四十八話 力の代償
ヤマトが映画化するらしいですね。
多分、観にいきます。
ミッドウェーでの奇襲を受けたドレッドノートは無事に亡命先のハワイに到着した。飛行場に降り立った秀人の目に入ったのは元帝国宰相の井崎薫であった。
「井崎さん、どうしてここに?」
「先に到着したのだ。それより重要参考人は?」
秀人の後ろから車椅子に乗ったリリーが現れた。井崎がリリーの前に立ち、片膝をつく。
「リリー殿、我らへのご協力感謝致します。ではこちらへ」
井崎の後ろに立っていた兵士がリリーの車椅子を押していった。
「おお!リゾートだな!」
後ろで騒いでいるのはすっかり意気投合したイヴォンとジェラルドだ。今も二人でサーフィンの話をしている。カミーユは何時も通りの格好で歩いている。
「言っとくけど、遊びに来た訳じゃ無いんだぞ」
秀人が二人に釘を刺す。
「少し位なら泳いでもいいだろ?」
尚も二人は遊ぶつもりだ。
「第一俺達のEMAはぶっ壊れちまったんだからよ。任務も何も無いだろう?」
秀人達のEMAは紫電に破壊されてしまった。今の秀人達は役立たずだ。
「確かに僕達は今は仕事が出来ないな」
秀人が呟いた。
「だろ?だからさ~。少し位なら」
「お前達!」
そのドスの利いた声に秀人達は肩を震わせた。
「団長!今のは軽い冗談で!」
「どうした?何か言ったのか?」
「いえ、聞いていないのならいいです」
ライヒアルトの周りにはシルヴェストルとナーシャが立っている。
「あんた達のEMAは壊されたんでしょう?」
「まあ」
秀人が曖昧な返事をした。ライヒアルトが咳払いをして本題を切り出した。
「それよりだ。亡命したお前達には悪いのだが、日本は解放された」
「は?」
秀人が気の抜けた声を出す。
「澪坂愛斗は日本を放棄し、また行方を暗ました」
「愛斗が?何か目的があったんじゃ?」
ライヒアルトが頷く。
「ああ、試作機オプティックが奪われた。一部の物資も持ち去られたらしい。とにかく危険は去ったわけだ」
「じゃあ、俺達が逃げたわけは?」
「意味が無くなったな」
二人は呆然とした。
「まあ、少しは休め。泳いで来てもいいぞ」
「そうこなくっちゃ!」
ジェラルドとイヴォンが海に向かって走り出した。
「え、待って!」
秀人も後を追うことにした。
「愛斗」
撫子が沈み込んでいる愛斗に声をかけた。
「お前は捕まったんじゃ?」
「ああ、今の私は実体が存在しない。本体は敵に捕まっている。それより少しお前に聞きたいことがあってな」
撫子の右手が光った。
「お前は自分に残された時間を知っているのか?」
愛斗は撫子を見た。
「どういうことだ?」
撫子は愛斗の額に手を当てる。
「力を大分使っているな。お前の命は後三ヶ月程だ」
「何?」
愛斗は素直に驚いた。
「詳しく説明しろ」
「ああ、お前の力は副作用があると言っただろう?胸の痛みがそれだ。そして力を使い続けると・・・」
「命を奪われると?」
撫子が頷く。
「その力は自分の命と引き換えに手に入れる物なんだ」
「そんなことをお前は俺に言ったか?」
撫子が本を開いた。
「いや、言っていない」
「なら聞こう。俺が力を今、手放せば命は助かるのか?:
「ああ」
撫子がさらりと言う。
「お前は力を手放すつもりは無いだろう?」
撫子はそう言うと消えていった。愛斗は一息ついて呟いた。
「ああ。後三ヶ月で出来る事をするだけだ」
愛斗は立ち上がり、ロランを呼んだ。
「全員を集めろ。出撃だ」
