三十一話 それぞれの企み
この小説のアナザーストーリーの連載を開始しました。本編がダークな内容ばかりなので、ライトな物語が見たい方はそちらの方もどうぞよろしくお願いします。
学校に来た秀人はまず生徒会室に行く。今日もそれは同じだった。ドアを開けると何時ものように渚がいる。
「秀人くん、もう直ぐ学園祭なのよね。知ってた?」
秀人は初耳だったので驚いた。
「全く知らなかったよ。何をやるの?」
渚はとっておきの笑みを浮かべた。
「今、企画しているのは仮装パーティーなのよね。どう思う?」
秀人は仮装パーティーと聞いて、興味を抱いた。
「面白そうじゃん。やろうよ」
丁度、イヴォンがやってきた。
「イヴォンくん!仮装パーティーをやろうと思うんだけどどうかな?」
「俺は良いと思うぜ」
続いて、クローディヌとヨハンが入ってきた。
「クローディヌとヨハンはどう思う?仮装パーティー」
「良いんじゃないかしら」
「僕も賛成です」
渚は手を叩いた。
「じゃあ、早速準備開始ね」
渚は書類を整理し始めた。他のメンバーも各自の仕事に取り掛かる。秀人は椅子に座り、愛斗の写真を見た。そして、リリーのことを思い出した。
「皆、ちょっと用事を思い出した。授業に遅れるかもしれないから教官に伝えておいて」
イヴォンが頷いた。
「わかったぜ」
秀人は病院へ向かった。
「リリー?いるかな?」
リリーがこちらを向いた。
「秀人さん?愛斗さんも一緒ですか?」
秀人の顔が暗くなった。悟られないようにベッドに近づき、リリーの手を握った。
「愛斗は忙しいみたいで当分来られないんだ。でも心配するなって言ってたよ」
秀人は胸が苦しくなった。リリーに嘘はつきくた無かった。でも、
「リリー、落ち着いて聞いてくれ。愛斗は死んだ。反乱を起こして、僕が撃ち落したんだ」
何て言える訳ない。リリーは悲しそうな顔をしたが直ぐに笑顔になった。
「会えないのは寂しいですけど、永遠に会えない訳じゃないので平気です。愛斗さんに無理をしないでと伝えてください」
秀人は項垂れた。この少女は永遠に会えない事に気づいてない。嘘を何時までも吐きとおすのは無理だ。何時かはバレる。その時僕はどうすればいいのだろう。
「分かった。愛斗に伝えておくよ。リリーも気をつけてね。夜は冷えるから」
結局、こんな言葉しか出てこなかった。
「秀人さん?何か辛い事でも?」
「何でも無いよ。じゃあね、授業に遅れないようにしないと」
リリーも笑顔で返してくれた。
「はい、さようなら。秀人さん」
秀人は初めて愛斗を葬った事を酷く後悔した。
クローディヌは一人ほくそえんでいた。
「仮装パーティー。これで秀人さんとの中を急接近ですわ」
クローディヌは色々と妄想を繰り広げていた。
「おい、クローディヌ?大丈夫か?」
イヴォンの声でクローディヌは我に返った。
「へっ!だ、大丈夫よ!」
ヨハンは声を上げて笑った。
「クローディヌさんは仮装パーティーが楽しみみたいだね。相当浮かれているし」
クローディヌの頬が赤く染まった。澪坂愛斗にそっくりなヨハンに普通なら、嫌悪感を抱くのだが、何故か、ヨハンの笑顔を見ていると顔が赤くなってしまう。恐らく、恋心に近いものを抱いているのだろうが、クローディヌはそれを認めようとしない。
「この書類はどうすればいいんだ?」
イヴォンが渚に尋ねた。
「それはまだいいわ。それより、こっちの書類を・・・」
クローディヌはため息をついた。ヨハンは思い出したように、
「ちょっと用事を思い出しました。行って来ますね」
と言い、部屋を出て行った。
部屋を出たヨハンは学園長室に向かった。学園長室の前の警備は手薄だ。手薄になる時間帯を狙ってきたのだから手薄なのは当たり前だが。
「学園長?いますか?ヨハンですけど・・・」
「入ってよいぞ」
ヨハンはドアを開けて中に入った。
「学園長?お尋ねしたい事が」
学園長はヨハンの顔をじっと睨んだ。
「何か?」
「いや、澪坂愛斗にそっくりじゃのう・・・と思ってな」
「よく言われますよ」
学園長は咳払いをした。
「すまん。で、何用じゃ?」
ヨハンは微笑む。両目が眩いばかりの光を放った。学園長もその光をオスカーと同じように直視した。
「動力室のパスワードを教えろ」
そう言い、ヨハンは一枚のメモ用紙を取り出し、ペンと一緒に机の上に置いた。学園長はそこに二十桁の数字を書いた。
「これで間違いないな?」
学園長は虚ろな目で頷いた。
「あぁ、それで正しいはずじゃ」
目の光が収まった。学園長が我に返る。
「何だ、ヨハン君?何の用じゃ?」
「いえ、何でもありません」
ヨハンはそう言うと、部屋を出て行った。
ヨハンが次に向かったのは薄汚れたレジスタンスの本部であった。能面を被り、中に入る。中には大勢の兵士や民間人がいた。一人の大将格の男がヨハンの姿を見て驚いた。
「貴方は能面の百鬼様?」
周りの視線がヨハンに集まる。その男は何時ぞやのレジスタンス、石田大尉であった。石田大尉は叫んだ。
「皆、この方は俺の命を救ってくださった恩人だ。丁重に歓迎しろ」
石田大尉はヨハンに近づいた。
「今日はどのような理由でこの薄汚い場所へ?」
「お前たちに協力してもらいたい。日本からエレメントを追い出すために」
石田大尉は驚いた顔を見せた。
「何ですと?そんな事が可能なのですか?」
「すでに新生大日本帝国と関西連合は手を組んでいる。後は東京を、首都を落とすだけだ」
石田大尉は少し考えた。そして、顔を上げる。その顔には決意の色が浮かんでいた。
「はい、協力しましょう。何をすれば?」
ヨハンは冷たい声で言った。
「指示を待て。それだけだ」
石田大尉は頷いた。
その夜、リリーは愛斗の事を考えていた。
「愛斗さん・・・会いたいです。どうして会いに来てくれないんですか?」
その時、窓が開く音がした。涼しい夜風が吹き込んでくる。
「誰かいるの?」
聞き覚えのある声が響く。
「俺だ。愛斗だ。久しぶりだな」
リリーは驚いて大声を出した。
「愛斗さん?どうしてこんな時間に?しかも窓から・・・」
愛斗はリリーの頭を手で撫でた。
「あまり大声を出さないでくれ。いいか、よく聞け。悪いテロリストが戦争を始めようとしている。九月九日、この日までに街から逃げないと駄目だ。迎えを出す。九月九日の午後六時に新渋谷駅に来い。いいな?」
リリーは頷いた。
「分かりました。愛斗さんは?」
愛斗は優しく言った。
「俺はやる事がある。先に逃げてくれ」
「嫌です。愛斗さんと一緒じゃないと・・・」
愛斗は何時に無く厳しい声で言った。
「頼む、お願いだ。逃げてくれ」
リリーは観念したように頷いた。
「分かりました」
「ありがとう、リリー」
愛斗はリリーの頬にキスをして、再び窓から降りていった。
「愛斗さん・・・」
リリーは悲しみの混じった声で呟いた。
次回予告
いよいよ学園祭本番。
クローディヌの、愛斗の企みが動き出す。
その時秀人は?
次回三十二話「決戦・学園祭」お楽しみに