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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
第五章 過去の胎動
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番外編~World War Ⅲ ②~

ちなみに作中の愛斗と澪の屋敷があるのは熱海です。

ではどうぞ~☆

 神奈川県旧小田原市、市内の公園。

 幼いリリーは午後の暖かな日差しが当たる公園の砂場で一人で遊んでいた。

 兄弟も友達もあまり居ないリリーにとって、一人で遊ぶのが何時もの習慣だったのだ。砂場で山を作り、更にもう一個作る。単純な遊びだがリリーは気に入っていた。

「まだ来ないのかな」

 リリーの口から自然と言葉が漏れる。

 リリーはこの公園で母が迎えに来るのを待っている。何時もの事だが、何故か今日は不安で心が一杯だった。

「ふぅ~」

 リリーは不意に空を見上げる。

 午後の透き通った青空は何処か悲しさを感じさせた。

「早く迎えに来てよ・・・」

 リリーの口から涙声が漏れる。自然と涙が溢れてきた。何故か心細いのだ。

 昨日の夕方に戦争が始まったらしい。戦争なんてリリーにはまだ理解出来ないが、恐ろしい事であるくらいの印象は持っていた。

 そのせいもあってか、リリーはとても心細かったのだ。リリーは立ち上がり、公園を出た。町を歩き回り、母の顔を捜す。

 もちろん見つかる筈は無い。この時間は仕事だからだ。でも、捜さずには居られなかった。

「疲れた・・・」

 リリーが座り込む。また空を見上げてみると、今度は別の物が目に入った。

「あれ・・・何?」

 それは空に浮かぶ巨大な戦艦だった。その大きさに本能的な恐怖を覚え、リリーは走り出した。

 心なしかサイレンの音が聞こえた気がした。

 その瞬間だった。

「いやっ!」

 戦艦から放たれた何発、何百発もの光の弾。真っ直ぐと地面に向かい落ちてくる「それ」は死の権化としか見えなかった。

 光の弾は地面に当たった瞬間、炸裂して炎に包まれた。リリーは運悪く光を直視してしまった。

「!!!!」

 声も出ずにリリーは吹き飛ばされた。何かに強く頭を打つ。いや、打ったかのかも分からない。そのまま意識は遠のいていった。



「・・・ん・・・?」

 リリーは熱気で目を覚ました。目の前は真っ暗だ。とにかく目を開こうとしたが、開かない。というより、開いたつもりなのだが見えないのだ。

「嘘・・・真っ暗・・・怖い」

 リリーの口から涙声が漏れる。周りからはバチバチという何かが燃える音、木材が弾ける音しか聞こえない。

「熱っ!」

 リリーが手に熱さを感じて、手を引っ込めた。とにかく逃げよう、そう思ったリリーは立ち上がろうとした。

 おかしい、立てない。足に力が入らないのだ。いや、力を入れているのに動こうともしない。まるで足という存在自体が無くなったみたいに。

「やだ・・・動かない!」

 リリーは必死にばたつく。何とか這って逃げようとする。ここに居れば死ぬ。それだけが頭の中で回っていた。

 今の状況なんて目が見えなくても分かる。周りは火の海だろう。この焼ける音、燃える匂いが周りの光景を物語っていた。

「やだ・・・死にたくないよ・・・助けて・・・」

 リリーが泣きながら呟いた。その声に反応する者はいない。周りがどんどんと火に包まれていく感覚がした。死の予感が近づく。

「助けて・・・」

 リリーが声を絞り出した。

「逃げろ!」

 声が響いた。次の瞬間、リリーの体は浮くような感覚を覚えた。

「えっ?」

 リリーが驚きの声を上げる。体が炎から離れていく。

「大丈夫?」

 また優しい声が聞こえた。

「目が・・・見えないの・・・」

 リリーは答える。声の人物はリリーを抱きかかえていた。声の人物の暖かい腕にリリーは少し頬を赤らめた。

 次第に炎の熱が遠ざかっていく。同時に人の声も聞こえてきた。声の人物が立ち止まり、リリーを地面に横たえた。

「大丈夫?怪我は無い?」

 声の人物は先ほどと同じセリフを言った。

「目が見えないの・・・足も動かない・・・」

 声の人物がリリーの足に触れた。

「まだ名前を聞いてなかったね。名前は?」

 声の人物がリリーに尋ねた。

「リリー。リリー・ケンプフェルです」

「そうか。僕は澪坂愛斗。ちょっと失礼」

 愛斗はそう言い、リリーの足を調べ始めた。リリーはとても恥ずかしかったが、嫌な気持ちでは無かった。

「別に足に異常は無いね。じゃあ目を見るよ」

 愛斗は少し移動し、リリーの瞼を手で開かせようとした。だが開かない。

「目は・・・重症かも知れないね。今から病院に行こう」

「はい」 

 愛斗はリリーを再び、抱きかかえて歩き出した。

「すいません。今、どうなっているんですか?」

 リリーは愛斗に尋ねた。

「敵の空襲で町は火の海だ。君も危なかったしね。今は市街から出たから安全だよ。だから落ち着いて」

 リリーは頷いたが、周りからは人々の悲痛な声が聞こえる。恐らく避難者で溢れかえっているのだろう。

 愛斗はリリーを抱えたまま、三十分程歩いた。愛斗が不意に立ち止まる。

