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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
第五章 過去の胎動
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番外編~Lamentations of the imperial~

更新が大分遅れました。まあ色々とやってるうちに忘れていた訳ですが・・・

 時は新世紀十一年、ここはストライダム皇国、バイエルン宮殿。宮殿の中庭は世界一とも謳われる庭園が広がっていた。そんな宮殿に一人の幼い少女がいた。

「ここ何処?」

 少女の声は中庭に寂しく響いた。少女の名前はカミーユ・ドルゴポロフといった。カミーユは宮殿に仕える侍女の娘だ。最近、この宮殿で住み始めた訳であまり構造を知らなかった。

「どうかしましたか?」

 カミーユは咄嗟に後ろを振り向いた。立っていたのは自分と背が変わらない綺麗な黒髪の少年だった。カミーユは戸惑ったが直ぐに答えた。

「道に迷ったちゃったの・・・」

「何処に行きたいのかな?」

 カミーユは小さな声で厨房、と言った。

「あちらですよ」

 少年はカミーユの後ろの扉を指差した。

「ありがとう」

 カミーユはそれだけ言うと、走り去っていった。


 カミーユの遊び相手は乳母だけだった。しかし、乳母には直ぐに飽きてしまった。同じ童話ばかり読むし、遊びは退屈だ。少年と出会ってから、三日後。カミーユは乳母から逃げた。そして中庭に向かったのだ。カミーユは中庭が好きだった。花も沢山ある。乳母の抑止を振り切って、カミーユは中庭に走った。中庭に行くと、噴水の脇にこの間の少年がいた。

「お兄ちゃん!」

 カミーユは少年に向かい、走っていった。少年もそれに気づく。

「君はこの間の女の子だね」

 少年も自分の事を覚えているようだった。カミーユは少年に抱きついた。カミーユを追ってきた乳母がそれに気づいた、猛ダッシュで走りよってくる。

「カミーユ!こら!」

 乳母はカミーユを少年から離した。

「この方はヨハン様、皇太子よ!失礼でしょ!すみません、ご無礼がありましたら謝罪します」

 どうやら少年はヨハンと言う名前らしい。しかも皇族のようだ。

「ごめんなさい。知らなくて・・・」

 カミーユは乳母に謝った。

「私じゃなくてヨハン様に謝りなさい」

「ごめんなさい」

 カミーユはとても不安になった。皇族に無礼な事をしたら大変な事になる。幼い少女でもそこは理解していた。しかし、ヨハンの口から出た言葉は以外な言葉だった。

「元気がいい子だね。僕と遊ぼうか?」

 ヨハンはそう言い、微笑んだ。

「よろしいのですか?」

 乳母は頭を下げたまま、訪ねた。

「構わないよ。僕も暇だったんだ」

 乳母は深く頭を下げ、何度も感謝の意を示した。

「ヨハン様の親切に感謝感激でございます」

 乳母はそう言うと、立ち去っていった。

「じゃあ、何をして遊ぼうか?」

 カミーユは即答した。

「お花で帽子を作りたい!」

 ヨハンは頷いた。

「いいよ、じゃあ、お花を摘もうか?」

 二人は咲き誇っている花を摘み始めた。その姿はまるで実の兄妹のようだった。


 ヨハンは毎日のようにカミーユの遊び相手を務めた。二人は時には中庭で遊び、厨房でおやつをもらう。平凡だが幸せだったに違いない。

 そんなある日、何時ものように中庭で花を摘んでいると、後ろから呼ばれた。

「おい、ヨハン!たまには訓練に顔出せよ!」

 その人物をカミーユは見たことがあった。確か今の皇帝の三男、エルネスト様だ。ヨハンは立ち上がると、叫んだ。

「今は僕たちの時間だ。邪魔しないでくれ」

 エルネストはその言葉にすこし腹を立てたようである。

「何だと、兄に生意気な口を利くのか?」

 エルネストは背中に背負っている木の剣を取り出した。

「丁度いい、僕と勝負しろ」

 ヨハンは自分に放り投げられた剣を拾った。

「よく言うよ。僕は兄さんに負けた事は一度も無いよ」

 エルネストは悔しそうに歯軋りをした。そして、攻撃目標を変えた。

「ヨハン、その女の子は誰だ?」

「カミーユだ。カミーユ・ドルゴポロフ」

「ドルゴポロフ?あぁ、あの出来の悪い侍女の娘か?」

 カミーユはその言葉で叫んだ。

「お母さんの悪口は言わないで!」

 カミーユはエルネストを叩いた。

「何を!僕を叩いたな!」

 ヨハンは直ぐにカミーユを止めた。

「カミーユ!駄目だよ。女の子がそんな事をしちゃ」

 何とかカミーユはエルネストから離れたが、エルネストは相当、腹を立てていた。

「侍女の娘の分際でこの僕に逆らうとは!お前を牢屋に閉じ込めてやる!」

 エルネストはカミーユの手を引きずり、歩き出そうとした。

「止めろ!」

 ヨハンが叫び、エルネストを押し倒した。

「痛い!」

 エルネストが叫び、転んだ。ヨハンが木の剣を構える。カミーユはヨハンの後ろに隠れた。

「やったな!」

 エルネストが立ち上がり、ヨハンと向かい合った。

「何をしているんだね?」

 三人は声の方を見た。

「ヴィルフリート兄さん!ヨハンが!」

「お前が女の子を苛めるからだろう!」

 二人は再び睨み合う。

「えいっ!」

 エルネストが木の剣を勢いよく振り下ろした。ヨハンはそれを見極めた。

「はっ!」

 ヨハンはその木の剣をカウンターで弾き飛ばした。

「うぅ~」

 エルネストが悔しそうに唸った。

「面白いじゃないか。頑張れよ」

 ヴィルフリートは傍観者として見物を開始した。

「止めて!」

 そこに一人の女の子が割って入ってきた。

「マリア!何故止める?」

 ヴィルフリートがマリアに尋ねた。

「喧嘩を止めるのは当然ですわ!」

 カミーユはマリアのことも知っていた。マリア・フォン・ストライダム。皇帝の次女だ。

「ほら、二人とも仲直りして」

 マリアが促すと、二人は仕方なく喧嘩を止めた。ヨハンはカミーユに向き直ると微笑んだ。

「怪我、してないよね?」

「うん!大丈夫!」

 カミーユが元気そうに頷くと、ヨハンも笑みを浮かべた。


 カミーユが異変に気づいたのはそれから一週間後、ヨハンはぱったりと姿を現さなくなってしまった。他の宮殿の子供に聞いても分からない。結局、ヨハンはカミーユの前から忽然と姿を消してしまった。

 噂を聞けば反対派によって殺されたらしい。カミーユはヨハンと逢えなくなってからというもの、心を閉ざし、無口な少女になってしまった。

 カミーユは今でもヨハンを思い出す。それほど特別な人だったからだ。


次回も番外編をやりたいです。

後、ご意見・ご感想をお待ちしております。

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