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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
最終章 世界の反逆者
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五十二話 偽りの妹

今回は新キャラが一気に三人登場です。

沢山のキャラを最終話までに上手く処理しきれるかが不安になってきました。

 中東の砂漠のど真ん中に存在する巨大な施設。その名を「特殊諜報部」といい、皇国の情報網とも言える組織である。この組織を束ねる長こそが帝国副参謀であり、レオンハルトの望んでいたブリューナクの融合を独自に研究していた人物、フェリクス・バウアーである。

 彼は頭脳明快な人物だが一つ欠点があった。

 その欠点とは、イレギュラーに対応出来ないという事だけである。この欠点は軍の副参謀として重大な欠点だったが彼はこの欠点を別の長所でカバーしていた。

 彼は参謀としては考えられない程のEMA操縦技術を持ち合わせていた。しかし、彼は滅多なことで前線に出ることはない。彼は参謀であり、前線に出て戦う暴力行為は苦手なのだ。


 そのフェリクスは今、諜報部の司令室で目の前の巨大なスペースに広がる光景を満足そうに見ていた。巨大なスペースに広がっているのはとてつもなく大きな骨組みだ。形からして戦艦のようだが、詳しいことは分からないのが現状であり、知っているのは腹心の部下だけであった。

「完成は後どのくらいの予定ですか?」

 フェリクスは手元のモニターで情報を見ながら脇に控える部下に尋ねた。

「はい、このまま進めば後一ヶ月後の予定ですが」

「中々順調ではないですか。結構」

 フェリクスはモニターからふと目を離したかと思うと、深い溜息をつき考え事をしているかのような表情を見せた。

 傍らの男はそんなフェリクスを珍しそうに眺めた。

「如何しましたか?貴方がお考え事とは珍しいですな」

 フェリクスは顔を上げ、笑顔に戻った。

「いえ、新皇帝のことがどうしても頭に引っ掛かってしまいましてね」

「澪坂愛斗のことですか?ヴィルフリート殿下はまだ何も手を打っていない様ですが・・・」

「何、殿下の考えは私がよく分かっています。ただやはり保障が欲しいのですよ」

 フェリクスはそう言い、また考え込む素振りを見せた。

「フェリクス様」

 後ろから唐突に少女の声が響いた。フェリクスは振り向き、その人物の正体を悟る。

「ああ、ティアナですか。どうしました?」

 ティアナと呼ばれた流れるような黒髪に見るものを吸い込みそうな漆黒の瞳を持った少女は書類をファイルから取り出し、フェリクスの前に置いた。

「書類をお届けに参りました。では」

 フェリクスはそんな少女の後姿を見て、ある妙案を思いついた。

 彼女の容姿を上手く利用した方法を思いついたのである。

「貴方に緊急任務があります。よろしいですね?」

 ティアナは頷き、フェリクスの話に耳を傾けた。



「その様な任務を急にとは・・・何か相当お焦りのようですね」

 フェリクスは苦笑いをした。

「その通りです。私は小心者ですので。で、引き受けて下さいますね?」

「ええ、でも周りくどい任務ですね。殺したいのならそう仰って下さればよろしいのに」

「いえ、あくまでも殺すのは最終手段です。では澪坂愛斗の監視を頼みましたよ」

 ティアナは頷き、フェリクスの前から忽然と掻き消す様に姿を消した。

「相変わらずの能力ですね。碧眼とは」

 フェリクスは不思議な笑みを浮かべた。



「愛斗、見せたい物って何だ?」

 秀人は愛斗に呼び出され、中庭へ愛斗と共に向かっていた。

「お前に見せたい物と紹介したい人がいる」

 愛斗は中庭にある格納庫に秀人を連れていった。秀人は訝しげに格納庫を見た。

「この中にある」

 愛斗は格納庫の扉を開け、秀人を招きいれた。秀人は恐る恐る中に入った。そこにあったのは壊れたはずのスピッツオブヴァーニングであった。

「僕の愛機が何故ここに」

「直したんですよ。大分強化させてもらいました」

 突然の声に秀人は肩を震わせた。

「誰ですか?」

 秀人は自分の愛機の足下に座っている若い男性を見つめた。

