四十七話 ミッドウェー奇襲空戦
バイオハザード4、見に行きました。
予告には裏切られましたが、アクションは中々で特に・・・おっとネタばれするところでしたね。詳しくは劇場でどうぞ。
戦艦「長門」、ドレッドノートを奪われた愛斗達にとって現在最大級の戦艦である。大きさはほぼドレッドノートと同じ、愛斗達は長門の会議室に全員を集めていた。
「全員、集まったな」
会議室には十二人の指揮官やエースパイロットが集まっている。
「リリー・ケンプフェルを乗せた戦艦ドレッドノートは太平洋を横断し、ハワイへと亡命中。そしてこれが進路だ」
愛斗がホワイトボードに広げた地図を全員が眺める。地図には赤い線が書き込まれている。
「この赤線がドレッドノートの進路、そして我々がリリーを奪還する為に奇襲をかける地点がここだ」
愛斗が太平洋上の群島を指差す。渚が地名を呟いた。
「ミッドウェー諸島?」
「その通り、ミッドウェー諸島を通過し、ハワイへ向かうとの情報だ。しかしこの奇襲は容易なものではない」
ロランがペン回しをしながら尋ねた。
「隊長、詳しく作戦内容をお願いします」
「うむ、まず奇襲兵力は十機だ」
全員の顔が驚きに包まれる。
「愛くん、少し無謀じゃない?」
「いや、第一にもし失敗した場合も考えると兵力の温存は必然だ。第二に俺はドレッドノートの構造を知り尽くしている。俺の戦艦だからな。いいかよく聞け」
愛斗はドレッドノートの見取り図を地図の上に貼った。
「いいか、ドレッドノートには細かい隙間や入り組んだ通り道がある。そして幸運にもそこはEMA一機が通れるスペースがある。この隙間を利用しない手はない。十機で奇襲を仕掛け、リリーを奪還する。作戦内容は分かったな?」
全員が頷く。
「ではメンバーを決めよう。まずは俺だ。他は渚、ロラン、カリーヌ、撫子・・・」
十人全員の名前を読み上げると愛斗は別の地図を広げた。
「ここに全員の配置が書かれている。よく覚えろ」
愛斗はそれを言うと部屋を出て行った。格納庫で出撃準備という訳だ。
愛斗が紫電を整備していると、撫子がやって来た。手には一冊の本が握られている。
「愛斗、本当に出撃するのか?」
「ああ」
「しかし、リリーが拒めばどうするのだ?」
愛斗は即答した。
「その時は・・・」
拳銃を取り出す。
「やるしかない」
撫子は愛斗から目を逸らした。
「なあ、愛斗。お前はリリーを討つのか?」
「ああ、世界と人一人の鼎を問えば答えは一目瞭然だ」
そう言った時、愛斗の胸に鋭い痛みが走った。
「うっ!」
愛斗が胸を押さえて膝をつくと、撫子が愛斗の額に手を当てた。
「漸く副作用が出たか・・・」
「何だ?副作用とは?」
「お前の力は使うたびに力が強まっていく。お前はまだ最後の力を使っていないだろう?」
「人を創り変える・・・この能力の事か?」
「そうだ。しかし、お前は作戦のために力を使っただろう?戦闘の時にも」
撫子は手に持っていた本を開いた。
「その代償が回ってきたんだ。お前はやがて憎しみに包まれる。そんなお前の為にこの本を読んでやろう」
撫子はゆっくりと朗読し始めた。
”遥か昔、一人の少女がいました。その少女は思った事を具現化する力を持っていたのです。人々はその力を「碧眼」と呼び、敬いました。”
”しかしある日、平和な世界にもう一人の能力者が現れました。そのものは人を操り、記憶を消す能力を持っていたのです。人々はこの能力者を悪魔の出来損ないと呼び、蔑みました。”
「それが俺か?」
しかし、撫子は無視して続けた。
