」
「防護系?攻撃系とか回復系じゃなく?」
「どっちもあるに越したことはないけど最優先がそうと言うことだ。多分ラウルでも1対1ならそれなりに魔物とも戦えると思うんだけど、実戦だと数が多すぎたりする。特に森とか川辺とかで囲まれると素人なら対処に苦しむと思う。万が一エミリーとはぐれてしまったことを考えると生き残るために手にしておくと良いと思う」
「なるほど、とても参考になる」
「ラウルの場合は倒すじゃなくて生きることを考えるのが先決だと思う。その思考の過程の先にあるのが勝利だからね。
それとさっきは東都方面はそれほど備えなくても大丈夫だと思うとは言ったけど忠告しておきたいことが一つあってね。エミリーも居るから大丈夫だと思うけど、東都方面には最近良くない噂がある」
「良くない噂?ひょっとして魔界側の幹部でも来てるのか?」
「当たらずとも遠からずだね。幹部とかではなく正確にはキメラタイプの魔獣がいるらしい。それも結構厄介で西の勇者が1人殺された。つい3日ほど前だ」
「!?……え、結構ヤバいところに行かされそうになってる?」
「だからラウル、旅に出る日程を教えてくれ。実はそいつの討伐を依頼されているんだが、ラウルが狙われないとも限らない。だからなるべく近くで行動をしたい。僕の読みが正しければ、その魔獣はA級魔法使いが複数人で完全に倒しきれるってレベルだと思う」
「わ、分かった。アルトリアがそこまで言うならマジなんだろうな。じゃあ、この後のスカーレット家の宝物庫にも着いてきてくれよ。真剣にアドバイスが欲しい」
「僕は良いんだけどエミリーが許可してくれたら、ね」
その後アルトリアの遠征の話など聞きながら朝食を食べていると家のドアがノックされる。
「ラウル?おはよう、迎えに来たわよ」
「エミリー、鍵開いてるから入って良いぞ」
「そう?じゃあお邪魔しま……す」
「やあ、久しぶりエミリー」
アルトリアと目が合ったエミリーは驚きで固まってしまう。
「え、アルトリア?何でラウルの家にいるの?北都に遠征してたんじゃ?」
「先日終わったよ。その後偶々リゼルハイトに帰る用事があったから、ついでに先輩勇者として話をしに来ただけだよ。
それより、ラウルから東都方面に向かうと聞いた。そしてこの後エミリーの家に行くことも。ラウルの為に僕もスカーレット家の宝物庫に連れていってくれないか?」
「それは構わないけど、あんたのパーティーメンバーはどこにいるの?あんたに対して結構めんどくさい獣人いなかった?」
「あぁ、キャロルか。昨日打ち上げで結構お酒飲んでマタタビやってたから宿で寝てるんじゃないかな?」
つまりは潰れてるし、起きてても二日酔いでまともに動けないと言うことだろう。
「……ウチで面倒事を起こさないならいいわよ。
それよりラウル。お父様に伝えたら二つ返事で快諾して貰えたわ。見たところ朝食も終わりそうだし、早く行きましょう」
「本当か、助かる。悪いけどちゃんと着替えるから二人とも待っててくれ」
「あ、片付けは私がするわよ」
「え、そんな客人に申し訳ないよ」
「気にしないで。時間を有効に使うため、ね?」
「じゃあありがとう。アルトリアは適当にくつろいでてくれ」
片付けはエミリーに任せて着替える。
台所に立ったエミリーはテキパキと洗い物を始める。
ラウルが上がったのを確認するとエミリーは少し鋭い目付きでアルトリアを見る。
「━━━で、本当の目的は?」
「本当の目的、というと何の事かな?」
「いくら幼馴染みとはいえ当代最強と評されるあんたがわざわざリゼルハイトに来てまで新米勇者のラウルにアドバイスをする理由が分からないの」
「……ラウルには少し話をしたが、結構ヤバめの魔獣が東都方面に現れている。恐らく幹部クラスが背後にいるキメラタイプだ。僕は正式にそいつの討伐依頼を受けているんだ」
「あんたが指名されるなんて、相当強いのね」
「……大まかにはラウルに同じことを説明している。そしてここはラウルに話していない部分だが、
━━━そいつは、新米勇者を狙うことが多いらしい」
「あんた、まさかラウルを囮に?」
驚きと怒りに似た感情が一気に渦巻く。
一方のアルトリアは少し視線を落としながら続ける。
「………そんなつもりはないけど、結果的にはそう取られても仕方ない。しかし勇者として討伐依頼を完遂する責務が僕にもある。だから、僕とエミリーで全力でラウルを守るんだ。それには僕のパーティーも協力を惜しまない」
嘘はない、間違いなく本音だ。
アルトリアがラウルを大事に思っているという事実はエミリーもよく知っている。
溜飲が下がりきらないが、一度深くため息をつく。
「━━━………はぁ。
もしも、ラウルに何かあったら。万が一命を落とすなんて事になれば私はあんた達パーティーを刺し違えてでも壊滅させる。その覚悟はあるかしら」
「ああ。ラウルは僕にとっても大事な親友だ。命に代えても守り抜く」
「いいわ、乗ってあげる。ちゃんとメンバーに話を通しておくように」
「勿論さ」
かくして当人の預かり知らぬところでリゼルハイト最高戦力同士による勇者ラウル護衛密約が交わされるのだった。




