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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
最終章 世界の反逆者
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エピローグ

最後は・・・爽やかに終るつもりです。

 柔らかい日差しが朝の生徒会室を照らしている。

 相変わらず生徒会室は書類と私物で溢れかえっている。一見すれば汚い光景かもしれないが、何故かとても暖かく感じた。

 そんな朝の生徒会室の扉がゆっくりと開かれた。生徒会長、南風渚が入ってくる。

 扉が開かれたことで、一枚の写真が床に落ちた。愛斗のスナップ写真で笑顔の愛斗が写っている。

 それを拾い上げた渚は微笑んだ。写真を机に置き、鞄を床に下ろす。椅子を引いて座ると、もう一度その写真を眺めた。そして呟く。

「ねえ、愛くん。愛くんのお陰でみんな幸せになれたわ。町には活気が戻ったし、政治も良くなった。差別も前ほど酷くなくなったし、何より笑顔が溢れているわ」

 渚は写真を壁に貼りなおした。丁寧に、そして想いを込めて。

 渚は笑って、机を整理し始めた。私物を片付け、書類を纏める。これから毎日、行っていく作業だ。でも退屈じゃない。この日常が幸せだった。

 生徒会長の席に座ると、扉の小窓に人影が見えた。ゆっくりと扉を開けて、入ってきたのは秀人とイヴォン、その間にはリリーがいる。まだゆっくりとではあるが、リリーも一人で歩いている。

 渚は微笑みかけた。

「リリーちゃん、今日から学校かしら?」

「いえ、まだです。でも今の内に見学しておこうと思ったんです」

 リリーも笑顔で答えた。秀人とイヴォンも生徒会室を見回した。相変わらずの汚さだ。リリーは壁に貼ってある愛斗の写真に気付いた。

「これは?」

 渚がその写真を外し、リリーに渡した。

「これはね、愛くんが初めてここに来た時に撮った写真よ。生徒会に誘ったら、入ってくれたわ」

 リリーも愛しそうにその写真を見つめた。

「他の写真も無いんですか?」

 リリーの問いに、渚は思い出したようにファイルを取り出した。何冊かのファイルにはタイトル欄に名前が書いてある。

「生徒会メンバーの写真はここに別々にファイリングされいるわ。これが私、これが秀人君ね。こっちがイヴォン君、これがクローディヌ、こっちのは愛くんよ」

 リリーは愛斗のファイルを開いて、可愛らしく首を傾げた。

「これだけですか?」

「そうね。愛くんの写真は全部で三枚しかないのよ」

 リリーは三枚の写真を見た。一枚は先ほど見たもの、二枚目は学園祭の時のもので、コスプレをしている。三枚目は格納庫で撮ったもので、愛斗と秀人、ロラン、セドリック、アルヴィなど中隊のメンバーが写っている。