”悪魔の出来損ないは世界を壊すために能力を使いました。「碧眼」の抵抗も空しく、世界は闇に包まれました。悪魔の出来損ないの力は強く、そして限りがありませんでした。”
そこまで読むと撫子は本を閉じた。
「ここまでがお前の歩んできた道だ。この先どういう道を歩むのか。それはこの本の続きに書いてある」
「なら早く読んでくれ」
しかし、撫子はいやらしい笑みを浮かべた。
「自分で確かめろ」
そう言うと撫子は立ち去っていった。
「悪魔の出来損ない・・・か」
ドレッドノートの一室にリリーはいた。その部屋はホテルの高級ルームの様な飾りがあり、絵画があった。青空が一望出来る大窓があり、リリーは車椅子に座りながら空を眺めていた。するとドアが開く音がした。
「リリー?気分はどう?」
「はい、お陰様でいい気分です。快適ですよ」
秀人は優しい笑みのままリリーの肩に手を乗せた。
「君は僕が守るから安心して」
リリーは心の中が自然と温かくなった。
「ありがとうございます。私も秀人さんと一緒に・・・」
「相変わらずだな」
後ろから声が聞こえた。秀人が振り返るとそこに居たのはイヴォンだった。
「イヴォン!何でここに?」
「愚問だな。忍び込ませて貰ったぜ」
「いいのか?」
それは見つかったらかなりマズイ事だと思うが・・・。
その時、爆音が響いた。窓を見ると護衛のコルベット艦が炎を上げて落ちていくのが目に入った。直ぐに艦内放送が警報と共に響く。
「非常警報発令。敵の攻撃を受けている。乗組員は直ぐに持ち場につけ。護衛の聖霊騎士団は出撃準備をせよ」
赤いランプが光り始めた。
「リリー、少し待っていて」
秀人は走って部屋を出た。廊下でジェラルドとすれ違う。
「秀人、敵襲だ。急ごうぜ」
「分かった」
二人は急ぎ足で司令室へと向かった。司令室にいたのはストライダム皇国のカスパル将軍だ。
「秀人卿、ジェラルド卿、カミーユ卿。君たちには出撃し、敵を撃墜して貰いたい」
「しかし、三機というのは無謀では?」
「案ずるな。敵はたかが十機だ。君たちなら余裕だろう?」
秀人は少し不安だったが頷いた。ジェラルドがすかさず質問する。
「プラズマシールドを展開すれば良いのでは?」
「残念ながら敵はすでにシールドの防御範囲の内側に侵入してしまっておる。君たちだけが頼りだ」
カミーユが頷いた。
「分かった。直ぐに出撃するわ」
三人は急ぎ足で格納庫へ向かった。
「愛くん、聖霊騎士団が近づいてきたわ」
通信から渚の声が聞こえてきた。
「分かった。なるべく時間を稼いでくれ」
ドレッドノートの脇の通路を二機の秋水が走っていた。
「木戸!後ろだ!」
後ろの秋水が後ろを向くと同時に電磁ロストシューターが秋水を貫いた。続いて前の秋水も破壊される。
「秀人、二機始末したぜ」
「こっちも一機落とした。カミーユは?」
「二機よ」
愛斗の通信に渚の声が入ってきた。
「愛くん、五機がやられたわ」
「そうか、もう少し時間を稼いでくれ」
その頃、ロランのベディウェアは飛行形態になり、ドレッドノートの隙間を器用に飛んでいた。
「邪魔だぜ」
ミサイルがドレッドノートの砲塔を次々と破壊していく。背後に一機の機影が映った。
「何だ?」
ロランが首を傾げる。
「どうした?」
「いえ、隊長。このまま突っ切りますよ」
その時、後ろから発射された加粒子砲がベディウェアに当たった。
「うわ!隊長、戦闘不能です」
ベディウェアは下に落ちて行った。
「カミーユ、お前のガヘリスは凄いな。俺が苦戦した奴を一撃で葬ったんだな」