「彼は優秀なエンジニアだ。アルヴィに代わって俺やお前の精鋭機のサポートとバックアップをすることになった。名前は・・・」

「ロイック・ミュルンハイムです。よろしくお願いします。秀人卿」

「ああ、こちらこそ」

 ロイックは薄い茶色の髪に細い目を持った青年だった。顔には幼さが今だ残っている。

 秀人はロイックと握手を交わし、早速機体に乗り込もうとした。

「秀人卿。その機体名は正式名称「スピッツ・オブ・インフェルノ」。通称、インフェルノです」

 秀人は頷き、ロイックが投げたキーを受け取った。その時だった。

「陛下、お客様ですが」

 秀人はその声の方向に目をやった。格納庫の扉の前には一人のメイドが立っていた。

 愛斗はその姿を確認し、メイドの方を向いた。

「分かった。今行く。それと・・・」

「いえ、陛下。その必要は御座いません。すでにこちらに向かっておりますので」

 メイドは無機質な声で愛斗の言葉を遮り、次の愛斗の指示を待った。

「分かった。下がれ」

 愛斗は追い払うように手を振った。メイドは素直に頷き、格納庫から出て行った。

 秀人はメイドの様子を見て、愛斗に問うた。

「なあ、愛斗。今のメイドも強制的に従わせたのか?」

「そうだ。帝宮付きの使用人は忠誠心が高いからな」

 愛斗はそう一言言うと、格納庫から出て行こうとした。それと同時に格納庫の扉から一人の人影が入ってきた。逆光でよく見えないが、髪からして女性で歳は愛斗や秀人より年下だろう。

「お兄様!」

 その少女は入ってくるなりそう叫んだ。そして愛斗に抱きついた。愛斗は突然の出来事に驚いて、尻餅をついた。

「何だ!貴様は!」

「お兄様は私のことは知らないのですか?」

 愛斗は記憶を探ってみたが、そんな風に呼ばれる覚えのある人物はいない。

「悪いが思い出せないな」

「私はお兄様の妹です。お兄様はご存知ないのでしょうけど」

「ああ、初耳だな。俺に兄妹はいないはずだが・・・それにお前の名前すら俺は知らないぞ」

 秀人は二人の会話を聞いて、ある事を考え付いた。

「愛斗、もしかしたら愛斗の親は隠していたんじゃないか?危険から遠ざけるために」

「そうです。私の名前はティアナ・ストライダム。れっきとしたお兄様の家族です」

 愛斗は疑う目でティアナを睨んだ。

「では聞こう。何故俺が日本で戦っていた時に俺の前に姿を現さなかった?」

「それは澪坂愛斗がお兄様だって分からなかったからです。皇帝になった時に本名を明かされたので漸く分かったんです」

 愛斗は何故かそれを聞き、不敵な笑みを浮かべた。

「そうか。ならこれからは俺たちに協力してくれるな?」

「もちろんです!お兄様の為なら何でもします!」

「分かった。ロイック、格納庫からオプティックを出して来い。ティアナの専用機にしてやろう」

 ロイックは頷いた。

「それとだ。新しい量産機はどうなった?」

「順調に進み、完成いたしました。近日中にテストを行います」

「そうか。予定通り先行試作機はロイヤル・セブンスに支給しろ」

「ユア、ウィル」

 ロイックはオプティックをスタンバイさせるため、格納庫から立ち去っていった。ティアナもそれに続いた。

 ティアナが立ち去っていったのを見て、秀人は愛斗に尋ねた。

「珍しいな。愛斗が初見の人間を信用するなんて」

「まあな。少し考えがあるだけだ。お前は撫子を呼んできてくれ。あいつに頼みたい仕事がある」

 秀人は疑問を残した顔で頷き、格納庫を後にした。愛斗はインフェルノの傍らに座り、撫子を待った。



 こちらはハワイ、皇国軍の臨時総司令部だ。

 愛斗の策で国を奪われた皇国軍は一先ずハワイに司令部を置き、様子を見ることにしたのだ。今、司令部の会議場には聖霊騎士団の面子とイヴォンとリリー、その他に後から合流した東部方面軍総司令官であるギレーヌなども集まり、臨時総司令であるヴィルフリートを待っていた。

「何故、殿下は何も手を打たないのでしょうかね?」

 聖霊騎士団団長、ライヒアルトにそう話し掛けたのは同じく聖霊騎士団の団員、リーベルト・グラハムだった。

「黙っていろ。殿下の考えは私達などには分かりはしない。言葉を弁えろ」

 ライヒアルトの厳しい言葉にリーベルトは静かになった。それと同時に会議場のドアが開き、ヴィルフリートが姿を現した。その後ろにはフェリクスの代わりに井崎と海星がついていた。