「着いたよ。もうちょっと待ってて」

 愛斗はそのまま病院の門を潜った。比較的大きな市立病院の付近には怪我人が溢れている。

 病院の中も例外では無かった。血を流し苦しむ者、痛みにうめく者が多々いる。

「怖いです・・・」

 愛斗はリリーが震えているのに気付いた。

「大丈夫だよ。もう病院の中だから」

 愛斗は近くを歩いていた看護婦に声をかけた。

「すいません。この子が怪我をしてるんです。見て頂けないでしょうか?」

 愛斗の顔を見た看護婦が腰を抜かした様に驚いた。

「皇太子殿下!?どうぞ、お入りください!」

 看護婦が診察室のドアを開けた。愛斗は診察室のドアを潜り、リリーをベッドに寝せた。直ぐに医者がやってくる。

「先生、お願いします」

 医者は頷き、リリーの診察を始めた。

「じゃあリリー?外で待ってるからね」

 愛斗は優しい声で言い、病室を後にした。リリーはそんな愛斗の優しい声に聞き惚れていた。


 愛斗は今、病院の中庭のベンチに座っている。リリーの診察が始まってから一時間程が経っていた。

「澪が心配してるかな?」

 愛斗は携帯電話を取り出し、屋敷へとダイヤルした。

 しばしの沈黙、その後の呼び出し音。澪が電話に出た。

「もしもし?」

「僕だよ、愛斗だ」

「若?どちらから?」

 愛斗は周りを見回してから答えた。

「今、小田原の近くの病院だ。空襲で怪我した女の子が居てね、病院で診察中だ。もう少しで帰れるよ」

「若にお怪我はありませんか?今から迎えに上がりますね」

 愛斗はありがとう、と礼を言い、またベンチに座った。丁度その時、看護婦がやって来た。

「すいません。診察が終りましたのでどうぞ」

 愛斗は頷いて、看護婦の後に付きながら診察室へと向かった。


 愛斗が診察室に入ると、リリーはベッドにちょこんと座っていた。開かない目で辺りを見回している。

「先生、どうでしたか?」

 医者は咳払いを二度、三度して、話し出した。

「まず、目ですが恐らく最新の治療を受けない限り、瞼が開く事は無いでしょう。恐らく爆発の光を直視してしまったせいですね。次に足ですが、頭を強く打った影響で完全に麻痺しています。同じく治療とリハビリが必要でしょう」

 愛斗は悲しい顔で頷いた。次にリリーを見る。この健気な少女は自分の身に起こった悲劇を理解出来ているのだろうか?

「そうですか・・・ありがとうございました」

 愛斗はそう言い、リリーに近づいた。

「リリー、命に別状は無いから安心してね」

 愛斗が優しく言うと、医者が愛斗に尋ねた。

「君達は兄弟か何かかね?」

「いえ、僕がこの子を助けたんです。今日が初対面ですよ」

 愛斗が説明すると、リリーが不意に呟いた。

「お母さんは何処?」

 愛斗と医者がリリーを見た。

「病院ならお母さんが来ているんじゃないの?」

 医者が言ったが、リリーは首を横に振った。

「違う。お母さんは仕事でまだ町に・・・」

 医者が残念そうに呟いた。

「残念ながらこの子は孤児院かも知れんな」

「そんな!捜す手はあるでしょう?」

 愛斗が反論したが、医者に遮られた。

「生きている望みは無いだろう。小田原の生存者は絶望的だ」

 リリーが場の空気を破って質問した。

「孤児院って何?お母さんは死んじゃったの?」

 医者が暗い顔で、声だけを明るくしてリリーに言った。

「孤児院ていうのはね、親のいない子供達がいっぱい居るところだよ」

「私にはお母さんがいます」

 医者は聞き分けの悪い子供に言い聞かせるように言った。

「君のお母さんはね、もうこの世界には居ないんだよ」

 医者の言葉にリリーの目から大粒の涙が溢れる。医者は気の毒そうに電話を手にとった。

「手続きの方はこちらで済ませるよ。それまで入院していなさい」

「待ってください!」

 愛斗の叫び声に医者とリリー、看護婦がびくっと体を震わせた。

「僕がリリーを引き取ります。それなら文句は無いでしょう」

 医者は顔を曇らせた。

「しかし、そう簡単ではないのだよ。君はまだ子供だし、養っていけるという保障も無い。それに本人に意思もある・・・」

 愛斗はリリーに近づき、手を握った。

「家族が居ないのなら僕が家族になってあげるよ。約束するよ、どんな時でも傍にいて守ってあげる。どんな時でも君に笑顔を与えてみせる」

 愛斗の強い口調にリリーは少し戸惑った。

「でも・・・迷惑じゃ・・・」

「迷惑なんかじゃない!僕とリリーは家族だよ。だから今は泣いてもいいんだよ」

 リリーは溢れてくる涙を止められなかった。そのまま愛斗に抱きつき、泣き始めた。愛斗はそんなリリーの頭を優しく撫でた。

「もう大丈夫。安心して・・・」

 愛斗は医者を見た。医者も仕方なく頷いた。愛斗はリリーをもう一度見つめた。

「この子は、リリーは僕が守ってみせるよ・・・。リリーに家族が居ないのなら僕がたった一人の家族だ。僕に家族が居ないのならリリーが僕の家族だよ」

 愛斗の優しい声に、リリーはただただ泣くことしか出来なかった。

次回は第三次世界大戦について、真相に迫っていきたいと思います。

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