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秀人と愛斗!  作者: ゼロ&インフィニティ
第四章 死せる者達
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三十六話 失ったもの

 ドレッドノートのハッチが開いた。装甲が溶けた機体がゆっくりと着地する。アルヴィのリーファンクだ。そこから愛斗が飛び降りた。

「井崎!確認したい事がある!」

 井崎が直ぐに走り寄って来る。

「閣下、何でしょうか?」

「犠牲者の名簿を見せろ。民間人もだ」

 井崎は隣の男から、書類を受け取ると愛斗に渡した。

「これ全部か?多いな」

「はい、民間人だけで五百枚です。軍関係の犠牲者はこちらに・・・」

 愛斗は井崎の説明など聞かずに必死に五十音順に並んだ名前から目的の名前を探した。そして、四百九十三枚目に見つけた。

「リリー・・・逃げろと言ったのに!」

 愛斗は書類を床に叩きつけた。更に近くの兵士に掴みかかった。

「お前、何故助けなかった!」

 いきなり胸倉を掴れた兵士は必死に叫んだ。

「私は出撃していませんので・・・」

 愛斗は兵士を突き飛ばした。直ぐにカノンが愛斗を押さえた。

「閣下!落ち着きください!」

 愛斗はカノンの腕を振り払い、膝から床に崩れ落ちた。

「俺を一人にしてくれ。話し掛けるな」

 愛斗はそれだけ言うと、部屋に重い足取りで歩いて行った。


 政庁府では皇国軍が撤退準備を始めていた。秀人は機体ごと回収され、聖霊騎士団の死者はニコライただ一人であった。その政庁府に一機のEMAが降り立った。

「お前はここで降りろよ。ここから先に進むと、撃ち落されそうだ」

 そうロランが言うと、ジェラルドは飛び降りた。

「礼を言わないとな。サンキュー」

 ロランは照れくさそうに笑った。

「まぁ、事態が事態だからな。次に会うときは戦場だ」

 ロランはそう言うと、飛び立った。ジェラルドはしばらくの間、見送っていた。


 その晩、愛斗は部屋のベッドに座り込み、うわ言のようにリリーの名前を呟いていた。

「リリー・・・俺は・・・お前に何一つしてやれなかった・・・」

 愛斗は勢いよく立ち上がり、コップを床に叩きつけ、割った。自分自身に腹が立つ。リリーを助けられなかったという罪悪感とリリーとの約束を何一つ守れなかったという後悔の念で愛斗は潰されそうになっていた。

「リリー、俺はお前がいないと何も出来ない男なんだ・・・お前が唯一の俺の支えだったんだ」

 愛斗にとってのリリーは家族以上の存在だった。

「俺は戦う目的を失った・・・お前の笑顔を見る事はもう出来ない。お前の声を聞く事も出来ない」

 静寂の中、ドアが叩かれた。

「閣下、井崎ですがお邪魔してよろしいでしょうか?」

「鍵は掛かっていない。入って来い」

 井崎は恐る恐る部屋に足を踏み入れた。床には物が散乱している。

「閣下に見てもらわなくてはいけない物があります。我が軍の犠牲者名簿です。それに・・・」

「後にしてくれ・・・それとも俺にリリーの事を思い出させるつもりか?」

 井崎は直ぐに床に土下座をした。

「いえ、滅相も無い!私は閣下に事実を知ってもらいたいのです!」

 愛斗はベッドの両端を思い切り叩いた。

「黙れ!出て行け!俺に近づくな!老いぼれは書類と格闘していればいい!」

 井崎は怯えた兎のように部屋を出て行った。三十分後、再びドアが叩かれた。

「隊長、入りますよ」

 ドアを開けて入ってきたのはロランとアルヴィだった。ロランが口を開いた。

「隊長、あの・・・すみませんでした。俺がもう少し早ければ・・・」

 アルヴィも気まずそうだった。

「僕も・・・すみません。リリーさんはきっと成仏して、隊長を見守ってくれていますよ」

 愛斗は小さい声で呟いた。

「言いたい事はそれだけか・・・」

 愛斗はゆっくりと立ち上がり、二人に近づいた。

「ロラン、お前はリリーを何故、助けなかった?」

「いえ、隊長、俺は助けに行きました。でも、間に合わなかったんです」

 愛斗は怒鳴った。

「俺はそんな事は聞いていない!結果を聞いているんだ!」

「た、助けられませんでした・・・」

「最初からそう言え。俺はお前の言い訳を聞きたい訳じゃない」

 愛斗は次にアルヴィを見た。

「アルヴィ」

 アルヴィは肩を震わせて返事をした。

「何ですか、隊長?」

「お前は何故、リリーを助けなかった?」

 アルヴィは言いにくそうに呟いた。

「敵と戦っていました・・・」

「お前はリリーより敵を選んだのか」

 アルヴィは小さな声で反論した。

「いえ、僕は・・・」

 愛斗は大声で怒鳴った。

「黙れ!誰がお前に口答えする権利があると言った?お前らは俺が助けに行けといったら、助けに行け!お前らは俺の駒だ!俺が戦えと言ったら戦い、俺が死ねと言ったら死ね!捨て駒が!」

 アルヴィは何か言おうとしたが、ロランに肩を叩かれて部屋を出て行った。

「もう二度と来るな・・・」

 愛斗は携帯電話を手にとり、リリーにかけた。本日、八十七回目の行動だ。五分ほど経って、次はカノンがドアを叩いた。

「入れ」

 愛斗が入室を許可するとカノンが部屋に入ってきた。愛斗はカノンが自分を慰める言葉や謝罪をしたら直ぐに怒鳴って部屋を追い出すつもりだった。しかし、カノンは意外な言葉を口に出した。

「閣下、寂しいのですか?」

 愛斗はカノンを見ると、呟いた。

「お前は何をしに来た?」

「閣下を助けに来ました」

 カノンは愛斗の頭を抱きしめた。

「閣下は寂しいのですよね・・・そして、思っても無い事を口に出す。閣下の悪い癖ですよね?」

 愛斗はカノンの腕の中でぼそりと言った。

「リリーは俺にとって唯一無比の存在だった。俺はリリーとの約束を守れなかった、駄目な男だ」

「私で代わりになるか分かりませんが、寂しいのなら私がリリーさんの代わりになります」

 カノンは愛斗の胸に顔を埋めた。

「閣下が悲しいのなら一緒に悲しみ、閣下が喜ぶのなら私も喜び、閣下が死ぬ時が私の死ぬ時です」

 そして、カノンは愛斗に無邪気な、リリーのような笑顔を見せた。

「私は閣下の部下であり、リリーさんの代わりですから」

 愛斗は自然と涙が溢れた。

「ですから、戴冠パレードにご出席ください。そこで、能面をお取りになり、素顔を国民に見せるのです」

「分かった。戴冠パレードには出席しよう。もちろん素顔で・・・だからしばらくこのままで居させてくれ」

 カノンは頷くと、愛斗の膝の上で寝息を立て始めた。

次回予告

カノンの言葉に励まされ、戴冠パレードに出席する事を決めた愛斗。

そして明らかになるリリーの生死。

戴冠パレードで愛斗をさらなる悲劇が襲う。

次回三十七話「最愛の別れ」お楽しみに

後、兵器紹介も更新したいと思います。

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