 ヴィルフリートは会議場の中央の席に座り、全員を見渡した。

「聖霊騎士団、カミーユ・ドルゴポロフ。彼女は皇帝の誘いを断り、我らの下に帰還してくれた。その他の聖霊騎士団もほとんどがもう一度皇国に戻ってきてくれたことには感謝している」

 ヴィルフリートはカミーユと聖霊騎士団を褒め称えた。その次に暗い顔で話し始めた。

「しかし偉大なる聖霊騎士団にも遂に二人、裏切り者が出たのは事実だ。識神秀人卿、エティエンヌ・グナイスラー卿。この二人には我らの勝利の後、厳罰を下さなければならない」

 ヴィルフリートの話を遮る様にリリーが手を挙げた。

「リリー殿、如何しました?」

 海星がリリーを見て、微笑む。

「いえ、愛斗さんが皇帝になったって本当ですか?」

 ヴィルフリートが小さく頷いた。

「事実だ。このままではヨハンが世界を手に入れる可能性がある。我々はそれをなんとしても阻止しなくてはならない」

 井崎もヴィルフリートの後ろで頷いた。

「奴は人を駒同然に扱う暴君だ。悪の皇帝から世界を救うのが我々の使命であろう」

 リリーは頷けなかった。愛斗はまだリリーの中では最愛の、世界に一人しかいない大事な人だ。それを討つことなんてリリーには出来る筈が無かった。

 そんなリリーの様子に気付いたのか、ヴィルフリートはリリーに向かって微笑んだ。

「リリー、君がヨハンのことが好きなのは知っている。だから安心してほしい。殺したりはしないからね」

 リリーはその言葉を聞き、ほんの少しだけ安堵した。ヴィルフリートは井崎に軽く会釈をした。

「暗い話はここまでだ。君たちに紹介しなくてはいけない人たちがいるのだ。入って来たまえ」

 ヴィルフリートの後ろの扉が開き、二人の人物が入ってきた。一人は見覚えのある男性、もう一人は初対面の女性だった。

 ギレーヌが男性の方を見て、驚きの声を上げた。

「クリス!生きていたのか!」

 クリスは苦笑いを浮かべた。クリスは首都包囲戦の時にコードフェニックスに巻き込まれ死亡したとされていたからだ。

「すいません、姫殿下。少しハワイまでの間、苦労しまして」

 クリスと感動の再会を果たしたギレーヌは少し涙ぐんでいた。続いて海星が女性の方を見て、目を丸くした。

「カノン!?何故ここに?」

 戴冠パレードで死亡した浅代カノンに生き写しの女性は海星を睨みつけた。

「私は憎き澪坂愛斗に殺された妹、カノンの姉よ。あいつに復讐をするためにここまでやってきたのよ!」

 ヴィルフリートがカノンの姉を名乗る女性を紹介した。

「彼女は今も言ったとおり、カノン殿の姉上である浅代あさしろ菱華りょうか殿だ。彼女には私達の指揮下に入って貰う」

 ヴィルフリートは二人を席に座らせ、真剣な顔で話し始めた。

「ここからが本題だ。現在国に所属していない我が軍は日本の現在の総司令である鳳凰院絢殿と話し合い、日本の東京を首都に、新国家であるストライダム共和国を建国することになった。レオンハルト前皇帝陛下の雪辱を晴らす為にも我々は協力しなくてはいけない。よってこれより日本へと移動する。皆の物、準備に取り掛かれ」

「殿下」

 ライヒアルトがヴィルフリートを静かに呼んだ。

「どうした?ライヒアルト卿」

「一つお尋ねしたいのですが、何故殿下は何も対抗策を打たないのですか?」

「既に打っている。何、対局の本番はこれからだという事だ」

 ヴィルフリートはそう言い、会議室を出て行った。ライヒアルトの顔には疑心が浮かんでいた。

次回予告

愛斗の皇帝即位から何一つ対抗策を打たないヴィルフリートに疑心を抱く聖霊騎士団団長、ライヒアルト。

皇国の名を取り戻すべく行動を起こす聖霊騎士団。それを迎え撃つ「皇帝の剣」である秀人。「皇国の矛」を名乗るライヒアルト。

「皇国最強の騎士」が、「帝国最強の騎士」が遂に対峙する!

次回五十三話「聖霊騎士団の意地」お楽しみに

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