番外編~World War Ⅲ ③~
久しぶりの投稿です。べ、別にサボってた訳じゃないんだからねっ!
「若、起きてください。朝ですよ」
澪の声愛斗は目を覚ます。愛斗は目を擦りうぅ、と背伸びをした。
「あれ、リリーは?」
澪は寝惚けている愛斗に微笑みながら外を指差した。
「外で元気に遊んでいますよ。若よりも早起きですね」
愛斗は頭を軽く掻きながら起き上がり、障子を開いた。
庭ではリリーが元気よく跳ね回っている。
「元気みたいだね。良かったよ」
庭で遊びまわっていたリリーは愛斗に気付いたらしく、愛斗の下へ駆け寄ってきた。
「愛斗さん!」
愛斗は駆け寄ってきたリリーを抱きかかえた。
「リリーは元気だね。僕も安心したよ」
愛斗はリリーの頭を撫でながら言った。この少女の幼さが、母を失ったという悲しみを和らげているのだろうか。だとしたら成長すれば・・・。
愛斗はその考えを頭から追い払った。今はこの少女に笑顔を、幸せを与えることだけを考えよう。将来のことはその後だ。
「若、朝食にしましょうか?今日から軍の指揮を執らなくてはいけないのでしょう?」
愛斗は澪の言葉でそのことを思い出した。
全軍の指揮権を僕が持っている。この重く、大きな責務は愛斗に託されている期待を表していた。
「軍の指揮・・・僕が・・・」
「若!今は朝食にしましょう。それからのことは後で考えましょう」
愛斗は頷いた。今は笑顔で朝食をとろう。それがいい。愛斗は暗い考えを頭から追い出し、食卓へと向かった。
朝食を終えた愛斗はきちんとした正装をし、澪とリリーと一緒に玄関を出た。出掛けにリリーは愛斗の二の腕をギュッと握って、ある事を言ってきた。
「ねえ、愛斗さん。一つお願いしてもいいですか?」
突然の言葉に愛斗は戸惑った。それでも笑顔で聞き返す。
「いいよ。何でも言ってごらん」
リリーは愛斗に綺麗な銀のロケットを突き出した。
「平和な世界を創って欲しいです。私のためだけじゃなくて、全ての人のために・・・」
愛斗はそのロケットを受け取り、首にかけた。
「約束しよう。絶対に、その願いだけは僕の命と引き換えてでも叶えて見せるよ」
「約束ですよ」
リリーの首にかかっている金のロケットが輝く。
「ああ、リリーが元気になった頃にはそうなっているよ」
愛斗はリリーを抱き締めた。その目には決意が浮かんでいた。
「全戦線において敵との交戦が確認出来ました。ご指示を」
髭を生やした副司令官が愛斗を促す。愛斗は画面に映された戦場の様子を見た。
「第七機甲大隊を三百メートル進めよう。臼金山山腹の対地砲台、装填せよ。合図で発砲だ」
愛斗の鋭い指示を無線通信士が司令部から三キロほど前方にある戦線に伝える。朝からこの作業の繰り返しだ。
画面の自軍に敵軍が衝突した。それに合わせて通信が入ってくる。
「こちら第七機甲大隊、敵軍との交戦を開始しましたが、敵は見たことも無い兵器を・・・うわあ!」
途絶えた通信機に向かって副司令官が叫んだ。
「どうした!応答しろ!」
代わりに通信機から聞こえてきたのは第七機甲大隊副隊長の声だった。
「隊長は戦死しました!それよりも敵の新兵器です!人型で、銃を構えています。このままでは・・・」
通信が又もや途切れた。富嶽が通信機に向かい、怒鳴った。
「おい!答えろ!」
しかし、既に通信は途絶えていた。画面には壊滅寸前の第七機甲大隊の影のみが映っている。
愛斗は何も喋らなかった。いや、喋れなかった。人型の兵器、愛斗にはそれの覚えがあったからだ。
「EMA・・・もう実戦投入の段階まで・・・?」
愛斗は椅子に座り直し、大声で叫んだ。
「後方支援の第四、三機甲大隊を前線投入しよう。まだ未経験の敵だ。何としても一機鹵獲するんだ」
その指示で再び前線が動いた。二つの機甲大隊が敵陣を囲む様にして動き出した。
愛斗の命令で前線投入された第四機甲大隊の参謀長、厭海星は炎上している戦車から飛び降りたところだった。
「参謀長!敵に今だ損害はありません。こうなれば突入を!」
地面に伏せていた海星に副参謀が声を張り上げた。
「分かっている!くそっ、俺が一番正面のを鹵獲する。援護してくれ!」
海星は副参謀にそれだけ叫ぶと、正面のEMAに向かって走り出した。
気付いた敵のEMAも腕に構えた大口径の機関砲を撃った。海星は上手く身を隠しながら近づいていく。最初の岩陰に身を隠したと同時に、無反動砲や戦車の砲弾が飛んできた。砲弾はEMAの直ぐ前に着弾し、爆音と共に土煙を巻き上げた。
「今だ!」
海星は短く叫ぶと、岩陰から走り出してEMAの足元へ潜り込んだ。
「畜生!ハッチは何処だ!」
海星はEMAによじ登り、入り口を探し始めた。背部の装甲を手探りで調べると、小さな窪みを発見した。
「これか?」
海星は窪みに指をかけ、思い切り押してみた。が、開かない。
「なら引いてみるか」
海星は窪みに手をかけ思い切り引っ張った。ハッチは呆気なく開き、海星が覗いた時にはパイロットが呆然とこちらを見ていた。先に我に返ったのは海星だった。
「うおらっ!」
海星の拳がパイロットの顔面で炸裂した。パイロットは鼻から血を噴き出し、気絶した。海星がその体をハッチから外に放り出した。
「これが通信機か?」
海星はEMAの計器を弄り始めた。小さなレバーを倒すと、画面にSOUND ONRYの文字が浮かび上がった。次に周波数を味方に合わせた。
「こちら海星だ。一機の鹵獲に成功した。帰還する」
「了解、司令部より撤退命令が出た。そのまま三十キロ後退せよ」
「了解」
海星は慣れない操縦桿を握り、撤退を開始した。
次回も番外編です。しつこいっ!って言わないで下さいね?