「愛斗さん・・・幸せそうですね・・・私にも笑顔を見せてほしかったです」

 リリーは愛斗の写真を見ながら呟いた。秀人とイヴォンも少し項垂れる。ファイルを閉じたリリーは渚の方を見て呟いた。

「渚さん。私に愛斗さんの話をして下さい。私の知っている面も皇帝としての面も全て・・・」

 渚も嬉しそうに頷く。

「いいわ。でも沢山あるから大変よ」

「構いません。お願いします」

「そうね、じゃあまず・・・」

 秀人とイヴォンも聞き始めた。四人は仲良く愛斗の思い出について話すのであった。





「待てよ、カミーユ!落ち着いていこうぜ」

 ロランが学園の広場でカミーユに引っ張られていた。

「ダメ。早く校内見学しないと・・・」

「分かったから落ち着こうぜ。学校は逃げないって!」

 ロランはあの戦いでいい感じになったカミーユと一緒に復学した。カミーユは転校初日で、校内見学に張り切っているのだった。

「よし!じゃあまずは格納庫に行こう!いい場所だぜ」

「いいわ。じゃあ早く、早く」

 二人は並んで走り出した。そんな幸せな様子を屋上から眺める青年がいた。ジェラルドだ。

「ったくよ~。あいつ等、朝っぱらからイチャつきやがって・・・場所を考えろよな・・・」

 ジェラルドも制服を着ていた。今日からこの学園に入学するのである。

「まあいいではないか」

 後ろから聞こえた声にジェラルドは反応した。急いで振り向く。後ろに立って居たのは海星だった。

「何だ・・・なんか用か?それより何で学校にいるんだよ?」

 海星は頭を掻きながら、軽く笑い始めた。

「今日からこの学校で体育教師だ。ビシバシ扱いてやるぞ」

「あんたが教師か・・・いいかもな・・・こういうのを幸せって言うのかね?」

 ジェラルドは呟いた。

「そうですとも」

 気付くと後ろには中年教官のオスカーがいた。

「誰だ?」

「私は秀人君や愛斗君たちの担当教官だったものですよ。彼らは成長してくれました」

 ジェラルドもニヤリと笑った。

「そうだな。これが日常なんだな・・・」




 ジェラルドが呟いているころ、学園の門を潜る女子生徒が一人いた。桃色の髪をした女性はナーシャだ。

 ナーシャは着慣れない制服を着て、呟いた。

「何よこれ!着にくいし、動きづらいし・・・それに平和な学園だし・・・馴染めるかしら・・・」

 ナーシャはずっと戦う騎士の身であったため、こういう雰囲気は苦手だった。

「でも・・・退屈はしないかもね・・・」

 一言付け足した。



 新たに立て直された政庁府の一室では、二人の兄妹が旅支度をしていた。カリーヌとシルヴェストルだ。二人はあの戦いの後、長い因縁の折り合いをつけて、また兄妹としてやり直すことを決めたのだった。

 そんな支度をしている中、部屋に入ってくる人影があった。シルヴェストルがそれに気付く。

「あ!総督閣下!」

 入ってきたのはギレーヌだった。彼女は照れくさそうに微笑んだ。その後ろには昔と変わらずにクリスがいる。

「総督閣下は止してくれ。私はただのギレーヌだ」

「はい。ギレーヌさん」

 シルヴェストルも微笑む。

「お二人はもういかれてしまうんですか?」

 クリスが尋ねる。カリーヌが元気良く頷いた。

「はい。戦争も終りましたし、地元に帰ってのんびりと農業でもします」

「そうですか。それは羨ましいですね」

 クリスが穏やかな表情で同意する。シルヴェストルがギレーヌを見て尋ねた。

「ギレーヌさんはこれからどうします?」

「そうだな・・・私はゆっくりと過ごさせてもらう。戦争はもう御免だよ。日本は彼女に任せる」

 ギレーヌが後ろを見た。後ろには少女が立っていた。

「どうも。ウチは鳳凰院絢や。日本はこれからが華やで、頑張らんといけんな~」

 カリーヌが笑い、シルヴェストルも微笑む。

「頑張ってください。応援していますよ」

 そう言い、握手する。時計を確認して、カリーヌは鞄を背負った。

「じゃあ、そろそろ飛行機の時間ですので、さようなら」

「ああ、さらばだ」

「お元気で」

 二人とギレーヌたちは最後に抱擁し、別れた。




 熱海の小高い丘の上に愛斗の墓はあった。リリーが必死に頑張って建てられたものだ。

 今はエティエンヌが管理をしている。エティエンヌは墓の前に立ち、花を添えた。そして片膝をつき、深く頭を下げる。

「ヨハン様・・・いえ、陛下。世界は全て陛下の思惑通りに幸せに向かっております。この世界、陛下が創り上げた未来は私が責任を持って守り上げていきます。だからご安心ください」

 エティエンヌは静かに立ち上がった。

「エティエンヌ卿!宴会が始まります!」

 後ろからライナーの声が響いた。菱華もいる。エティエンヌは手振りで返事を返し、心地よい空気を思い切り吸った

「陛下が望んでいたのはこの世界だったのですね・・・」

 エティエンヌはそう呟き、墓を後にした。




 涼風が高原を泳いでいる。

 ここスイスは何時も変わらぬ青空があった。何処までも緑が広がる高原と、高いアルプスの山々。撫子はそれにひかれてこのスイスにやってきていた。

 撫子が今、居るのはアルプスの麓の高原だ。下にはアルヴィの生まれた村があり、ここら辺には放牧された羊がたくさんいる。

 撫子は高原の牧草に仰向けに寝そべり、空を眺めていた。羊の一匹が撫子の傍らに座る。

 撫子は羊を撫で、空を仰いだ。そして本を開く。

「愛斗・・・これはお前に読んだ物語だ。そしてこの物語のラストはお前に読まなかった。何故なら、この物語のクライマックスは間違っていたからだ。書き直さないとな」

 撫子はペンで文字を書き込んでいった。そして羊達を見回す。

「子羊達よ。英雄の物語をこれから読んで聞かせよう。よく聞けよ」

 撫子は本を脇に置いた。そして呟く。

「悪魔の力、ブリューナクは世界を滅ぼす。ふふ、ブリューナクの意味さえも覆したか・・・なあ?愛斗よ・・・」

 一陣の風が撫子の髪を吹き抜けた。本のページが自然に捲れる。

 空は青く、何処までも澄み切っていた。


今までご愛読ありがとう御座いました!

実はもう一話番外編があるのですが、爽やかに終りたい!という方は見ないほうが良いかもしれません。主人公が死んでしまったんだから、切ない感動が味わいたい!という方はどうぞご覧下さい。

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