「飛行機なんかには負けないわ」
カミーユがぶっきらぼうに言った。
「俺も負けてられないな」
ジェラルドがスロットルを倒し、出力を上げた。ヴァジュラのスピードが上がる。
「敵発見!紫電みたいだな」
撫子は背後から追って来る一機の機体が目に入った。
「ヴァジュラか?厄介だな」
紫電参式はヴァジュラにミサイルを放った。
「邪魔だ!」
電磁ロストシューターが紫電参式を襲う。紫電参式は盾で防いだが衝撃で後ろによろめく。
「くっ!」
紫電参式もロストシューターを射出した。
「なあ、勝負は機体性能じゃ無い。腕なんだよ!」
ヴァジュラはそれを軽々と避け、キリンソードを振り下ろした。紫電参式がブレイクする。
「私の負けだな・・・」
脱出ポッドが機体から飛び出た。続いて機体が爆発する。
「今だ!」
脱出ポッドが着地した付近の壁が開き、兵士が飛び出てきた。撫子が脱出ポッドから顔を出すと、銃口が一斉に向けられる。
「最神撫子さんですね。大人しく投降してください。指示に従えば手荒な真似はしません」
撫子はゆっくりと両手を頭上に上げた。
「分かった。降参しよう」
「愛くん!撫子さんが捕まったわ!」
「何だと?くそ!分かった。残りは?」
「後は愛くんと私とカリーヌさんだけよ」
渚がそう言うと、通信からカリーヌの叫び声が聞こえた。
「渚!後ろよ!」
スパイラルリーファンクが後ろを向くとスピッツオブヴァーニングが見えた。
「秀人君!」
渚が叫ぶのと同時にスピッツオブヴァーニングのプラズマライフルの青い閃光が飛び出した。スパイラルリーファンクがプラズマシールドを展開した。
「駄目だ!それでは防げない!」
カリーヌの言うとおりに閃光はシールドを破壊し、スパイラルリーファンクの右腕を吹き飛ばした。
「やられたわ」
操縦不能に陥ったスパイラルリーファンクが落ちて行った。
「渚!」
カリーヌが叫んだが渚には届かない。カリーヌのハーヴィルスに衝撃が走った。ガヘリスのロストシュータに腕を串刺しにされていたのだ。
「油断した!」
続いてハーヴィルスの頭部をガヘリスががっしりと掴んだ。
「離せ!」
ハーヴィルスが小型のスラッシュソードで斬りつけるがびくともしない。
「終わりよ」
ガヘリスの加粒子砲がハーヴィルスの胸部を貫いた。脱出ポッドでカリーヌが脱出したが機体は砕け散って、爆発した。
「全滅か・・・」
愛斗が紫電の中で呟いた。司令室内でも将軍が叫んだ。
「聖霊騎士団、ご苦労だった。後は紫電だけだ。始末しろ」
「了解!」
ジェラルドが大声で叫んだ。先ほどからの快勝で少しテンションが上がっているようだ。
ヴァジュラの前に紫電が現れた。美しい六枚翼を広げ、二刀流の構えを取っている。
「紫電!覚悟しろ!」
ヴァジュラが電磁ロストシューターを射出した。それを紫電が切り裂く。続いて紫電が六枚翼を棚引かせてヴァジュラを上下真っ二つにした。
「すまん、秀人。戦闘不能だ」
「私がやる」
ガヘリスが加粒子砲を撃ちながら接近した。紫電は全てを避けながら信じられないスピードで接近してくる。ガヘリスがミサイルを大量に放った。
「小賢しいな」
紫電の胸部が開き、白い閃光が大量のミサイルを一閃、全てが爆発した。爆煙を掻い潜り、紫電は上空に上がった。そしてガヘリスの顔面に強烈な蹴りを喰らわせ、叩き落した。
「二機目だ」
紫電の胸部が閉じたと同時に叫び声が聞こえた。
「愛斗!」
紫電が後ろを向くとスピッツオブヴァーニングのブロウニングソードが振り下ろされた。紫電が二刀流でそれを受け止め、砕いた。
