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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
最終章 世界の反逆者
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五十五話 熱海会見

 神聖ストライダム帝国皇帝専用艦、ドレッドノートは熱海まで残り三十分の距離まで近づいていた。

 日本から奪還に成功したドレッドノートは再び、愛斗の元に戻ってきた。ドレッドノートは名付け親の元に帰ってきたのだ。

「美しいな。相変わらず」

 司令室の玉座に座る愛斗は目の前に広がる伊豆半島の全景を見て、感想を漏らした。

「そうでしょう。ここは有名な観光地らしいですから」

 ライナーも愛斗に同意する。

 今回の熱海会見に同行するのは専属執事のライナーと内政補佐官のマリア。一応、護衛としてロランを連れて来ているが、それ以外の軍人は連れて来ていない。秀人にはロイックと一緒に別の任務を言いつけてある。

 ティアナは着いていくと言い張ったが、愛斗の説得で何とか思いとどまったらしい。

 それにしても厄介なものだ。今回の会見の真意は講和を結ぶ事にある。こちらの戦力が完全ではない以上、不本意な争いは避けたいのだ。今回の会見での講和はそのための保険に過ぎない。 

 国力回復・・・。愛斗はこのことだけを考えて、無理やり富国強兵の政策を行ってきた。

 まず手始めに植民地の統一、ノーマルに対する差別の撤廃だ。植民地であれ、全国民は自分の下に統一しなくてはいけない。共和国との戦争は総力戦でなくては厳しい。全国民を統一させるためには全ての差別を無くさなくてはいけない。そのために財閥を解体し、地方行政を見直したのだ。

 これらの政策のお陰で貴族や皇族からは恨まれる事になったが・・・。愛斗は自分に異議を申し立てる貴族や皇族から地位を奪い取り、追放した。その中でも有能な者はブリューナクで強制的に配下にした。無駄に忠誠心の高い宮殿付きの使用人も同じ手段で従わせた。このことを知っているのは一部だけだが・・・。

「陛下、着艦いたします。御準備を」

 ふとライナーの声で我に返る。愛斗は最近の出来事に浸っていて、ボーッとしていたようだ。

「ああ、分かっている。マリア、行くぞ」

 愛斗は玉座から立ち上がり、昇降タラップへと向かった。



「いや~、久しぶりやな。能面の百鬼を見るのも」

 リリーとイヴォンの隣では絢がタラップから降りてくる一団を見ながら感想を述べていた。

「まあ俺も愛斗と直に会うのも久しぶりかな」

「私もです。久しぶりに話が出来たら嬉しいですけど・・・」

 それぞれの思いを胸に秘めながら、三人はタラップから降りてくる人物を窺った。

 三十人程の親衛隊がタラップから降りてきた。それに続くように茶髪で長髪の女性が見えた。その後ろにいるのは・・・。

「愛斗・・・」

 イヴォンが呟く。

 何時もと同じ白を基調とし、赤や黒、青など様々な色の絹が使用された正装は様々な宝石で彩られていた。 そして、愛斗は悠然と歩みを進める。その姿は聖君と言っても過言では無かった。

「素晴らしいな」

 ヴィルフリートの声で三人は後ろを振り返った。

「君達、そろそろ澪坂邸に移動してくれ。会見を行う」

 三人は名残惜しそうに愛斗を見てから頷いた。



「ではこれから会見を開始します」

 フェリクスの言葉で両者が向き合った。会見を行うのは澪坂邸の和室だ。

 愛斗が帝国側の中央に座り、その右脇にはマリア。その左脇にはロランが座っている。専属執事のライナーは愛斗の後ろに立っている。

 共和国側の席は中央にヴィルフリート、その両脇に井崎と海星。海星の隣にはリリーをイヴォン、井崎の隣には絢だ。

「では講和条約の要綱を読み上げよう。一つ目に両国が互いの領土を侵さず、現在互いの領土に兵力が存在している場合は条約締結から三日以内に撤退する事。二つ目に互いに平和のために協調し、現在他国に対して行っている侵略活動を三日以内に中止する事。三つ目に軍事力を削減する事。以上の項目を承認していただけますかな?」

