四十二話 新世代EMA
「これが僕の・・・?」
秀人は呆けた様に目の前のEMAを眺めている。
「そうだ。これは君の物だ」
目の前にあったのはスピッツオブファイアと同じ容姿をしたEMAだ。ヴィルフリートが自慢げに語った。
「正式名称スピッツオブヴァーニング。君のスピッツオブファイアを進化させた新形態だ。性能は従来の二倍、武装も追加した。もちろん紫電にだって遅れを取らない」
ヴィルフリートは咳払いをし、呟いた。
「まあ、紫電が壊れてしまった今、この機体は我が国最高峰の機体だ。戦場ではほぼ無敵と言っても過言ではないぞ」
秀人は紫電の機体を思い浮かべた。黒い悪魔、この表現は自分で考えた。正にピッタリだと思う。
「愛斗・・・本当に死んだんですかね?」
「報告では機体ごと撃墜、炎上しその後に残骸を回収したらしいが遺体までは確認出来ていない」
「愛斗はしぶとい奴ですよ」
ヴィルフリートは声を上げて笑った。
「流石は我が一族、血が繋がっているだけの事はあるな」
秀人は少し項垂れた。
「笑い事では無いです。以前も死んだと思い込み、それであの大惨事が起きたんですから」
「副都心の件か?」
「はい、僕は大事な女性を失ったんです」
ヴィルフリートはふと思い出したように声を上げた。
「そういえばあの子はどうした?ヨハンが保護していた少女だ」
「リリーの事ですか?今は部屋で寝ていると思います」
「そうか。無理強いはしないが出来たら起こしてくれないか?見せたいEMAがある」
「例の試作機の事ですか?」
ヴィルフリートが頷く。
「そうだ。今までに無い新型だ」
「分かりました。起こしてきます」
秀人は一礼し、走り去っていった。
「殿下」
「何だ、フェリクス」
「いえ、あの少女を試作機に乗せるつもりで?」
「そうだ。何か問題があるか?」
「彼女は盲目です。どう操縦をしろと?」
ヴィルフリートは不敵な笑みを浮かべ、フェリクスを見た。
「それは見てのお楽しみだ」
フェリクスは頭を深く下げた。
「御意」
悲しみに暮れるリリーは深い眠りに落ちていた。そして何時ものように夢を見る。
リリーは夢の中で豪華な寝室のベッドに座っていた。中性ヨーロッパの古城にあるようなベッドだ。
「愛斗・・・さん?」
心細くなり、愛斗の名前を呼ぶとドアが開いた。入ってきたのは愛斗だった。
「愛斗さん?良かった・・・生きていたんですね」
リリーはこれが夢だと知っている。でも言わずにはいられない。
「リリー、俺はもう二度とお前を一人にはしない」
唐突な愛斗の呟きにリリーは涙を押さえ切れなかった。
「愛斗さん!」
リリーはベッドに近づいた愛斗に抱きつき、思い切り泣いた。
「私、ずっと逢いたくて・・・でも逢いに来てくれなくて・・・心配して・・・」
押さえ切れない言葉が次々と溢れてくる。愛斗はリリーの頭を優しく撫でた。
「ありがとうリリー」
愛斗はリリーから離れると、手を優しく握った。
「お前はもう一人で生きていける。自分の道は自分で決めて、その道を真っ直ぐに歩め」
愛斗はリリーから離れていく。
「待って下さい!私を置いていかないで!」
その時、愛斗とリリーの間の床が割れ、二人は引き裂かれた。
「待って!」
愛斗の姿は闇へと消えていった。
「はっ!」
リリーは悪夢から目を覚ました。全身から汗が吹き出て、寝巻きはぐしょぐしょに濡れている。
「またこの夢・・・愛斗さん・・・何故、何度も出てくるんですか?」
その質問に答える者はいない。声だけが虚しく響いた。リリーはその場に泣き崩れた。
「愛斗さん・・・どうして先に逝ってしまったんですか?私はまだ一人でなんか生きていけないんです」
リリーの部屋のドアがノックされた。
「愛斗さん?」
「いや、秀人だよ」
「どうぞ」
秀人がドアを開けて入ってきた。
「また泣いていたの?あの夢を見たの?」
リリーは泣きじゃくりながら頷いた。
「愛斗は確かに死んだかもしれない。でもリリーは生きている。ならこの無益な争いを早く終わらせる事こそ今僕らに出来るせめてもの愛斗への報いじゃないか?」
「そうですよね・・・私がやらないと駄目なんですよね?」
秀人は頷いた。
「リリーに意思があるなら。さあ、殿下がお呼びだ。早く行こう」
リリーは頷いた。
「今、着替えを取るよ。待ってて」
着替えを済ましたリリーを車椅子に乗せて秀人は格納庫に行った。巨大な格納庫にはヴィルフリートとその副参謀のフェリクスが待っていた。
目の前にあるのは青と赤を基調としたEMAだ。
「殿下、これは?」
「これが試作機だ。機体名はオプティック、新型装備と新機能を兼ね備えた新世代のEMAだ」
「新機能?」
秀人が尋ねた。
「そう、光学迷彩により姿を消す事が出来る。相手から見ればいきなり消えたように見える訳だ」
「そんな事が可能なんですか?」
「可能だ。この試作機にはリリー殿に乗ってもらう」
秀人は目を丸くした。
「無理です!リリーは目が見えないんですよ!」
フェリクスがヘルメットを取り出した。
「これが操縦の際に装着するヘルメットです。これで外部の情報を直接脳に伝え、視神経に電気信号を送り脳内に映像を映し出すのです。操縦に関してはマニュアルを」
「でもリリーの意思もあります」
秀人はリリーを見た。
「私、やります」
「リリー、本当に?」
「はい、愛斗さんが出来た事なら私にも出来ます」
ヴィルフリートは満足そうに頷いた。
「よし、では決まりだ」
その時、警報が響いた。機械音声が政庁府の司令室に流れた。
「非常事態、東湾湾岸コンビナート倉庫街に敵影を確認、戦闘員は現場へ急行せよ!繰り返す・・・」
ヴィルフリートは警報を聞き、手を上に掲げた。
「リリー殿、早速出撃だ。秀人卿、ジェラルド卿、カミーユ卿と共に出撃せよ」
「了解」
秀人はリリーを残し、二人を呼びに行った。
次回予告
時を経て、再び愛斗は日本に戻ってきた。
秀人と愛斗、彼らが戦う先にあるものとは?
そして予想外の敵が愛斗を阻む。
次回四十三話「光学迷彩の罠」お楽しみに
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