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行きなり実戦!?

忘れてた訳じゃないです

話を考えて形にするのに時間がかかるだけです

━━━翌朝。

極上のお風呂に入り、極上の寝具に身を投げた結果ラウルはここ数年で一番の良眠を経験することに成功した。

窓から差し込む日差しが目元に掛かったところで覚醒する。

「………ん?………朝か」

どうやら相当ぐっすりだったようで久々に目覚めは良好と言える。

しかし身体を起こしベッドから降りた瞬間、脚を中心に痛みが走る。

「━━━グッ!!い、痛すぎる」

心当たりはある。

恐らく昨日の魔法具を試した際の筋肉痛であろう。

脚のみではなく腕や肩周りも痛みを感じる。

「絶対昨日のが原因だ。やっぱあれだけエミリーの攻撃を受け止めたらそうなるか」

ゆっくりと立ち上がり筋肉痛を感じながら部屋に備え付けられている洗面台まで向かい整容する。

寝癖で乱れた髪は軽く濡らして潰した。

簡単に着替えも済ませると屋敷の庭に向かう。

とても綺麗に整えられた庭を一人で眺めたかったのだ。

朝も早いため誰もいないと思ったが先客があり。

そこには美しい金髪が一人。

「おはようアルトリア。早起きだな」

「おはようラウル。いつもの癖でね、日の出より早く起きちゃうんだ」

こちらに気付いたアルトリアは笑顔を見せる。

鎧ほど脱いでいるが着替えを終えていた。

「なるほどね。ちなみに何してたんだ」

「宝物庫で魔剣を探してたんだ。勿論ニコラスさんの許可は貰っている」

「そう言えば魔剣がどうこう言ってたけど何かあったのか?」

「ラウルに良さそうなのと僕が個人的に探しているものがあってね。それがスカーレット家に無いか気になってたんだ。僕の探し物の結果は不発だったね。ラウルに良さそうなのは幾つかあったから今のうちに見るかい?それともエミリーの意見でも聞くかい?」

「いや、魔剣ならアルトリアの方がよく知ってるだろ。俺はアルトリアのことを信頼してるし見繕ってくれたヤツを教えてくれ」

「ふふ、ありがとうラウル。じゃあ見ていこうか。これが攻防一体で使える魔剣だ。こっちは氷結系の魔剣で指輪との相乗効果が狙えるんだけど………」

アルトリアの見繕った魔剣の説明を一つ一つ受ける。

懇切丁寧な説明に関心をしている途中でアルトリアが動きを止める。

そして周囲を少し探るように見渡し始める。

「どうした急に黙り込んで」

「……ちょっと面倒毎になったかな?」

突如として屋敷を囲う森がざわめき出すのを感じた。

明らかにただ事ではないのはラウルでも十分理解できた。

直後パリィィィィィンと何かが砕ける音がした。

音の方角を見るとスカーレット家を囲っていた結界が一部壊れていた。

異変に気付いたエミリー、アーシャもすぐに窓から庭に降りてくる。

アーシャは既に着替えておりエミリーはパジャマの上にカーディガンを羽織るだけだった。

「ちょっと何事?」

「ごめんエミリー、ラウル。僕の考えが外れた。どうやら僕を追って彼女が来たみたいだ」

「もしかして、昨日言ってたアルトリアのパーティーメンバーの話か?」

「そうだ。僕がいないことでパニックを起こしたらしい」

「どうするの?ウチで荒事は困るんだけど」

「こうなったキャロルは結構大変だからね。しかし折角だ、ラウルに対応して貰おうか」

「本気?流石に荷が重いと思うわよ」

「え、何か恐ろしいこと言ってない?」

「大丈夫、僕とエミリーでサポートをするしアドバイスもしっかりするから。それにいくら暴走したキャロルといっても魔獣達と違って命までは狙わない」

「でしたらアルトリア様、私が結界を展開させますのでそこで戦ってはいかがでしょうか」

「出来ますか?」

「結界術は得意としております」

「ではお願いします。あと数分でここにたどり着くと思います。あとはラウルの覚悟しだいだ」

「……分かった、ベストを尽くしてみる」

「ありがとう。ではアーシャさんは結界の準備を。エミリーはいつでも加勢できるよう準備を」



アルトリアに抱えられラウルの寝ていた部屋に戻ってきた。

机に置いていた魔法具を手に取るとニコラスが着替えに用意してくれてた服に着替える。

黒を貴重とした下地に紅のラインが入っている。

左胸の辺りにはスカーレット家の家紋であるマーガレットをあしらった刺繍がされている。

「え、これって戦闘服?」

「どうやらそのようだね。しかも少しだけど魔法によって加護も付与されている。流石稀代の魔法使いニコラス・スカーレットだね」

「………よし、行くぞ。何をしたら良い?」

「一先ず庭に戻ってキャロルを迎え撃つ。多分装備はないけど身体能力と魔力量で押しきってくるハズだから注意して」

再びアルトリアに抱えられ庭に戻る。

既にアーシャは結界を展開させる準備をしておりエミリーは周囲の警戒をしていた。

「じゃあ説明だ。ラウルにはキャロルの攻撃を3分凌いで欲しい。暴走しているからその辺がスタミナが保つ限界だ。その後はキャロルが苦手な水属性の魔法具で拘束するんだ」

「でもそんな魔法具は昨日無かったぞ」

「それについては僕が持っている。この指輪を貸してあげるから使うんだ。刻印されている魔法は【アクアチェイン】と言う比較的初歩的なものだ。ターゲットをイメージして放てば使えるし扱いはさほど難しくない。ラウルの器用さならいけるはずだ」