「護衛任務!?またですか?」
秀人とカミーユにその任務が言い渡されたのはハワイ到着直ぐのことだった。
「ああ、敵の捕虜を本国の帝都に護送して貰いたい」
ライヒアルトが書類を見ながら言った。
「分かった」
カミーユが一つ返事を返す。
「・・・分かりました」
秀人も渋々頷いた。
「いいだろう。早速出発せよ」
撫子を護送中の戦艦は本国へと真っ直ぐに向かっていた。
撫子がいる部屋は捕虜とは思えないような豪華な部屋だった。小奇麗なベッドがあり、冷房が効いている。
「全く・・・慣れないな」
撫子が呟き、内線電話を手にした。
「おい、お前。識神秀人卿に面会を求める」
秀人は艦内を散歩していた。というかそれしかすることが無い。
「そうだ。撫子に愛斗の事を・・・」
秀人はあれから愛斗の言った「真の正義」を知りたければ俺のところに来い、と言う愛斗の言葉を思い出し、悩んでいた。愛斗の目的が知りたいのだ。
「撫子なら何か知っているかも・・・」
秀人はそう思い、撫子に逢いに行こうとした。その時。
「秀人卿。捕虜が面会を求めています」
グッドタイミングだ。
「分かったよ。直ぐに行く」
秀人は撫子の部屋へ向かった。部屋の前に着くと、ノックをして中に入った。
「入りますよ」
秀人が中に入ると、撫子がベッドに座っていた。
「識神秀人。クローディヌを愛斗に奪われ、復讐を誓った男か」
秀人は背中に悪寒が走るのを感じた。
「何故知っているんだ?」
「私に分からないことなど無い」
撫子の右手が輝く。秀人が単刀直入に切り出した。
「なあ、教えてくれ。愛斗の目的とは何だ?復讐だと聞いたがそれは本当か?」
撫子が笑みを浮かべた。
「一言で言えば嘘だな。あいつの目的は別にある」
「え?」
秀人が驚いた声を上げた。
「真の正義とは何か?それを知りたいのか?」
「そうだけど・・・」
「いいだろう。お前は正直だな。まずお前がするべき事は二つ。どちらを選択するもお前の自由だ」
秀人は頭を抱えた。
「二つの選択肢?」
「そうだ。一つはこのまま皇国騎士として愛斗と戦うか、二つは愛斗の仲間になり、正義を知るか・・・どちらを選択するもお前の自由だ」
秀人は言葉に詰まった。ヴィルフリートは信用できないのが本当の気持ちだ。いくら皇国のためとはいえ、リリーを囮にしようとしたのは事実だからだ。
「お前の選択で未来は、明日は変わる。愛斗の世界を選ぶか、ヴィルフリートの世界を選ぶか、または・・・」
撫子がベッドに横たわった。
「ストライダム皇帝、レオンハルトの世界を選ぶかだ」
秀人が首を傾げた。
「レオンハルトの世界?」
「ああ、お前が忠誠を誓う人物とは誰だ?何を約束して聖霊騎士団に入った?」
秀人はあの時の言葉を思い出す。
「僕が忠誠を誓ったのはエルネスト殿下・・・そして本国の皇帝陛下・・・!」
秀人が叫んだ。
「そうか!僕がヴィルフリートに忠誠を誓った覚えは無い!」
「そうだ。お前は今から丁度本国に帰る。その時、再び世界は変わるかも知れない。私が言いたいのはそれだけだ」
撫子はそう言うと、寝息を立て始めた。
「ありがとう」
秀人は礼を言い、部屋を出た。秀人の意思は固まっていた。
次回予告
レオンハルトが望む世界。それを聞くために秀人は玉座へと向かう。
しかし、そこに愛斗が現れる。ブリューナクの融合とは?
今、ここにレオンハルトと愛斗が対峙する。その時世界は?
次回四十九話「ブリューナクの融合」お楽しみに