二十三話 伊豆戦争勃発
愛斗は熱海本部で書類や地図を見比べ作戦を練っていた。その脇の机ではカノンが補佐をしていた。
「閣下。先ほどは素晴らしい演説でしたね」
愛斗は微笑を浮かべながらクールに言った。
「演説などではない。思った事を国民に訴えかけただけだ」
晴れて皇帝になった愛斗はこれから攻めてくるであろう皇国軍との戦いに備えて十分に作戦を練る必要があった。
「浅代よ、お前のEMAを俺に見せてくれないか?」
カノンは嬉しそうに頷いた。
「もちろんです。閣下」
愛斗は立ち上がった。
「よし、では行くぞ。格納庫はどっちだ?」
カノンが案内をした。
「こちらです。閣下」
大きな格納庫の扉の中には大きなEMAが置いてあった。
「これが私の愛機、「武神乙式」です。私の腕はまだ未熟ですが・・・」
赤と金を基調にした武神乙式は悠然と立っていた。
「いい機体だ・・・心が奮い立つ。いいEMAに恵まれたな」
カノンは顔を赤くして言った。
「光栄です」
その時、格納庫の扉から誰かが入ってきた。ロランだ。
「隊長!伝令です!エルネスト・ストライダム総督を中心とする討伐軍が侵攻を開始しました」
愛斗は待ち侘びていたとばかりに笑った。
「敵の配置を報告しろ」
ロランは頷いた。
「はい。陸路で小田原方面からEMA部隊二個連隊、対地ヘリ部隊一個大隊が熱海に向けて進撃中。相模湾から同じく熱海に向けてエルネスト総督が乗る旗艦を中心にEMA部隊が一個大隊。伊東方面にEMA部隊一個連隊、下田にも同じく一個連隊、三島方面には敵の対地ヘリ部隊が二個大隊です」
愛斗はうっすらと笑みを浮かべた。全て予想通りだ。
「今すぐ、全員を集めろ。作戦を報告する」
ロランは一礼し、格納庫を出て行った。愛斗はカノンの方を向いた。
「浅代、お前には大事な仕事がある。手伝ってくれるか?」
「もちろんです。閣下」
カノンは頷いた。
輸送艇の司令室には新帝国軍の士官が三十人ほど集まっていた。愛斗はその中央の席に座り、地図を広げた。
「まず、鄙菱山頂上に第一中隊を配置。プラズママシンガンとプラズマライフルを全機装備、対空部隊も配置しておけ。絶対に気づかれないようにしろ。第一中隊の内、第三小隊は湯河原ICで敵を待て、敵を発見し次第連絡しろ。一応、こちらでも敵の動きは分かるが念のためだ」
護業は頷く。
「海上から接近してくる敵部隊はどうする?」
愛斗は地図を指差した。
「俺の第二中隊と浅代は上空の雲の上で待機だ。レーダーで見ると、敵は雲の下、五十メートルの所を通過する。そこで合図を待て」
「伊東、下田はどうしましょう?」
「下田のEMAを全部、伊東に移動しておけ。下田には伊東の対空兵器を全て移動しておけ」
愛斗は井崎の方を向いた。
「井崎、お前は下田の指揮を頼む。詳細は追って連絡する」
井崎は頭を下げた。
「了解、閣下」
護業はもう一つの問題を出してきた。
「閣下、三島方面の敵はどうするのですか?」
愛斗は冷静に言った。
「敵は三島方面の軍は投入してこない。待機させるはずだ」
「何故です?一気に畳み掛けて来るかもしれませんぞ」
愛斗は地図を叩きながら言った。
「敵は用心してくるはずだ。そのような馬鹿な真似はしない」
愛斗は立ち上がり、手を三回叩いた。
「準備に取り掛かれ!時間は限られているぞ!」
ストライダム皇国日本エレメント自治区軍の旗艦は相模湾をゆっくりと熱海に向かっていた。司令室ではエルネストが総督としての指揮を行っていた。
「敵はたかが反乱軍。一気に叩き潰す」
しかし、エルネストには心配があった。敵の総司令官である澪坂愛斗、いや、我が従兄弟が敵なのだ。父は昔、エルネストにこう言った。
「お前はいずれ軍の指揮を執る事があるだろう。しかし、絶対に油断してはならない事がある。同じ一族と戦う時だ」
いや、敵がどんな奴でもこの兵力差に勝つ事はできないだろう。エルネストは自軍の勝利を確信していた。恐らく、この心配は杞憂に終わるだろうと。
「熱海まで後三十分!戦闘態勢に移れ!」
旗艦の護衛に当たっていた渚は悲しく呟いた。
「戦いたく無くても戦わなきゃ駄目なのよね・・・」
隣にはピンクのEMAに乗った香奈がいた。アルマの写真を見て呟いた。
「見ててね、アルマ。仇は討つから・・・」
一方、湯河原ICでは敵を発見した第三小隊が愛斗に報告を開始した。
「こちらベータ1、敵連隊を発見。どうぞ」
愛斗は指示を出した。
「ベータ1、後退しろ」
「了解」
第三小隊は後退し始めた。気づいた敵が発砲を開始する。
