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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
第五章 過去の胎動
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番外編~World War Ⅲ ④~

しつこい番外編をお楽しみください。ではどうぞ~☆

 本来、陸戦で勝敗を決するのは戦略だ。しかし、時代は進んだ。

 愛斗は超一流の策士だ。その周りの士官も一級の策士な筈だ。しかしその戦略を打ち破るほどの脅威が現れたのは日本にとって、最大の痛手となった。

 EMA、それは世界最強の汎用人型戦闘兵器。そしてその戦力は一機で戦車中隊一個分に匹敵した。その分隊規模の攻撃を受けた日本軍は呆気ない敗北を迎えた。 

 指揮官の半分を失い、北部戦線は壊滅した。四国、九州は占領され、関西、中国も。北では北海道が、更には東北をも圧倒的な戦力で占領していった。

 日本軍は東京を中心とした首都圏に防衛線を張り、敵を迎え撃つために民間人をも刃として前線に送り込んだ。

 日本軍の残された希望、それは一機の鹵獲したEMAにあるのだった。


 愛斗は前線全てを統括する東京の大本営の倉庫に置かれたEMAを眺めていた。

 夜も遅く、心配した澪が毛布を持って倉庫に入ってきた。

「若、もう夜も遅いです。御体がお冷えにならぬようにこれをどうぞ」

 澪は毛布を愛斗の肩に優しく掛けた。愛斗は振り返り、口を開いた。

「澪、リリーはどうしたかな?」

「もうお休みになられました。若ももうお休みになられてはどうですか?仕事は私が片付けておきます」

 愛斗は肩の毛布を引きあげると、脇のパイプ椅子に腰を下ろした。

「機体番号一○三零。正式名称はアディウス。これが敵の新兵器だよ」

 愛斗は傍らの資料を拾い上げ、読み上げた。澪はそのEMAに近寄り、右手でEMAの脚に触れた。ひんやりとした鋼鉄の感触が澪の腕に伝わった。

「僕は明日、これで出撃するつもりだ。もし、もしもだけど僕が戻ってこなかったらリリーにこれを」

 愛斗は澪に一枚の封筒を手渡した。澪はそれを受け取り、愛斗を見つめた。

「若、あまり無理はなさらないで下さい。自分だけ責任を背負う必要は無いのですから」

「もちろん。死にに行くつもりは無いよ。でも・・・もし・・・」

 愛斗は立ち上がり、倉庫の扉へと向かい、歩き出した。

「その時はリリーを頼む。後、悪いけど残りの書類整理を頼むよ」

 扉の向こうの闇へと消えていった愛斗の後姿を見つめた澪は、拳を握り締め、ぎゅっと歯を噛み締めた。


 翌日、愛斗は旗艦に乗り、前線に向かっていた。司令室は何時になく緊張感に包まれ、言葉も少なかった。愛斗は立派の誂えた玉座に座り、モニターを無表情で見つめていた。

「これから作戦を開始する。全軍は僕の指示に従って行動してくれ」

 愛斗はそう言い、司令室の扉へと向かって、歩き出した。

「殿下、何処へ?」

 愛斗は一度立ち止まり、一言言った。

「出撃する。指揮官が前線に出て指揮を執らなくては士気は上がらないからね」

 そう言った愛斗の目には大きな決意の色が浮かんでいた。


 愛斗は旗艦の格納庫に収納してあるEMA、アディウスのコックピットに乗り込み、システムを起動した。

「オペレーター、システム起動開始だ。マニュアルを」

「了解、オペレーターマニュアルを送信します」

 数秒の間を空けて、モニターにマニュアルが映る。愛斗はざっと読み流し、頷いた。

「よし、分かった。PHPBM(高出力機動推進システム)起動。各種兵装ウェポンを確認した後、第三格納庫より出撃する。ハッチを開いてくれ」

「了解。オペレーター、ハッチを開きます」

 愛斗は前方のハッチが開いたのを確認し、コックピット右手のモニターの画面にタッチした。直ぐに画面に装備の詳細が映った。

主武装メインはパルスライフル二丁にスラッシュソードが二本。副武装サブに両腕部内蔵型軽機関銃、自動ホーミングミサイルが八発。補助兵装サポートとして可動変形ワイヤーが両肩。中々じゃないか」

