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まさか俺が勇者に選出

━━━人生とは時に数奇である。

ラウル・ロジャースは目を覚ました瞬間に違和感を抱き、やがて確信した。

「………え、ひょっとして勇者の加護が付与されてる?」

確信の後思ったのは、何で?であった。

そもそも勇者とは魔王の脅威から人々を守るために天界に住まうとされる女神の加護を受けた選ばれし冒険者達の事を指す。

その加護によって元々習得している魔法のレベルや威力、身体能力など飛躍的に上昇がされる事が知られている。

一般的に勇者の加護が付与されるのは、肉体的・魔力的に成長の全盛期である10代半ばが最も多いとされ、遅ければ10代後半でも加護が付与された例があると言う。

つまりは成長の上乗せをするための加護と言う認識が正しいのだろう。

しかしラウル・ロジャース、現在24歳。

肉体的にも魔力的にも成長曲線は止まり、何もせず過ごしていれば徐々に肉体的には低下が始まるとされる年齢にあたる。

そして職業は中央都市【リゼルハイト】で代々商人を営んでいる、何て事の無い普通の青年である。

都市内において多くの冒険者や勇者達を相手に武具やポーション・薬草などの商売をし、時には他の都市にまで赴くことはあった。

その道中は一人で動くことも多い。

比較的安全なルートで移動しているが魔物や盗賊といった輩などとの遭遇も全くゼロではない。

そのため商人として生きていくために最低限身の護身術と簡単な魔法操作は習得している。

実際道中に魔物や盗賊の襲撃もなかったわけではないが、何とか凌ぐことは出来たこともある。

ただ、あくまでもその場を凌いだだけで戦ったとは言い難い。

とても本格的に魔族達と戦えるレベルではない。ましてや魔王なんてもっての他だ。

どうすればいいのかとても悩んだ。

いくら勇者の加護があるとはいえ、戦闘においてはド素人だ。

その辺の魔物であっても数が揃い戦えば確実に殺される自信すらある。

しかしながら、今すぐどうこうできることは無い。

ワンチャン夢であることにかけて二度寝を敢行することにした。





数時間後、目を覚ます。

しかし違和感は変わっておらず夢でも何でもなく勇者の加護が付与されてるらしい。

実はリゼルハイトには独自のルールがある。

それは勇者の加護が付与された場合、国王への報告義務があると言うこと。

だがここでラウルに悪知恵が思い付く。

よくよく考えれば王国側は勇者の加護の付与については何時誰が該当するのかは知らないのではないかと言うことである。

本来家族親戚から勇者が出ようものなら、一族総出でお祝いをすることも多い。

中には虚偽申請するものもいるくらい勇者と言う存在の価値は高いと言える。

ちなみに虚偽申告をした場合、財産の没収や王都追放と言うような非常に重たい刑罰が待っている。

しかし何れの場合も自ら申告したことで王国に知られている。

特に若い男子は勇者と言う称号に強い憧れを抱くが、ラウルの場合20代も半ば。

それなりに現実も見てきたし妙な夢や憧れを抱くような年齢ではない。

恐らく前例の無い年齢での勇者への選出は王国からしても想定はしておらず灯台もと暗しに違いない。

このまま黙っていればきっと多分バレないだろうと考えを纏め、一旦加護の付与についてはスルーすることにした。いざとなれば適当に誤魔化しは利くだろう。

記憶が正しければ加護の付与に際して未申告である事への罰則などは定められていないハズだ。

そもそも加護の付与を申告しない者はいないという前提だろうが整備していない方が悪い。

そう結論をつけると少し気が楽になった気がする。

気持ちを切り替えて朝食の準備に取りかかるのだった。



新聞を読みながらコーヒーを飲む。

リゼルハイトを中心に様々な土地での出来事を掲載している。

一面には各地で勇者が旅に出ると言うことを伝える記事もある。

改めて見るとこのリゼルハイトにおいて勇者と言うものがいかに特別で重要なのか考えさせられる。

一通り読み終え、この日の予定をどうするか考えていると呼び鈴が鳴らされる。

「ラウル~?起きてるでしょ?ちょっといいかしら」

聞き覚えのある女性の声がする。

玄関に向かいドアを開けると思った通りの人物が立っていた。

「おはようエミリー。こんな時間からどうしたんだ?」

エミリー・スカーレット。

身長はラウルの顎先程と小柄で深紅の髪を胸の位置まである長い髪がまず印象的であり、ローブ越しでも豊満な胸部が目立つ。

年齢は18歳で、リゼルハイトに7人しかいないA級魔法使いである。

何故そんな大物がわざわざ辺境の地にあるラウルの家に来たのか。

ラウルとエミリーの家は付き合いも長く、2人は所謂幼馴染みに該当する。

ラウルが商人として独り立ちし、実家を出てからも定期的にエミリーは訪問してくる。

エミリーはラウルの肩や頭などペタペタ触るとじっとこちらを見つめてくる。

髪と同じく深紅の瞳に少しドキッとしてしまう。

「ラウル、あんた身体とか異常ない?」

「え、どうしたんだ藪から棒に」

動揺しそうになるが必死に隠す。

「昨日の夜中にこの辺から妙な気配が降りてくるのを感じたのよ。悪い気配ではなかったから急いでは来なかったんだけど。でもこの外れた土地にはラウルしか住んでないから念のため様子を見に来たんだけど………いつも通りと言えばいつも通りね。何か気付いたりしたことある?」

「………さぁ?熟睡してたし分かんないな」

「そう。まぁラウルが無事ならなによりよ。それより折角朝から合流したしどこか遊びに行かない?今日はお店も休みの日でしょ?」

「エミリーは毎度急だな。いいよ、上がって待っててくれ。今しがた朝食を終えた所だ、準備するよ」

かくしてまずはエミリーを誤魔化すことに成功し、今日の予定が決まったのだった。

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