「私は何をすれば良いの?」

「流石にバフなしでキャロルは難しいからラウルに身体強化の魔法をかけてあげて欲しい。後はアーシャさんのサポートも必要に応じて頼みたい」

「アルトリアはどうするつもりだ?」

「まずはなだめるつもりだ。それで話が付かなきゃ大人しくラウルのサポートに回る」

「ちなみにそれで大人しくなった試しは?」

「一回もないね」

「ダメじゃない。……いい?ラウル、無理はしちゃダメよ。本当にやばくなったら私とアルトリアで沈めることはできるから」

「ああ、二人がいるなら俺も頑張れる」

「二人とも、来るよ」

視線を向けると獣人が森を突っ切ってこちらにやって来た。

「フゥーフゥー、アルトリアはどこニャ!!」

紫色の髪に獣人特有の耳が目に入りノースリーブに短パンと動きやすさ重視の格好で尻尾は激しく揺れている。

こちらを見渡すとアルトリアを見つけたのか少し尻尾がピンとなる。

しかし直後エミリーの姿を捉えると再度尻尾が激しく揺れだす。

「またお前かニャ!魔法使い!何度アルトリアを誑かしたら気が済むニャ!!」

「だーかーら!!何度も言ってるけどアルトリアには一切興味ないから!私の本命は別に居るから!!」

「アルトリアのどこが不満ニャ!!」

「あーもうメンドクサイ!!アルトリア、やっぱりぶっ飛ばしていいかしら」

「エミリー気持ちは分からなくもないけど落ち着いて。キャロル、僕は友人の付き添いでここにいるだけだ」

「じゃあ何で私を置いてきたんだニャ!裏切りだニャ!!」

「それは君が酔い潰れて動かなかったからだろう。第一みんなも一緒にいたはずだ」

「知らないニャ!私を置いていくアルトリアにはお仕置きが必要ニャ!!覚悟するニャ!!」

アルトリアは一応なだめようとはしたものの、寧ろ悪化してしまった。

「ごめんねラウル。じゃあ任せたよ」

「お、おう……マジか」

アルトリアに促され前に出るラウル。

ラウルを見たキャロルは怪訝そうな表情を浮かべる。

「そいつは誰ニャ?」

「僕の親友のラウルだ。僕と同じ勇者に選ばれた。悪いけどキャロルにはラウルの初陣を飾らせて貰うよ」

「何か分からないけど、憂さ晴らしに付き合うなら容赦しないニャ!!」

右足を引くとキャロルは一気に地面を蹴りあげてこちらに肉薄する。

右腕には魔力が帯びており必殺の威力は必至。

直撃すれば致命傷は避けられない。

距離が5メートルを切った瞬間アルトリアは号令を出す。

「アーシャさん、今だ!」

「承知しました。━━展開!」

結界の展開に気付いたキャロルはラウルへの肉薄をキャンセルし後方に退く。

しかし既に射程圏内に入っており5人は結界内部に導かれた。

距離がある今のうちがチャンスと次の指示を出す。

「エミリー、ラウルにバフを」

「分かったわ。━━━天与術式【ビルドアップ】」

ラウルの背中に触れながら発動される術式。

身体中を術式が駆け巡り馴染んでいくのが理解できた。

「ラウルの身体能力を5倍くらいまで引き上げたわ。でも後で反動があるから無理はしないこと」

「ラウルまずは簡易術式でヒット&アウェイを意識するんだ。決してキャロルの得意な肉弾接近戦には付き合わないように。人間と獣人じゃフィジカルが違いすぎるからね」

「了解」

こちらを警戒するキャロルは前線に出てきたラウルを再度視界に捉える。

「フン、魔法で身体強化したからと言って私には遠く及ばないニャ。大人しくサンドバックにされるといいニャ」

そう言うと先程同様キャロルの右腕に魔力が帯び始める。

左半身を前に出し構えを取る。

再び地面を蹴り上げると今度は先程よりも少し速く肉薄してくる。

だがエミリーからのバフのおかげか、今度は先程よりもハッキリとキャロルの動きが見て取れた。

振り下ろされる右腕を紙一重ではあるが回避に成功する。

「!?」

まさか自分の攻撃が躱されると思わなかったのかキャロルは驚きの表情を浮かべる。

その隙にラウルは攻勢に転じる。

左手の指輪に魔力を込めて至近距離のキャロルに向かって魔法を放つ。

「簡易術式【ファイヤブラスト】」

威力自体は対してないが完全に無防備な身体に放ったことでその勢いのままキャロルは後方に飛ばされる。

ただ空中で身を翻し着地を決めると間を置くこと無く再度こちらに肉薄する。

だが先程と事なり直線的ではなく結界内を縦横無尽に動き回りラウルを翻弄する。

(さっきは舐めすぎたけどこれならどうニャ?いくらバフをかけてもこの縦横無尽の動きは付いていけないはずニャ)

