番外編~Lamentations of the imperial~
更新が大分遅れました。まあ色々とやってるうちに忘れていた訳ですが・・・
時は新世紀十一年、ここはストライダム皇国、バイエルン宮殿。宮殿の中庭は世界一とも謳われる庭園が広がっていた。そんな宮殿に一人の幼い少女がいた。
「ここ何処?」
少女の声は中庭に寂しく響いた。少女の名前はカミーユ・ドルゴポロフといった。カミーユは宮殿に仕える侍女の娘だ。最近、この宮殿で住み始めた訳であまり構造を知らなかった。
「どうかしましたか?」
カミーユは咄嗟に後ろを振り向いた。立っていたのは自分と背が変わらない綺麗な黒髪の少年だった。カミーユは戸惑ったが直ぐに答えた。
「道に迷ったちゃったの・・・」
「何処に行きたいのかな?」
カミーユは小さな声で厨房、と言った。
「あちらですよ」
少年はカミーユの後ろの扉を指差した。
「ありがとう」
カミーユはそれだけ言うと、走り去っていった。
カミーユの遊び相手は乳母だけだった。しかし、乳母には直ぐに飽きてしまった。同じ童話ばかり読むし、遊びは退屈だ。少年と出会ってから、三日後。カミーユは乳母から逃げた。そして中庭に向かったのだ。カミーユは中庭が好きだった。花も沢山ある。乳母の抑止を振り切って、カミーユは中庭に走った。中庭に行くと、噴水の脇にこの間の少年がいた。
「お兄ちゃん!」
カミーユは少年に向かい、走っていった。少年もそれに気づく。
「君はこの間の女の子だね」
少年も自分の事を覚えているようだった。カミーユは少年に抱きついた。カミーユを追ってきた乳母がそれに気づいた、猛ダッシュで走りよってくる。
「カミーユ!こら!」
乳母はカミーユを少年から離した。
「この方はヨハン様、皇太子よ!失礼でしょ!すみません、ご無礼がありましたら謝罪します」
どうやら少年はヨハンと言う名前らしい。しかも皇族のようだ。
「ごめんなさい。知らなくて・・・」
カミーユは乳母に謝った。
「私じゃなくてヨハン様に謝りなさい」
「ごめんなさい」
カミーユはとても不安になった。皇族に無礼な事をしたら大変な事になる。幼い少女でもそこは理解していた。しかし、ヨハンの口から出た言葉は以外な言葉だった。
「元気がいい子だね。僕と遊ぼうか?」
ヨハンはそう言い、微笑んだ。
「よろしいのですか?」
乳母は頭を下げたまま、訪ねた。
「構わないよ。僕も暇だったんだ」
乳母は深く頭を下げ、何度も感謝の意を示した。
「ヨハン様の親切に感謝感激でございます」
乳母はそう言うと、立ち去っていった。
「じゃあ、何をして遊ぼうか?」
カミーユは即答した。
「お花で帽子を作りたい!」
ヨハンは頷いた。
「いいよ、じゃあ、お花を摘もうか?」
二人は咲き誇っている花を摘み始めた。その姿はまるで実の兄妹のようだった。
ヨハンは毎日のようにカミーユの遊び相手を務めた。二人は時には中庭で遊び、厨房でおやつをもらう。平凡だが幸せだったに違いない。
そんなある日、何時ものように中庭で花を摘んでいると、後ろから呼ばれた。
「おい、ヨハン!たまには訓練に顔出せよ!」
その人物をカミーユは見たことがあった。確か今の皇帝の三男、エルネスト様だ。ヨハンは立ち上がると、叫んだ。
「今は僕たちの時間だ。邪魔しないでくれ」
エルネストはその言葉にすこし腹を立てたようである。
「何だと、兄に生意気な口を利くのか?」
エルネストは背中に背負っている木の剣を取り出した。
「丁度いい、僕と勝負しろ」
ヨハンは自分に放り投げられた剣を拾った。
「よく言うよ。僕は兄さんに負けた事は一度も無いよ」
エルネストは悔しそうに歯軋りをした。そして、攻撃目標を変えた。
「ヨハン、その女の子は誰だ?」
「カミーユだ。カミーユ・ドルゴポロフ」
「ドルゴポロフ?あぁ、あの出来の悪い侍女の娘か?」
カミーユはその言葉で叫んだ。
「お母さんの悪口は言わないで!」
カミーユはエルネストを叩いた。
「何を!僕を叩いたな!」
ヨハンは直ぐにカミーユを止めた。
「カミーユ!駄目だよ。女の子がそんな事をしちゃ」
何とかカミーユはエルネストから離れたが、エルネストは相当、腹を立てていた。
「侍女の娘の分際でこの僕に逆らうとは!お前を牢屋に閉じ込めてやる!」
エルネストはカミーユの手を引きずり、歩き出そうとした。
「止めろ!」
ヨハンが叫び、エルネストを押し倒した。
「痛い!」
エルネストが叫び、転んだ。ヨハンが木の剣を構える。カミーユはヨハンの後ろに隠れた。
「やったな!」
エルネストが立ち上がり、ヨハンと向かい合った。
「何をしているんだね?」
三人は声の方を見た。
「ヴィルフリート兄さん!ヨハンが!」
「お前が女の子を苛めるからだろう!」
二人は再び睨み合う。
「えいっ!」
エルネストが木の剣を勢いよく振り下ろした。ヨハンはそれを見極めた。
「はっ!」
ヨハンはその木の剣をカウンターで弾き飛ばした。
「うぅ~」
エルネストが悔しそうに唸った。
「面白いじゃないか。頑張れよ」
ヴィルフリートは傍観者として見物を開始した。
「止めて!」
そこに一人の女の子が割って入ってきた。
「マリア!何故止める?」
ヴィルフリートがマリアに尋ねた。
「喧嘩を止めるのは当然ですわ!」
カミーユはマリアのことも知っていた。マリア・フォン・ストライダム。皇帝の次女だ。
「ほら、二人とも仲直りして」
マリアが促すと、二人は仕方なく喧嘩を止めた。ヨハンはカミーユに向き直ると微笑んだ。
「怪我、してないよね?」
「うん!大丈夫!」
カミーユが元気そうに頷くと、ヨハンも笑みを浮かべた。
カミーユが異変に気づいたのはそれから一週間後、ヨハンはぱったりと姿を現さなくなってしまった。他の宮殿の子供に聞いても分からない。結局、ヨハンはカミーユの前から忽然と姿を消してしまった。
噂を聞けば反対派によって殺されたらしい。カミーユはヨハンと逢えなくなってからというもの、心を閉ざし、無口な少女になってしまった。
カミーユは今でもヨハンを思い出す。それほど特別な人だったからだ。
次回も番外編をやりたいです。
後、ご意見・ご感想をお待ちしております。