三十話 紫電、再び
祝、三十話目です。
八月二十四日深夜未明。ここは新生大日本帝国最大の戦艦、ドレッドノートの司令室である。中央の玉座には愛斗が座っていた。脇にはカノンと海星が副官として立っている。司令室に乗組員の声が響いた。
「新大阪、連合本部まであと五分です」
大阪を本部として、実質的に関西を仕切っている関西連合の本部は大阪にある。愛斗率いる帝国軍は大阪連合盟主である鳳凰院 絢との会談のためにはるばる大阪まで来たのだ。
「着陸します」
大きな飛行場に戦艦は着陸した。
「浅代、海星、行くぞ」
愛斗はそう呟くと能面を被った。建国を宣言した時に能面を被っていたので、今も人前では被るようにしているのだ。戦艦のタラップから降りると、黒服のSPが大勢待ち構えていた。その一番前に愛斗と同い年くらいの少女がいた。
「ようこそ、大阪へ。ウチが関西連合盟主の鳳凰院絢や」
愛斗は差し出された手を握り返した。
「俺が新生大日本帝国皇帝、能面の百鬼だ」
絢はSPに道を空けるように指示を出した。
「お客さんを部屋に頼むわ」
SPは頷いた。応接間の様な部屋に通された愛斗とカノンと海星はソファーに座った。続いて、絢が入ってくる。
「何や、部屋に入っても面は取らんのかいな」
「俺は能面の百鬼だ。他の何者でもない」
絢は大体納得した、といった顔で向かいのソファーに座った。
「そちらのお二人さんは?」
カノンが一歩前に出て、絢の手を握った。
「私は新生大日本帝国精鋭部隊六華戦小町隊隊長兼、副指令の浅代カノンです」
海星もそれに習った。
「同じく厭海星だ」
「飲み物は紅茶でもええか?」
愛斗は頷いた。
「構わない。それより、本題に入りたいのだが」
絢が宥めた。
「まぁ、まだそっちの戦力が頼りになるか分からへんからな」
愛斗は写真を大理石のテーブルに置いた。
「これが俺の紫電だ。噂は聞いているだろう」
絢は写真を興味深そうに眺めた。
「紫電!カッコええな~。でも、壊されたんとちゃうのか?」
愛斗は頷いた。
「あぁ、一度はな。正確に言うと今は紫電ではない、紫電改だ」
「なんや、カッコええ名前やな」
愛斗は資料を見せた。
「破壊された紫電を回収し、再び改装した。以前の紫電のスペックの二倍の性能を得た最強のEMAだ」
綾は紅茶を啜ると、笑って見せた。
「実戦を見ん限りは何とも言えんなぁ」
ドアが勢いよく開いた。
「なんや、会議中やで」
「姫様、警備隊に感づかれました!こちらに向かってきております!」
愛斗は能面の中で不敵な笑みを浮かべた。
「紫電改で行く。実戦を見せてやろう」
そう言い、愛斗は立ち上がった。
「カノン、海星。スタンバイだ」
「了解」
三人は部屋を出た。
司令室のアルヴィは連絡を受けて、紫電改の出撃の用意をしていた。
「相変わらず立派ですね。隊長の紫電は」
後ろには愛斗が立っていた。そして紫電改のハッチを開けた。
「紫電改、発進用意!十秒前!」
シャフトが開いた。愛斗は能面を外し、通信をオンにする。
「こちら紫電改。アルヴィ、用意はいいか?」
「もちろんですよ!隊長、何時でも発進できます」
愛斗は紫電をのスロットルを限界まで下げた。
「最初から出力全開で行く。紫電改、発進!」
紫電改はエアウィングを機動させ、敵のいる方角へと飛び去った。
「敵を確認、戦闘を開始する」
紫電改は両腕を広げた。脇の部分と背中からミサイルを一斉に射出した。二キロ程先で小爆発が起こる。敵の警備部隊の隊長は通信で叫んだ。
「報告しろ!被害はどの程度だ!?」
他の警備員の声が聞こえた。
「隊長!紫電です!」
隊長は血の気が引くのが分かった。
「紫電?澪坂愛斗の紫電か?」
「はい、信じたくありませんが、目の前に・・・」
通信が途絶えた。
「あれは・・・紫電・・・」
漆黒の機体が夜の空に現れた。
「ぐおおおおおお!」
隊長は死に物狂いで切り掛かった。紫電改の鋭い一閃。隊長機は二つに裂かれ、墜落した。紫電改に通信が入った。
「ホンマにすごいなぁ。感動したわ。えぇよ、同盟締結や」
絢のその言葉を聞いて、愛斗は笑みを浮かべた。
「こちら紫電改、只今より帰還する。急いで熱海に帰還するぞ」
紫電改は満月の下を優雅に帰還した。
次回予告
待ちに待った学園祭がやってきた!
心待ちにする生徒たち。
愛斗の企みが動き出す。
次回三十一話「それぞれの企み」お楽しみに