攻撃ってムズくない?
防護系の魔法具を追加で3つほど試してみた。
エミリーには魔法の属性を変えたり織り混ぜたりの攻撃もして貰いつつ対応と道具の選定をする。
一旦持ち運びに差し支えの無い5つの魔法具をキープすることとなり、次の問題である攻撃系の魔法具選定に差し掛かる。
数メートル隣の区画に攻撃系の魔法具は連なっている。
ただ数は先ほどの防護系と比べてもかなり多いラインナップとなっており少し驚いた。
「え、さっきより多いんだけど」
「どうしても人々は攻撃と言うものに目を向けがちだからね。魔法具を作成依頼する人も攻撃に対してのバフだったり全く違う属性の攻撃を使えるように依頼をするんだろう」
「なるほどね。じゃあアルトリア、選定のポイントを教えてくれ」
「そうだね。勿論威力があるに越したことはないけど、その分当然反動が来る。さっきの防護系でも相当疲れただろうけど、多分その比じゃないから注意だ。だから選んでも第二術式相当まで。あとはバフをかけるタイプが望ましい。あと当てるの結構難しいからそこも考えるように」
「了解。じゃあまた選んでから集合で」
(しかし攻撃魔法って魔法具に入っているものでもこれだけ種類があるのか。アルトリアは第二術式相当までって言ってたが、ベースは第一相当を狙った方がいいかな)
極々簡単な魔法は使えなくもないが、戦闘向けの攻撃魔法は未経験だ。
一方エミリーに関しては流石魔法使いということもあり攻撃系の道具の選択はスムーズだ。
その最中、ある事実を思い出した。
それを確認するためラウルのもとに駆ける。
「ラウル~確認したいことがあるんだけど」
「………エミリー?どうした、何かあったか?」
エミリーの声がする方に向かうとやや慌てた様子でラウルに駆け寄ってきた。
「そう言えば思い出したんだけど、10年くらい前にラウルに魔法教えなかったかしら。ほら、ラウルの誕生日にウチでパーティーしたでしょ?その時私が【ファイアブラスト】とか教えたはずよ」
「10年前……?誕生日?」
記憶を掘り起こす。
そもそもほぼ毎年スカーレット家でラウルの誕生会が開かれており、それ自体は珍しいことじゃない。
色々思い返す内にピンときた。
「━━━………あぁ、そう言えば!でもあれっきり使ってないから今使えるかは分からないぞ」
「そんなこと無いはずよ。基本的に一度覚えた魔法ってのは余程の事がない限り忘れたり使えなくなる事って無いんだから」
「そう言うものか?」
「ええ、そうよ。一応魔法の基礎があると言っても良いから話が変わってくるわ。一旦アルトリアも読んで作戦を練り直すわ」
そう言うとエミリーは再び走りだしアルトリアの元に向かう。
その頃アルトリアはラウルが扱えるであろうギリギリの魔法具を探していた。
それには明確な理由があった。
(多分ラウルの事だから第一相当までしか選定し無いはずだ。なら僕が選ぶべきは使えるギリギリの奥の手を渡しておくことかな)
アルトリアはラウルの事を結構評価はしている。
正直未確認ではあるが、ラウルのこれまでの生活の事を考えれば歴代最弱の勇者である可能性はかなり高いと思っている。
だがそれはあくまで額面上のステータスなどの話であり、その実ラウルの戦闘IQは高い方だと考えている。
と言うのもラウルは昔から観察眼の鋭さと物覚えの良さがあったからだ。
その器用さは戦場に置いても大きくアドバンテージになり得る。
だから余程の事がない限りは第一相当で十分上手く立ち回ると信じているが何があるか分からないのが戦場だ。
故の奥の手なのだがそれはそれで悩んでいた。
(さて、ラウルがどこまでの魔法具に耐えられるのか。そこが分からないから選ぶのが難しい)
そんな中エミリーがやって来た。
「アルトリア、ちょっと作戦変更。集合して」
「ん?分かった」
気になった魔法具を2つほど手にして合流をする。
「それで作戦変更っていうのは何かあったのかい?」
「思い出したんだけど、私昔ラウルに魔法を教えたことあるのよ。だから今使えるか確認しようと思って」
「昔ってそれくらい前のこと?」
「10年くらいよ」
「10年か……。エミリー、多分だけど難しいと思うよ?」
「え?でも一度覚えた魔法ってそうそう忘れることはないじゃない」
「一個重大な思い違いをしてるよエミリー。それは魔法使いや冒険者など常日頃魔法に触れている者だからだよ。ラウルのように魔法を使わない人だとそもそも魔力回路自体が機能しにくい。回路を慣らしてから実用レベルまで持っていくには流石に時間が足りないと思う」
「そっか。ごめんなさいラウル。ぬか喜びさせちゃって」
「良いってば。俺のことを思って言ってくれたんだから責めたりはしないよ。でもアルトリア、ちゃんと調整すれば使えるようにはなるのか?」
「時間はかかるけど出来るとは思うよ。興味があるなら後でやり方教えてあげるよ」
「じゃあそれはそれで頼む。んじゃ改めて探すか」
再度魔法具探索を始める。
そして30分ほどが経過し各々見繕った魔法具を持ち寄る。
魔法具を見せ合う前にアルトリアが尋ねる。
