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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
第四章 死せる者達
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三十七話 最愛の別れ

 秀人はふと目を覚ました。銀色の天井が広がっている。

「目が覚めましたか?秀人さん」

 秀人は上半身を起こし、声の人物を見た。それはリリーだった。

「リリー、怪我は無いかい?」

 秀人はあの夜、リリー救出に成功していたのだ。傍にはジェラルドがいた。

「おぉ、秀人。目、覚めたか?」

 リリーは秀人を見た。

「あの、愛斗さんの事ですけど・・・」

 秀人は身を固くした。次の嘘を考えなくては・・・。

「秀人さん・・・愛斗さんは過ちを犯したんですね?」

 秀人はリリーをゆっくりと見た。

「誰から聞いた?」

「俺が全て話したんだよ」

 ジェラルドが水を注ぎながら言った。

「ジェラルド?何故話した?」

 ジェラルドは水を秀人に渡すとため息をついた。

「嘘で誤魔化すより本当の事を話した方がいいだろ」

 リリーも頷く。

「愛斗さんが過ちを犯して、クローディヌさんや他の人も殺したのなら・・・私が愛斗さんに罪を償わせます。私は今日から愛斗さんの敵にです」

 リリーの声には涙が混じっていた。

「テレビ点けるぞ。丁度、澪坂愛斗の戴冠式だ」

 ジェラルドがテレビのスイッチを入れた。


 ここは東京。政庁府から伸びる街道には大在の国民が集まっている。その街道に大きな神輿のような車が走り出そうとしている。中には真っ白い正装に身を包んだ愛斗がいた。街道にはアナウンサーが大勢居る。全員がこの記念式典を心待ちにしていた。

「さぁ、いよいよ我らの救世主、そして日本の統治者である新生大日本帝国皇帝、能面の百鬼様が遂に素顔をお見せになります。あっ!見えました!」

 愛斗は堂々と素顔で玉座に座った。横にはカノンと無事に帰還した海星がいる。皇帝の顔を見た国民は口々に話し始めた。

「あれが皇帝陛下?もっと怖いお顔かと思ったわ」

「でも、頼りなさそうね・・・」

「素晴らしい・・・実に堂々としていらっしゃるぞ・・・」

 飛行艇の中の絢も感激の声を上げた。

「あれが能面の百鬼かいな。凛々しい顔やな~」

 車が進み始めるとアナウンサーが実況を始めた。

「さぁ、中央の玉座に座っていらっしゃる御方こそ、皇帝陛下です!その隣には副指令の浅代様、海星様のお姿があります。そして、パレードの先頭を務めるのは玄武隊です。隊長は柏カリーヌ様。左翼を守るは青龍隊、右翼を守るは白虎隊、後方は朱雀隊です。そして、六華戦の方々もお見えになりました!」

 愛斗は歓声に沸く国民に手を振った。

「まぁ、お手をお振りになったわ!」

 一人の女性が叫ぶと、歓声がより大きくなった。愛斗は歓声に包まれながら只、前を見ていた。


 そんな歓声に包まれている中、街道の脇のビルの十階には一人のエレメントがいた。男は狙撃銃に弾を込めた。男に任された任務は皇帝の暗殺だった。男は銃を構え、狙いを定めた。狙いは愛斗の頭だ。

「この命、皇国のために・・・」

 男は引き金に指を掛けた。


 カノンは胸を張り、愛斗の横に立っていた。そして幸か不幸か、カノンの目は愛斗に向けられた銃口に気づいた。カノンが次にとった行動、カノンは愛斗を庇う様に射程内に飛び込んだ。

「閣下!危ないです!」

 次の瞬間、短い銃声が響いた。歓声が止む。カノンの胸から赤い鮮血が垂れた。

 五秒間の静寂。海星が我に返り、叫んだ。

「あのビルだ!行け、青龍隊!犯人を殺せ!」

 左にいた青龍隊がビルの方角へ飛んでいった。

 愛斗は玉座から立ち上がると、カノンに近づいた。そして、カノンを自分の膝の上に乗せた。

「浅代?目を開けろ!」

 カノンがゆっくりと目を開けた。

「か、閣下・・・お怪我はありませんか・・・?」

「あぁ、大丈夫だ。だから、喋るな!」

 しかし、血は止まらない。回りに出来た血溜りが彼女の命の短さを教えていた。

「閣下、私は・・・幸せでした・・・最期に・・・」

「駄目だ!死ぬな!お前はリリーの代わりになると言ったじゃないか!」

 海星が愛斗の後ろに立った。

「閣下、救急隊を呼びますか?」

「当たり前だ!急げ!」

 海星が頷き、叫んだ。

「救急隊を呼べ!」

 愛斗はカノンを更に抱きしめた。

「お前が死ぬ時は俺が死ぬ時だ!お前がそう言ったんだ!死ぬのは許さない!」

「閣下、すみません・・・どうやらそのお約束は守れそうにありません・・・」

 愛斗の目から涙が溢れる。

「駄目だ!死ぬな!リリーも死に、お前も死んだら・・・」

 カノンは死に際にあるというのに笑顔を見せた。

「閣下?私は・・・世界のノーマルの希望に・・・なれましたか?」

「あぁ、お前は全世界のノーマルの英雄だ!だから、死ぬな!」

 カノンは空を見上げ、最期の言葉を言った。

「閣下、私は・・・何時でも・・・閣下を・・・」

 カノンは安らかに目を閉じた。愛斗はカノンを激しく揺すった。

「浅代!?おい!目を開けろ!」

 しかし、返事は返ってこなかった。白い服を着た救急隊が今更になってやってきた。

「閣下、救急隊が来ました!」

 愛斗は冷ややかに呟いた。

「遅い・・・」

「はい?」

「遅い!もう意味が無い!」

 海星はカノンに近づき、脈を計った。

「駄目だ・・・脈が無い・・・」

 車の階段を井崎が上ってきた。

「閣下、パレードは中止しますか?それにお召し物が血で台無しです。お着替えをお持ちしましょうか?」

 愛斗はカノンを抱えると、玉座に座らせた。

「いや、パレードは続ける。俺も着替えない。しかし、パレードの内容は変更だ。戴冠パレードは中止にして、浅代の追悼パレードを執り行う。車を走らせろ」

「御意」

 井崎は指示を部下に出した。回りから歓声が飛ぶ。群集が再び、叫びだした。井崎は立ち上がった愛斗の姿を見て、呟いた。

「閣下、そのお姿は・・・」

 愛斗の来ていた白い正装は血で紅に染まっていた。まるで日本の国旗、日の丸の様だった。


次回予告

カノンを失い、心を閉ざした愛斗。

その頃、渚もある決意を固めていた。

愛斗は立ち直れるのか?渚の選ぶ道は?

次回三十八話「真実の意味」お楽しみに

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