「秀人か、久しぶりだな」
紫電はスピッツオブヴァーニングを蹴り飛ばし、加粒子砲を撃った。スピッツオブヴァーニングはそれを予備のスラッシュソードで防いだ。溶けたソードを投げ捨て、プラズマガンに持ち構えた。
「秀人、リリーは何処だ?」
「お前に教える筋合いは無い!」
紫電はエネルギーカッターを連続発射し、スピッツオブヴァーニングの左腕を切り落とした。
「何!?」
紫電は遠慮せずに右脚を切り落とし、ドレッドノートの側壁に叩き付けた。
「お前では俺の紫電には勝てない」
愛斗はそれだけ言うと、船内に入り込んだ。
リリーの部屋ではイヴォンがバットを構えていた。
「入ってきやがれ・・・」
ドアが開く。入ってきたのは愛斗だ。
「愛斗か?」
「そうだ。リリーに用がある」
イヴォンは再びバットを構えた。
「残念だけどよ。リリーは渡さない」
愛斗は冷たく頷いた。そしてイヴォンの腹を膝で蹴り上げた。イヴォンがうめいて倒れる。
リリーが愛斗を見た。
「リリー、お前・・・目が・・・」
「そうです。治療を受けました。まだ愛斗さんの顔は見えませんが、段々と光が戻って来たんです」
愛斗は悲しそうな顔をした。
「また一つ約束を守れなかったな」
「愛斗さん、私は愛斗さんには着いて行きません」
愛斗も頷く。
「その決意は固いのか?」
「はい、愛斗さんのした事は間違っていますから」
「なら、何が正しいのだ?リリー、お前はストライダム皇国の企みを知らないんだ」
リリーは表情を緩めた。
「私は・・・暴力を用いらずとも世界は変わると思います。ですから愛斗さん、私や秀人さんと仲間になって一緒に世界を変えていきませんか?」
リリーはそう言うと、愛斗に手を差し伸べた。
「リリー、お前は素晴らしい考えを持っている。しかし、それはこの世界では通用しないんだ」
愛斗は刀を抜き、リリーに近づいた。
「何をするつもりですか?」
「お前が俺に従わないのなら・・・」
愛斗は一息ついた。
「お前を討つ事になる」
愛斗はリリーの車椅子の前に立ち、刀を振り上げた。その時だった。
「リリー!」
ドアを勢いよく開けて、秀人が入ってきた。手に持っていたアサルトライフルを乱射する。
「くっ!」
愛斗は咄嗟に窓際に下がった。銃弾は窓を粉々に砕いた。部屋の物と一緒に愛斗が外に吹き飛ばされた。
「リリー、大丈夫?」
直ぐにリリーに駆け寄る秀人。
「大丈夫です」
割れた窓に巨大な黒いEMAが見えた。その腕には愛斗が乗っている。紫電は遠隔操作が可能なのだ。
紫電が右手のプラズマガンを構えた。もちろん狙いは二人だ。
「リリー、最後にもう一度聞く。俺について来い」
「断ります!」
威勢のいいリリーの声に愛斗の顔が暗くなった。
「そうか・・・」
秀人も叫ぶ。
「僕もだ!」
愛斗は構えを解いた。
「お前達の意思はそこまでなのか・・・分かった。諦めよう」
紫電はゆっくり方向を変え、飛び去っていった。
「リリー、いいの?愛斗はリリーのことが本当に心配で・・・」
「いいんです。愛斗さんはもう・・・心の中にしかいません」
イヴォンがゆっくりと起き上がった。
「あれ?愛斗は?」
イヴォンは窓際の秀人とリリーを見た。その時、イヴォンは秀人と愛斗が重なって見えた。
次回予告
皇国に囚われた撫子。
ブリューナクの副作用により愛斗に告げられた突然の余命宣告。
残された時間で愛斗は何が出来るのか?そして秀人の選択とは?
次回四十八話「力の代償」お楽しみに