 愛斗は一気にスロットルを押し倒した。脚部のスピナーが高速回転し、アディウスは勢いよく、開いたハッチから飛び出した。

「補助用ブースターを機動。着地する」

 飛行は出来ないため、ブースターのジェット噴射で滑空しながら着地するしかない。アディウスは噴煙を巻き上げて地面に降り立った。

「中々の性能だね。オペレーター、敵の位置を」

「了解、右端の画面に転送致します」

 愛斗が右端の画面を見つめた。画面に戦場の様子が事細かに映し出される。

「次に戦場の地形データをお送りします。宜しいですか?」

「いや、いい。これで十分だ」

 愛斗は操縦桿を握り、スピナーを動かした。アディウスはスケーターの様な動きで森の木々を避けながら進んでいく。

 愛斗は戦場の簡略図を見て、マイクに向かって指示を出した。

「第七砲台、装填、射撃準備だ。標準は今から座標を入力する。僕が指示を出したら撃ってくれ」

 アディウスは見晴らしのいい高台に立った。実際の戦場と画面を見比べる。愛斗は静かに通信をオンにした。

「第七中隊は三百メートル後退だ。そのまま森に誘い込め。場所はこちらで指定する。第五中隊は東へ五百メートル進め。高台がある筈だ。そこで装填し、射撃準備だ。森で爆煙が巻き上がったら一斉射撃だ」

 愛斗は操縦桿を再び握りなおし、森に向かった。そのままワイヤーで木の上に上る。

「いいぞ。第七小隊、俺の機影の下を通れ」

 アディウスがパルスライフルを構える。直ぐに味方の戦車が自分の下を通ったのを確認し、画面を見る。後ろ三十メートルに敵の中隊規模の一団がいるのを確認した。

「今だ」

 愛斗はパルスライフルを後方に向け乱射した。自分のレーダーから敵影が消える。アディウスがワイヤーで地面に降り立つ。前方の敵がブレーキを掛けて止まった。

「貴様は?」

「お前たちに名乗る名は無い」

 アディウスはパルスライフルを構え、最前列の二機を破壊した。

 後ろに控えていた敵がスラッシュソードを構え、突撃してくる。アディウスはそれを素早い動きで避け、一機をすれ違い様に切り裂いた。続いてミサイルで敵二機を爆破した。


「馬鹿な!何故、奴らがEMAを!」

 隊長機の内部で中隊長が声を張り上げた。他の隊員がそれに答える。

「恐らく先日の戦闘で鹵獲されたEMAかと思われますが・・・」

「しかしあのスペックは・・・いや、パイロットの問題なのか?どちらにせよ脅威だ。撃墜せよ」

了解イエス

 残存しているEMAが全機、アディウスに襲い掛かる。愛斗はコックピットの中で叫んだ。

「邪魔をするな!」

 アディウスは構えたスラッシュソードで次々と敵を粉砕していく。ある機体は二つに裂かれ、ある機体は貫かれた。

「このワイヤーは武器としても使えるな」

 愛斗はワイヤーを敵機に向かって射出した。そのワイヤーの先端が敵の腕部を切り落とした。凄まじい戦闘力で敵を撃墜していく。

「何故だ?何故、勝てない!」

 完全に逆上した敵士官がコックピットの中で叫んだ。

「隊長!後ろ!」

 無線から聞こえた声に振り返ると、後ろにはアディウスが睨んでいた。

「何時の間に!?」

 隊長が操縦桿を握ったと同時に、アディウスがミサイルで隊長機を吹っ飛ばした。爆煙の中、アディウスは魔王の様に立ち尽くしていた。

「オペレーター、これより敵艦に突入する」

 愛斗には作戦があった。このEMAごと、敵艦に突入し、自爆する作戦だ。もちろん愛斗は寸前で脱出する。

 アディウスは地面を猛スピードで走っていく。敵の旗艦を確認すると、そのままブースターで敵の司令室に一直線で突撃をかけた。


「何だ?突入してくるぞ!」

 司令官が叫んだ。司令室の士官達は突然現れたEMAに見とれていた。

「いけ!」

 アディウスから愛斗の叫び声が聞こえた。司令室のガラスを突き破り、アディウスが現れた。

「うわっ!」

 司令室の士官達は勢いで怯んだ。それと同時に愛斗は脱出ポッドで飛び出した。

 その数秒後、司令室の士官を巻き込んで、旗艦は大爆発を起こした。愛斗は近くに落ちた脱出ポッドから這いずり出て、無線機に向かって叫んだ。

「敵艦は爆破した。他の戦況は?」

「はい、残念ながら勝利したのはここのみです。他の戦闘では圧倒的な戦力差の前に撤退を開始しました。殿下もお早く撤退を」

 愛斗は舌打ちした。所詮、ここで勝ったとしてもそれは小さな勝利にしか過ぎなかった。

 愛斗は脱出ポッドに設置してあったスクーターにまたがり、東京方面へと撤退を開始した。


 そして、この戦いこそが唯一の勝ち戦だったのだ。

次回で番外編は終わりの予定です。

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