「ちなみにラウルはどういう攻撃をしたいとかある?」
「どういうのか。………安全圏から一方的に攻撃したいかな?」
「素直だね。でも理想はそれで良いと思う。さっき選んだ防護系との兼ね合いも考えて選んだ。それとエミリー、もしあるなら魔剣を見せてくれないか?ラウルの切り札に欲しい」
「魔剣?えーっと何処だったかしら。後でお父様に聞くで良い?」
「それで構わない。じゃあ今はこっちを確認しよう」
ラウルが持ってきた魔法具は防護系と同様に指輪タイプと先程のアルトリアが持ってきたような短剣タイプである。
「アルトリアが言ってたように第一までに留めた。ちなみに第二は正直扱えると思えなかったから止めといた」
「慎重だね、でも良いと思うよ。第二と言っても結構幅があるからその辺は僕やエミリーが選んだ方が良いと思うよ」
「じゃあ試したいんだけどアルトリアかエミリーどっちか良いか?」
「じゃあ次は僕が相手をしてあげるよ」
そう言うと魔法具を手にしたラウルとアルトリアは結界の中に入る。
「勿論遠慮は要らない。本気で僕にぶつかってくるといい」
「了解。じゃあ早速行くぜ」
左手の指にはめた指輪を前に出すと埋め込まれた宝珠が紅く光る。
「━━━簡易術式【ファイアブラスト】!」
魔法を展開すると炎の弾丸が顕現する。
手を振りかぶるとアルトリアを目掛けて解き放つ。
当然ながらエミリー程の速度と威力はないがアルトリアに迫る。
しかしアルトリアは全く動く気配もなく術式を見届ける。
躱すという動きを放棄していたが全てアルトリアに当たることなく後方に攻撃が通過した。
後方は地面が抉れ土煙が舞っている。
追加で数回術式を放つも何れも一つとしてアルトリアに当たりそうになることすらなかった。
「………一発も当たらずか。ちなみに何かしたのか?」
「いいや、何もしてないよ。これが最初に言った当てるのが難しいって話だ。今の僕のように動かない的であっても的確に当てるのは難しい。例えるならボールを投げて狙った的を捉えることはできても、ボールを蹴ったり道具で打った際は狙った場所に正確に当てるのは相当訓練が必要だろう?それに近い話だよ」
「なるほど、分かりやすい例えだ。と言うか魔法との縁が無かったから感覚が無さすぎて難しい。動く標的とか当てられる気もしないんだが?」
「そればかりは訓練と慣れもある。もっともエミリーのような天才タイプには聞いても分からないと思うよ。そうだろエミリー?」
「嫌な言い方ね。でもアルトリアの言う通り私は最初からその辺の感覚があったからアドバイスしたくても出来ないわ」
「必要なら僕のパーティーにいる魔法使いから指南を受けても良いと思うよ。彼女はエミリーのような才能型じゃなく努力型だからラウルの苦労も理解してくれるはずさ。ちょうどリゼルハイトにいるし明後日にでも出来るようお願いしとくよ」
「助かる。じゃあ次は短剣の方を試させてくれ」
「いつでもいいよ」
短剣を構えると埋め込まれた宝珠が光り出す。
「━━━簡易術式【ウィンドスラッシュ】」
短剣を振るとその射線上にかまいたちのような風の刃が発生しアルトリアに迫る。
魔力を帯びた手刀をもって肉薄する刃を全て叩き落とすと言う荒業で凌ぐ。
だが先程のファイアブラストとは異なり短剣から発せられることからある程度コントロールは出来るようだった。
一旦ラウルの攻撃が終えるとアルトリアは笑顔を見せながら感想を述べる。
「うん、良いコントロールだと思う。一旦は短剣タイプを軸に攻撃は組んだ方が楽だと思うよ。左右の指輪で系統が違うものを扱うのは慣れが必要だからね。後は狙うべきポイントをしっかり押さえるべきだがそこは後で教えてあげるよ」
「………マジで攻撃ってムズい」
「そうだろうね。東都に出る前に近隣の獣や魔獣を狩るといいよ。可能な限り僕も付き添うし多分エミリーが基本ついていくだろう?」
結界の外にいるエミリーに尋ねると即答する。
「当然よ。ラウルの行き先に私が行かない理由はないわ」
「ところでラウル。確認だけど利き手は右だよね?」
「そうだけど、一応左手でも色々出来るぞ」
食事も書字も基本的には右で行うが何となく幼少の頃から練習していたこともあり、大抵のものが左右同等に扱えると言うまずまず珍しいほぼ両利きである。
「なら右手で扱うのを防護系、左手で扱うのを攻撃系の魔法具にするのはどうだい?多分同じ手で異なる系統を扱うのは大変なはずだ。僕的には防護系はかなり重要だから反射的に扱える利き手にそれを持っていきたい」
「分かったそれで練習してみるよ」
アルトリアの提案を了承するとあと2人が持ってきた魔法具を試すことになる。
結局色々試した結果として防護系3つと攻撃系は4つ採用する運びとなった。
組み合わせなど検討していると三人を呼び掛けてくる声が。
「━━━お嬢様、ラウル様、アルトリア様。お時間でございます」
声の方を見るとアーシャが迎えに着ていた。
「もうそんな時間か。じゃあ切り上げようか、ありがとう二人とも」
「良いわよ。細かいことは明日決めましょう」
アーシャに続いて数時間ぶりに宝物庫から出るのだった。




