番外編~World War Ⅲ ①~
番外編は当分続きそうです。
もうしばらくお付き合いください。
「大きな城だな~」
愛斗が感服の声を上げる。
「江戸城ですよ。昔は天皇の皇居だった場所です」
澪が説明する。愛斗は日本の皇帝として、江戸城にある日本軍大本営に出頭しなくてはいけない。これからもそうだろう。
「さあ、若。行きましょう。お偉いさんは痺れを切らしていますよ」
「僕が偉いんだから気にする必要は無いんじゃない?」
愛斗が最もな事を言う。
「いえ、立場上で優位なだけです。若の器量を発揮しなくては信用は生まれませんよ」
「分かったよ」
愛斗は渋々頷き、城門の前に立った。門の前には白い軍帽を被った海兵隊員がいる。
「皇帝陛下です」
澪が短く言うと、兵士は道を空けた。
「さあ、参りましょう」
愛斗と澪は並んで大本営へと足を踏み入れた。
中央司令部は大きなモニターだらけの部屋だ。愛斗はその中央の椅子に座った。
「で、何をすれば?」
愛斗が澪に尋ねた。
「これから会議ですので、報告を聞き、冷静な判断を下すのです」
澪が愛斗の耳元で囁いた。愛斗も頷き、全員に目配せした。
一人の無精ひげを生やした軍人が書類を読み始めた。
「ではご報告させて頂きます。まず我が軍の兵力はどう集めてもストライダムの十分の一程です」
愛斗が手元の書類を手に取り、頷いた。
「続いて、戦線についてですが今現在、ストライダムとの交戦は起こっておりません。しかし、敵は着々と日本攻略の準備を進めている状況です」
一通りの説明が終わり、愛斗が各部隊の配置図を見た。
「敵は多分、ここから来ると思う」
愛斗が北海道の一角を指差した。
「何故そう言いきれるのですか?」
「警備が薄いし、地形上にも上陸に適しているからね」
愛斗が澄ました声で言う。
「紹介が遅れました。私、日本陸軍最高司令官の浅代富嶽と申します」
無精ひげを生やした軍人が遅れて挨拶をした。
「僕がこれから軍の指揮を執る。皆、よろしく頼むよ」
愛斗が全員を見回して、言った。
屋敷に戻った愛斗は和室に座り込み、寝そべった。そして息を大きく吐き出す。
「疲れるよな。やっぱり・・・」
「仕方ありませんよ、若。若はそれ程期待されているという事です」
澪が夕飯の支度をしながら愛斗に言った。
「それより、まだ時間がありますし、遊びに出ては如何ですか?」
「そうしようかな・・・」
愛斗は起き上がって、屋敷から出た。日が沈みかけた森や川の景色はどこか懐かしさを感じさせた。
「公園にでも行こうかな・・・」
愛斗は近所の公園に向かって走り出した。
公園といっても、林の中に二つだけ遊具がある小さな公園だが、この時間は子供がよくいるので一緒に遊べるだろう。
愛斗は公園の前に立っていた少年に声をかけた。
「ねえ、近所の子?」
「ん?ああ、そうだけど」
二人の会話に気付いたのか、公園の中で遊んでいた六人程の少年がこっちに向かってきた。
「おい、どうした?」
「いや、何か知らない子が・・・」
ガキ大将的な子供がこっちに向かってきた。
「お前、新入りか?」
「まあ、引越しして来たばかりだけど」
愛斗がそう言うと、ガキ大将は少し笑みを浮かべた。
「俺は飯塚龍。お前は?」
「僕は澪坂愛斗だよ」
愛斗が笑顔で返す。
「そうか。丁度いい、俺と勝負だ」
「いいけど何で?」
「俺達の仲間になりたいのなら、俺と互角に戦って見せろ」
愛斗は笑顔を崩さずに行った。
「いいけど、どういう勝負をするの?」
「男はこれで勝負だ」
龍はそう言い、木刀を背中から引き抜いた。もう一本を愛斗の前に放り投げる。
「これで?」
「そうだ。何か文句あるか?」
「いや、無いよ。早速始めよう」
愛斗は木刀を拾い上げ、構えた。
「いい度胸だ」
龍が一気に愛斗に木刀を振り下ろす。愛斗はそれを軽い身のこなしで避けた。
「次は僕だ!」
愛斗が龍に木刀を勢い良く振り下ろした。
「まだまだ!」
龍がそれを受け止め、弾いた。龍が木刀を弾き返したときに空いた愛斗の脇腹へと斬り込む。
愛斗はそれを左手で受け止めた。右手で龍の頭に振り下ろす。
それを龍は避けることに成功した。
二人が少し間合いを取る。
「中々やるじゃねぇか」
「そっちこそ」
愛斗は笑みを浮かべた。エルネストなんかよりずっと張り合いがある。
「勝負はこれからだよ!」
愛斗はフェイントを掛け、間合いに飛び込んだ。龍が木刀で愛斗の喉を狙って突いた。
「はっ!」
愛斗はそれを避け、龍の腹に蹴りを決めた。
「がっ!」
龍が少しうめいた。愛斗は遠慮せずに木刀で次の一撃を叩き込む。
「くそっ!」
龍の右手が愛斗の木刀を受け止めた。
愛斗はまた離れて間合いを取る。
「お前、強いな・・・」
龍は木刀を投げ捨てた。
「お前の勝ちだぜ」
愛斗も木刀を同じ様に投げ捨てた。
二人は歩み寄り、お互いに握手をした。
「強けりゃ、大歓迎だ。今日から仲間だ」
愛斗も微笑みを返す。
二人の間に友情が生まれたその時、一人の大人が叫びながらこちらに走ってくるのが見えた。
「父ちゃん!」
龍が叫んだ。
龍の父は公園に入ってくるや否や、叫び始めた。手にはラジオが握られている。
「おい、龍!ラジオを聞いたか?」
「聞いてないよ!どうしたんだよ、父ちゃん?」
龍の父はラジオのスイッチを入れた。
ラジオから大きな声が響いている。その場にいた愛斗達も耳を傾けた。
「本日、午後五時三十分四十二秒。ストライダム皇国軍が北海道札幌市に上陸、攻撃を開始しました。これに対し、大本営はストライダム皇国に宣戦布告。交戦を開始しました。只今入った情報によると、ストライダム皇国軍は日本本土各地で上陸を開始し、戦闘を始めているとの事です」
愛斗はその放送を聞き、溜息をついた。
遂に戦争が始まったのだから。龍が愛斗達に向かって叫んだ。
「おい!聞いたか!遂に戦争だ!」
歓声が沸いた。
皆が勝利を信じていた。勇気ある民族としての誇りを胸に掲げて・・・
次回予告
愛斗にとっての最高の出会い。
それはリリーとの出会いだった。
次回、知られざる愛斗とリリーの出会いが明らかになる。
次回番外編「World War Ⅲ ②」お楽しみに