五十一話 生き別れ、再会
風邪ひいた・・・頭痛い・・・でも今日が金曜日だから頑張れます。
しかも三連休。
愛斗は会見を終えて、自分の小さな私室で休憩をとっていた。
愛斗の私室は皇帝の物とは思えない質素な部屋だった。簡易なベッドと机、棚があるだけの部屋は何処か物悲しさを感じさせた。
「隊長、居ますか?」
ロランの声が扉の向こうから聞こえた。
「どうした、ロラン?」
「いえ、隊長にお会いしたいって皇族の方がいて・・・追い払いますか?」
「皇族?全員捕らえたはずではないのか?」
ロランも少し戸惑った声で言った。
「どうやら会見場にはいなかったようで・・・で、どうします?」
「一応、名前を聞いておこう」
「はい、名前はマリア・ストライダムと名乗ってました」
マリア、その名前で愛斗の表情が変わった。
「やっぱ追い払います?」
「いや、会おう。応接間に通してくれ」
「ユア、ウィル」
ロランはそう言うと、立ち去っていった。
愛斗は服の乱れを直し、皇帝の正装である長衣を纏って、部屋を出た。
応接間の前に来た愛斗は深呼吸をし、扉を開けた。ソファーに座って居たのは・・・。
「マリア!生きていたのか!」
「ああ、ヨハン。私は絶対に貴方が生きていると信じておりましたわ」
そう言い、二人は抱き合う。
二人はあの夜に生き別れてしまい。、今再会を果たしたのである。
「マリア、今日は何故ここに?」
「私はヨハンの手伝いがしたいのです。貴方の父上が成し遂げようとしたことを私はやり遂げたいのです」
愛斗は目頭が熱くなるのを感じた。
「マリア、俺は世界を変えてみせる。大事な人と約束したんだ。手伝ってくれるか?」
「もちろん。ヨハンなら出来るわ。絶対に」
愛斗とマリアは向かい合うようにソファーに座った。
「それで、俺が居なくなってから何があったか教えてもらえるとありがたいのだが・・・」
「ええ、まず私は何とか一命を取り留めたわ。ある人のお陰でね」
「ある人?」
「ええ、貴方の知っている人で今後ろに居るわ」
愛斗が後ろを振り向くと、そこには白髪の老紳士が立っていた。その人物は・・・。
「ライナー?ライナーなのか?」
老紳士は力強く頷いた。
「はい、陛下。私は若が何時か戻ってくる事を信じておりました。私もマリア様とご一緒にお手伝いさせてくださいませ。書類としか戦えない老体ですが、まだまだ頑張れますぞ」
「分かった。ありがとう」
愛斗は頷き、マリアとの昔話に浸った。時折ライナーが紅茶をいれ、三人は昔の様に語り合った。
それは夜更けまで続き、愛斗にとって最高の一時になっただろう。
翌日の昼下がり、愛斗はかつて皇族時代に自分のお気に入りの場所だったマリノ庭園の噴水に座り、水面に映る自分の顔を眺めていた。
その顔は悲しく、何かを思い出しているようだ。愛斗は昔と変わらず花が咲き誇っている花壇から花を摘み取り、眺めた。
「この花でよく首飾りを作ったな・・・何もかも懐かしい・・・」
愛斗は呟き、噴水に目を戻した。ふと、噴水に映る愛斗の後ろの人物が目に入った。
「誰だ?」
愛斗は振り向き、問うた。その人物は少女であった。
「私よ。覚えていないの?カミーユ・ドルゴポロフを」
愛斗の記憶が突然蘇った。
何時もここに来て笑顔をくれた少女、とても無邪気な笑顔。そして幼い顔立ち。
「カミーユ・・・思い出したぞ。侍女の娘で・・・笑顔の可愛い女の子だったな・・・」
カミーユは何も言わずに愛斗に近づき、抱きついた。そして顔を愛斗に埋めるようにして泣き始めた。
「私・・・心配だったの・・・突然いなくなっちゃたんだもの・・・でも戻って来てくれた。ありがとう」
愛斗は少し照れたような笑顔でカミーユの頭を撫でた。
「お前は相変わらず甘えん坊さんだな。ほら、顔を上げて」
愛斗の言葉でカミーユは泣きはらした顔を上げ、愛斗の顔を見つめた。
「昨日と言い、最近は生き別れた人とよく会うな。それで何故カミーユはここに?」
「私は秀人卿と一緒に捕虜の護送任務を受け持ったの。それでここに滞在中に貴方が皇帝になって・・・」
カミーユは驚きを隠せない様で、愛斗に詰め寄った。
「ねえ。どうして生きていたのに戻ってこなかったの?」
「何故って、戻っていたら確実に殺されていたからだ。俺は時が満ちるまで待つつもりだった」
カミーユは静かに頷き、中庭の格納庫に目をやった。
「私が聖霊騎士団なのは知っているよね?足手まといにならないから・・・私を必要としてくれる?」
愛斗は少しだけ戸惑いの表情を見せた。
今、この少女は仲間になろうとしているのだ。状況的には仲間になった方が得策である。しかし愛斗はうん、とは言わなかった。
「カミーユはどうしたいんだ?」
「それは・・・」
「カミーユ、お前はもう立派だ。俺が昔の様に傍で手取り足取り教えなくても一人で生きていける。カミーユは聖霊騎士団に入って後悔したか?お前は自分で進みたい道を進めばいい。俺は何時でもカミーユを応援しているから心配するな。お前には戻るべき場所があるのだろう?」
「・・・ありがとう。勇気を貰ったわ」
カミーユは愛斗に花で出来た首飾りを渡した。お別れの合図、なのだろうか?
「さようなら、ヨハン。また会えるかしら?」
「さあな。でも・・・何時かまた会えるさ」
カミーユは最後に愛斗に無邪気な笑顔を見せた。そして自分のEMAに乗り込み、空の彼方に消えた。
「進めべき道を進め、か・・・俺も洒落たことを言う様になったな」
愛斗はフッと笑い、宮殿の中へ消えていった。
次回予告
中東の砂漠に存在する施設、「特殊諜報部」は皇国の軍事施設であった。
皇帝となった愛斗を監視するため、ヴィルフリートの腹心、フェリクスの謀略が動き出す。
現れた「碧眼」とは?
次回五十二話「偽りの妹」お楽しみに
ご意見・ご感想をお願いします。
あと、誤字などのご報告もお願いします。