スカーレット家にお泊まり
ゲートを潜り来た時に通った噴水の前に出てきた。
ただ周囲はすっかり暗くなっており雰囲気がまるで違った。
「では戻りましょうか。旦那様と奥様がお待ちでございます」
アーシャの先導でディナールームに向かう。
屋敷の2階に位置するディナールームは大人数での会食やちょっとしたパーティーくらいは出来そうなくらい十分な広さが見て取れた。
そこに設置された長方形のテーブルの上座の方に家主のニコラスとエミリーと同じく紅い髪が特徴的な美女━━━シャルロット・スカーレットも座っていた。
客人であるラウル達がいるからか深紅のドレスを纏っているようだ。
「お帰り三人とも。良いものはあったかい?」
「ありがとうございますニコラスさん。無事に良さそうな魔法具を選定出来ました。
そしてお久しぶりですシャルロットさん」
ニコラスへの感謝を述べてからこの日まだ出会ってなかったシャルロットに挨拶をする。
「フフ、いいのよラウルくん。この人も言ったと思うけどラウルくんは私たちの息子みたいなものだから遠慮とか要らないわよ。それよりも今日のディナーは久々に本気で腕を振るったわよ。何せラウルくんが勇者になった記念だもの」
テーブルに視線を向けると肉類海鮮類など多種多様なおそらく高級な品が並べられていた。
その様子に驚いたラウルを見てニコラスが説明をする。
「今は家に一人だろう?家族が勇者になれば総出で祝うのがリゼルハイトの習わし。なら家族同然のラウルが勇者になったのなら我々が祝わねば誰が祝うか」
「そうよラウルくん。今日はお祝いだから遠慮しないでね。勿論アルトリアくんもよ。ささやかだけど北都遠征の労いもかねてるから」
「僕にまでありがとうございます。元々スカーレット家に大きな支援をいただき冒険が出来ている身。このような場まで感謝申し上げます」
「固いことを言うなアルトリア。さぁ座ると良い。固い話は無しで楽しもうじゃないか」
ニコラスの促しで三人とも席に座る。
「アーシャ、三人に飲み物を。ラウルとアルトリアはお酒は飲むか?丁度ラウルがくれたお酒を開けてみようと思ったのだが」
「じゃあ少しだけ」
「僕も少しだけ頂戴します」
「お父様今日は私も飲んで良いかしら?」
「珍しいな。いいよ、折角揃ったんだ」
ちなみに都市によって法律は違うがリゼルハイトは18歳を越えるか、15歳以上の魔法使いであれば飲酒は合法である。
アーシャがワインを運んでくると全員のグラスに注ぐ。
「では、勇者ラウルの誕生と勇者アルトリアの北都遠征終了を祝して、乾杯」
簡素に乾杯の音頭を取りグラスを掲げた。
ワインを一口含むと驚いた。
「美味い……流石カグラさんの選んだ品だ」
リゼルハイト随一の酒蔵を営んでいるだけあり質がかなり高い。
「料理も遠慮しないでねラウルくん、アルトリアくん。ワインに合うように作ってみたから」
「ではいただきます」
ローストビーフを取り口に運ぶ。
「……!めちゃめちゃ美味しいです」
「ふふ、それは良かったわ」
その後はシャルロットの料理を堪能しながら、主にアルトリアの旅の話で盛り上がった。
1時間ほど談笑をしつつ食事をしていたが、少し風に当たりたくなったラウルはテラスに出て夜空を見上げる。
すると後方から声をかけられる。
「隣、いいかな?」
「アルトリア、勿論良いぞ」
横に来たアルトリアに対して思ったことをラウルは口にする。
「やっぱりおまえは凄いよ」
「どうしたんだい藪から棒に」
「いや、さっきの話を聞いてると勇者って言う存在がいかに偉大でスペシャルなのか分かったからさ。こんなロクに修行とかもしてこなかった対して若くもない俺が勇者って何の手違いだ、って感じだよ。間違いなく史上最弱勇者だと思うからこれだけ本気で策を講じようとしてるんだけどな」
「まぁ、実際カタログスペックならそうかもしれないね。でもラウルにも特別な部分はある。ラウルはそこの強みを伸ばせばラウルの思い描くような勇者にもなれると思うよ」
「やっぱりアルトリアは優しいや」
「お世辞じゃないよ?僕は本気でそう思っているから」
「なぁ、アルトリア。お前が勇者になった時ってどう思った?」
「………難しいことを聞くね。でもそうだね、何と言うかある種使命感はあったよ。実は僕のお祖父さんは勇者だったんだ」
「初耳だな」
「言ったこと無いからね。聞くところによれば結構強かったらしいけど、とある出来事をきっかけに戦うことが出来なくなったらしい。その話を聞いていつか僕がリベンジをしたいって思ってたから、そういう意味じゃ使命感だね」
「巡り合わせってヤツだな」
「そうだね。じゃあ僕からも質問いいかな?」
「何だ?俺に聞くことなんてないだろ」
「簡単な質問だよ。ラウルってエミリーの事をどう思っているの?」
「!?」
「あぁ、安心して。別にエミリーを狙ってるとかじゃないから。ただ、あの子は結構露骨にラウルにもアプローチ掛けてるのにのらりくらりしてるから理由が気になったんだよ。親友同士話を聞きたい。別にエミリーのこと嫌いじゃないんだろ?」
「………絶対にエミリーに言うなよ?」
「勿論」
「………そりゃエミリーは強いし女性としても魅力的だ。でも、肝心の俺が釣り合ってない。方やリゼルハイト随一の魔法使い。方やリゼルハイトでそこそこ名の知れた商人。どう考えたって釣り合ってない」
「なるほどね。でも良かったじゃないかラウル」
「何がだ?」
「君は勇者になった。勇者と魔法使いなら誰も文句は言わないよ」