 ヴィルフリートがまず手元の書類を読み上げた。通常ならばここで異議が出る。それから三日ほど話し合い、それから条約が締結する。

 しかし、愛斗の口からはあっさりとした言葉が出た。

「分かった。その条件を全て承認しよう。但し、私がここに締結の印を押すのは、休憩を挟んでからだ」

 愛斗の口から出た言葉にヴィルフリートは不敵な笑みを浮かべた。

「では休憩をにしよう。皆、少し寛いでくれ」

 和室の緊張がとけ、皆が姿勢を崩し小声で話し始める。

 愛斗は立ち上がり、イヴォンに近づいた。イヴォンとリリーは近づいてくる愛斗に少しだけ恐怖を覚えた。イヴォンは勇気を振り絞って、近づいてくる愛斗と向かい合った。

「愛斗・・・何か用か?」

 イヴォンは自分でも声が震えているのが分かった。しかし、愛斗の口から出た言葉は以外なものだった。

「イヴォン、リリーを俺に少しの間預けてくれないか?少し散歩がしたいんだ」

 イヴォンはリリーを見た。リリーはイヴォンの視線を受け取ったのか、決心したように頷いた。

「分かった」

 その言葉で愛斗はリリーを抱きかかえ、庭にある車椅子に乗せた。リリーと愛斗の去っていく姿をイヴォンは複雑な気持ちで眺めていた。



「久しぶりだな。こうして二人で歩くのは」

 愛斗は車椅子を押しながら、家の前の土手を歩いていた。昔と変わらない田園風景は愛斗の心を奥底から癒していた。

 リリーも愛斗の優しい声と言葉に、警戒が解け始めた。

「そうですね。あの頃は目が見えなかったですけど、今は見えます。綺麗な風景ですね。こんなに綺麗なものが傍にあって見る事が出来なかったなんて・・・」

「でも今は見える。それでいいだろう?」

 リリーは笑顔で頷いた。愛斗も同じ様に微笑んだ。

「そうだ。あそこに行こう。覚えているな、何時もの川を」

「あのザリガニを取った川ですね。懐かしいです。ザリガニはどんな形をしているんでしょうか?」

「そうだな・・・鋏があるぞ。挟まれない様に気をつけろ」

 愛斗は昔と同じように、車椅子を止めてリリーを抱きかかえた。そのままリリーを抱えて、土手をゆっくりと降りた。

 昔、愛斗とリリーのお気に入りだった川は今も変わらずに透き通っていた。リリーが恐る恐る川を覗き込むと、小魚が驚いて逃げていった。

「愛斗さん。お魚さん捕まえられます?」

「やってみるか?」

 愛斗は邪魔な長衣を脱ぎ捨て、ラフな格好になり、リリーを抱えて川に入った。愛斗は川の中の大きな岩にリリーを座らせた。

「愛斗さん?」

「待ってろ。今、ザリガニを捕まえてやるぞ」

 愛斗は石をどけて、赤い生き物を手で掴んだ。それをリリーの目の前に出した。

「これがザリガニだ。結構、大きいだろう?」

「うわ~、凄いです。結構怖いですね。持ってみても平気ですか?」

「ああ、挟まれるなよ」

 リリーはザリガニの腹を掴もうとした。それを見た愛斗は慌てて、リリーに注意した。

「リリー、ザリガニはな背中を持つんだ。腹を持つと挟まれるぞ」

 リリーは挟まれる事を想像したのか、少し身震いした。

「ほら、今度はちゃんと背中を持つんだ」

 リリーは愛斗の忠告通り、ザリガニの背中を掴んだ。ザリガニは捕まれた驚きからか、じたばたと鋏を動かして抵抗した。抵抗しても敵う筈が無いのに、その小さな生き物は抵抗し続けた。

 まるで私みたい・・・。リリーは心の中で呟いた。

 私みたいな弱い生き物が世界を変えようなんて、初めから意味が無かったのかもしれない。私は愛斗さんに今まで頼って生きてきた。

 でも、もう愛斗さんは昔みたいに何時も傍にいてくれるわけじゃない。私は愛斗さんにとっての”何”だったんだろう。

 リリーはふとそんなことを考えてしまうのだった。

 愛斗はリリーの気持ちを察したのか、優しい笑顔で微笑んだ。

「大丈夫だ。お前との約束は守る」

「約束?」

「そうだ。お前は今は忘れているかも知れない。そのうち思い出すよ」

 愛斗は透き通る川を見た。午後の暖かな日差しの中、蝶が草むらから羽ばたいた。

「魚を捕まえてみようか?見てみたいだろう?」

「お魚さんを?」

「ああ、でも見たら直ぐに逃がしてやらないとな。魚が死んでしまう」

 愛斗は魚を捕まえるため、しゃがもうとした。その時だった。愛斗の胸を締め付けるような痛みが襲った。ブリューナクの副作用だ。

「うっ!」

 愛斗は胸を押さえ、川に膝をついた。荒い息で必死に酸素を取り込もうと、息をしている。

 いきなり倒れた愛斗を見たリリーはパニック状態に陥った。

「愛斗さん!どうしたんですか!」

 リリーは愛斗に近づこうと、手を伸ばした。

「触るな!」

 愛斗の怒鳴り声にリリーはビクッと手を引っ込めた。愛斗は苦しげな声を絞り出した。

「平気だ・・・少し体調が悪いだけなんだ。心配するな」

 愛斗はゆっくりと立ち上がり、リリーを抱きかかえた。

「今日はもう戻ろうか?イヴォンが心配する」

 愛斗は頼りない足取りで川岸へと向かった。

 リリーは自分を恥じた。

 私はこんなに苦しんでいて、弱っている愛斗さんに頼っているのか・・・。私は愛斗さんのやっている事を否定する権利は無いのかもしれない。私なんか・・・。

「リリー、お前のせいじゃない。お前は心配するな」

 愛斗は川岸に置いてある長衣を肩に背負い、土手を登った。

 土手の車椅子にリリーを乗せ、ゆっくりと押した。

 澪坂邸の前にはイヴォンが立っていて、リリーの姿を確認すると走って近づいてきた。

「リリー、おかえり。どうだった?」

「いえ、愛斗さんが・・・」

 愛斗はリリーの言葉を遮る様にイヴォンに頼みごとをした。

「イヴォン、リリーを頼むぞ」

 愛斗は澪坂邸から出て来たマリアの肩を借りて、邸内に入っていった。

 リリーは自分が途轍もなくちっぽけな存在に感じた。

 所詮、私なんて・・・。

 何も出来ない女なんだ。

 リリーは黙り込んでしまった。イヴォンもその気持ちを察したのか、リリーの肩に優しく手を置いた。

次回予告

「お前は俺の妹だろう?」

この一言がティアナの運命を変えた。

愛斗は諜報部を潰すために中東の砂漠へと向かった。

そこに現れる強敵とは?

次回五十六話「諜報部奇襲作戦」お楽しみに

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