スタミナには自信があり翻弄し続ければ隙が生まれて一撃で仕留められると踏んだのだ。

ましてや勇者になりたてなら戦闘経験は皆無に等しい素人だ。対策など出来ようがないと思ったのだ。

だがラウルの戦闘IQはラウル自身でも想像できないほど高いと思わされることとなる。

「簡易術式【アクアカーテン】」

冷静に自身の周囲に水の壁を展開させる。

ラウルを中心に半円の水の壁が出現しその姿を隠す。

(コイツ、私が水嫌いって知って?さてはアルトリアかニャ)

ほぼ間違いなくアルトリアからの入れ知恵と確信したキャロル。

しかしニッと口元を綻ばすキャロル。

(水で覆えば来れないと思ったかニャ?残念、水は嫌いだけど別に突破できない訳じゃないニャ)

一度後方の結構の壁に足を着けるとそこから屈伸運動を交えてロケットスタートのごとくラウルに向かい一直線に迫る。

「アイディアは認めてやるけど浅知恵でやられるほど私は頭に血が上ってはいないニャ!!」

魔力を帯びた右腕の一撃が壁にぶつかる。

勢いそのままに水の壁を破り上半身が壁の中に入る。

だがその瞬間キャロルは致命的なミスを犯した。

(おかしいニャ、何で水とはいえ壁がこんな易々破られたニャ)

その瞬間水の壁の強度が増しキャロルの腰辺りでホールドした。

更にラウルを見ると右手に水色の短剣を手にしている。

(━━魔剣!?)

「━━━氷結!!」

水色の魔剣を地面に刺す。

その地点は濡れており水の壁に連なっている。

気付いた時には既に遅い。

瞬く間に壁が凍りキャロルを上半身下半身と隔てるように固まったのだ。

「━━簡易術式【アクアチェイン】」

アルトリアから託された魔法具を使用し水の鎖でキャロルの上半身を捉える。

「離すニャ!!」

「アルトリア捉えたけどどうすればいい?」

騒ぐキャロルを無視しアルトリアに確認をあおぐ。

軽々とアクアカーテンを抜けてラウルの隣に来たアルトリア。

「お疲れ様ラウル。想像以上の動きだすごいと思うよ」

「そりゃどうも。それよりここからどうするんだ?」

「任せて。━━━キャロル、今回の件は僕が悪かった。彼は勇者ラウル。僕の一番の親友なんだ。彼のために僕は力になりたいと思い僕の意思でここにいる。でもキャロル達を見捨てた訳じゃないよ」

「………本当かニャ?」

「勿論。特にキャロルは僕の最初の仲間だ。駆け出しの僕に着いてきてくれた君を見捨てるなんてあり得ないさ」

「うぅ~……今回は許してやるニャ」

「ありがとうキャロル。それと、それはそれでみんなに謝るように。勝手に人の土地に襲撃はいくらなんでもやりすぎだ」

「す、すみませんでしたニャ」

「アーシャさん結界はもう大丈夫です。ラウルも魔法を解除してあげて」

アルトリアの促しで二人は術を解除する。

するとキャロルはすかさずラウルに詰め寄る。

「お前中々いいセンスをしてたニャ。まさか私があんなあっさり捕まるとは思いもしなかったニャ。あの作戦はいつ考えたんだニャ?」

「アルトリアからこのアクアチェインの指輪を貰った時にですね。偶々アルトリアからこの氷結の魔剣を渡して貰ったときに指輪との相乗効果の話があったんでもしかしたら使えるかもって思い」

「なるほどニャ。お前はいい勇者になると思うニャ」

「珍しいねキャロルが素直に褒めるなんて」

「正面から負けたから認めざるを得ないニャ」

遅れること少ししてアーシャとエミリーも合流する。

「アーシャさんありがとうございました。エミリーも魔法ありがとう。おかげでなんとか戦えた」

「いえ、私は屋敷を守る命がございます故」

「ラウル凄かったわ。アルトリアの話とか覚えて実戦で活用できるなんて才能よ!私驚いちゃったもん」

「何とか戦えたから良かった。これで東都くらいならエミリーの足を過剰に引っ張らず済みそうだ」

「さぁキャロル、領主に謝罪をしにいくよ。僕も着いててあげるから」



屋敷の窓から一連を見ていたニコラスは口元を綻ばす。

「やはりラウルは面白い」

「あなた、良いものは見れたかしら?」

「ああ、ラウルの才能は本物だ。これは我々も手厚くサポートをしようじゃないか」

かくして本人が預かり知らぬところでリゼルハイト最大級の名家から手厚いサポートが決まったのであった。

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