「………。まぁ、色々考えとく」
「良い報告待ってるよ」
そんな話をしていると丁度エミリーもやって来た。
「ラウル、アルトリア。お母様がデザート用意してくれるって」
「了解。まぁ、まずは無事に冒険を終えることだ」
そう言うとラウルは先に部屋に戻った。
「………大丈夫だ。何があっても僕が君を守ってあげるから」
普段のアルトリアからは想像もつかないくらい、どす黒い何かが瞳に宿っていたがそれを見るものは居ない。
そしてアルトリアのその台詞は他の人物に届くことはなかった。
デザートも堪能したところでこの日泊まる部屋に案内された。
数年前まではスカーレット家に泊まることはしょっちゅうありラウルに対しては半ば専用の部屋が宛がわれている。
今回も例に漏れずその部屋に案内される。
ただ客室のあるフロアではなくそれより上の階にあるエミリーの私室の隣と言うのは昔からの疑問である。
ちなみにアルトリアはVIPを泊める際の客室に案内されていた。
ここしばらくは泊まる機会もなかったがラウルに関しては私物が幾つか置いてあり、おおむね自宅と変わらぬ快適さはある。
少しベッドに横になり天井を見上げ、左右の指にある魔法具をまじまじと見つめる。
今までの自分の指には無かったまだ似つかわしくない代物に不思議な感覚を抱く。
(魔法……ね。実際付け焼き刃でどれだけ戦えるかは分からないけど、エミリーのサポートもあるならいけるか)
しばらく考え込んでいると部屋の扉がノックされる。
返事をするとアーシャが扉の向こうにいるようだった。
「失礼しますラウル様。湯殿の準備が整いましたのでお迎えに参りました。入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、鍵も開いてるんで」
するとタオルと衣服を持ったアーシャが入室する。
「こちら、お着替えとタオルでございます。もし選択が必要なものがございましたら浴場の籠にお入れください。翌日の昼までに洗ってお返しできる状態にしておきますので」
「ありがとうございます」
「ちなみに浴場の場所はご存知でしょうか?」
「以前から変わってないなら大丈夫です」
「でしたら私はこれで失礼させていただきます。ごゆるりとお過ごし下さい」
用件が済むと足早にアーシャは退室した。
置かれた服を確認すると、以前泊まった時に預かってもらっていたものであった。
着替えとタオルを手にすると浴場に向かうことにする。
ちなみにラウルのいる部屋にも浴室はあるが、精々一人二人が入れば窮屈な一般的なサイズのものである。
ラウルの記憶が正しければ浴場に関しては大衆浴場ほどのサイズがありサウナまで完備されているはずだ。
ならば折角の機会と思い部屋から出たのだ。
長い廊下を歩き一回にある浴場に向かう途中、タオルと衣服を持ったエミリーと遭遇する。
「ラウルもお風呂?」
「あぁ。部屋にもあるけどやっぱり折角ならスカーレット家の広い浴場に入りたいと思ってな」
「そうね、ウチのお風呂は並みの温泉にも負けないから存分に堪能すると良いわ。所でアルトリアは?」
「分からん。て言うかフロアが違うから把握しようが無い」
「そっかアルトリアは滅多に来ないから部屋が客室だったわね。…………ならチャンスかしら(ボソ)」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないわよ。それより実はウチのお風呂改修したの知ってる?」
「いや初耳だな。前の時点でも十分良かったと思ったけど何が変わったんだ?」
「最近の流行に乗っとりサウナが出来たのよ。是非試してみて」
「へぇー、サウナは入ったこと無いから楽しみだ」
そうこう話をしていると浴場入り口にたどり着く。
「じゃあ風呂上がったら部屋に戻るしまた明日な」
「ふふ、ゆっくり堪能したら良いわ」
エミリーと分かれて脱衣所に入る。
脱衣所から広く作られており空調もしっかりしており特有の湿度や不快感は殆どない。
魔法具も含めて全て脱いで湯船を確認する。
「なるほどな、これは確かに素晴らしい」
お風呂を堪能するラウル。
一方その頃女子風呂にいるエミリーは画策をしていた。
(今男風呂にはラウルしかいない。突撃するなら、今!)
そう思い、女子風呂から男子風呂に突撃しようとした。
が、
「━━━お嬢様、なりません」
「ア、アーシャ!何でここに、て言うかなんで止めるの?」
「奥様からの命でございます」
「お母様が?」
「はい、仕掛けるなら今ではなく旅を終えてからが良いとの事です」
「旅を終えてから?何で?」
「曰く、旅の達成感と相まってメチャメチャ興奮するから、だそうです」
「!?」
その瞬間エミリーの脳内に稲妻が走った。
「そ、そうね。普段はガードが固いラウルもそこなら隙を見せるだろうし、アドレナリンが出て判断もおかしくなって勝算が上がる!」
エミリーの気付きにアーシャはニッと笑い答える。
「流石にございますお嬢様」
とても残念なことに、この場にツッコミはいない。
これがスカーレットゆかりの女性なのである。
そんな悪魔の会議を知らないラウルはただゆっくりとお風呂を堪能し、静かに部屋に戻り眠りについたのだった。
触れるタイミング無かったんで補足しますとスカーレット家は代々女系であり、婿を貰うことで名を残しています
つまりエミリーのグイグイ行く感じはスカーレット家を象徴する性格と言っても過言ではありません