「敵が発砲を開始しました。どうぞ」
「了解した。応戦しながら、料金所まで後退だ」
第三小隊も発砲を開始した。愛斗は紫電の中で更に指示をだす。
「アルファ1、敵が視界に完全に入ったら一斉射撃だ。しっかりやれ」
「了解しました」
鄙菱山山頂の第二中隊はプラズマライフルや銃器を構えた。
「目標が見えました。十秒後に攻撃します」
敵の部隊は何の疑いもなしに距離を詰めていく。そして、完全に射程距離に入った時、プラズマライフルや銃器が火を噴いた。敵のEMAが破壊されていく。
「どうした!?奇襲か?」
「いえ、敵は山頂から発砲しています!」
司令官は山頂を指差した。
「半分を向こうの攻撃にまわせ」
「了解」
EMAの大群が山頂に向かってきた。第二中隊が直ぐに報告する。
「敵部隊接近中。ご指示を」
愛斗は指を鳴らした。
「そのまま攻撃を続けろ。対空部隊は近づいてきた奴を全て叩き落せ」
敵部隊は山頂目掛けて突き進んだ。その時、地上からの対空砲火で何機かが落ちていった。ミサイルが飛び交う。プラズマシールドがついていない量産機は防ぎようが無かった。愛斗は高笑いをした。
「はははははは!粉々に撃ち落せ!」
司令官は山頂に送り込んだ部隊が撃墜され、前線が崩される様を目の当たりし、動揺を隠せなかった。
「全軍態勢を立て直せ!」
愛斗は容赦せずに次の指示を下した。
「ベータ1、後退を中止して追撃しろ。遠慮せずにぶっ放せ」
第三小隊はEMA専用の自動小銃を構え、撃ちながら敵を押し戻した。敵部隊の混乱は収まらず、たった十機に次々と破壊されていく。愛斗は敵が完全に戦意を喪失したころを見計らって、第三小隊に次の指示を下した。
「ベータ1、湯河原ICまで撤退、アルファ1は指示を待て」
熱海では敵の旗艦が攻撃を開始した。エルネストが攻撃合図を出した。
「敵をひねり潰せ!」
全EMAが動き出した瞬間、旗艦に衝撃が走った。
「後部エンジンに被弾!出力低下!」
エルネストは叫んだ。
「敵は何処だ!?」
突然、司令室に通信が入った。
「お前らの真上だ」
コックピットの前に黒いEMA、紫電が浮かびあがった。プラズマライフルを構え、左のエンジンも破壊した。
「くそ!持ちこたえられない!」
雲の上からの突然の奇襲で敵はパニックに陥った。外では、渚が一機のEMA、アルヴィの乗るリーファンクと向き合っていた。
「貴方、専用機を持っているところを見ると中々の腕前みたいね」
アルヴィは冷ややかな笑みを浮かべた。
「僕は第二ノーマル混成EMA中隊、第三小隊隊長のアルヴィ・ラーファエルだ」
渚は驚いた。同じ学校の生徒だったのだ。
「戦いたくは無いけど・・・仕方ないわね」
渚のEMA、リーフリッパーは白を基調としたEMAだ。性能も量産機とは比べ物にならないが、アルヴィの方が実力は上だった。
「お喋りは嫌いだ。さっさとケリをつける」
リーファンクのナイトランスは鋭く、リーフリッパーのプラズマシールドに食い込んだ。そのまま機体に突き刺さる。勝負は一瞬でついた。リーフリッパーは飛行不能となり、ふらふらと落ちていった。
「同い年の奴だ。殺しはしない」
リーファンクは別のEMAと戦い始めた。一方、復讐に燃える香奈は愛斗を、紫電を探していた。
「待ってなさい!私のフラワブルームで始末してやるわ」
そして、見つけた。味方に指示を送っている。香奈は叫びながら突っ込んだ。しかし、愛斗にはたどり着けずに邪魔が入った。
「閣下には指一本触れさせない!」
カノンの武神乙式はスラッシュソードを相手に振り下ろした。フラワブルームはそれを掴み、へし折った。武神からはミサイルが大量発射された。フラワブルームのプラズマシールドに当たり、ほとんどが防がれたが、一発が命中した。衝撃が走る。
「くっ!ミサイルなんてずるいわ!」
武神は遠慮せずにエネルギーカッターを連続発射する。右腕を見事に切断した。
「ロストシューター射出!」
武神のロストシューターはフラワブルームを引き寄せた。
「何をする気!?」
カノンは叫んだ。
「これよ!」
武神の胸部が開き、加粒子砲を発射する。フラワブルームは木っ端微塵に砕け散った。
「閣下、撃墜しました」
愛斗はカノンを褒めた。
「よくやった、浅代。伊東、下田でも同じような戦況だ」
伊東では熱海と同じ、雲の上からの奇襲で敵を壊滅状態に追い詰めていた。下田では、二倍の対空砲火で敵を撃墜していた。ミサイルに対してヘリは無防備すぎ、全く役に立たなかった。
エルネストは司令室で他の部隊との通信を通して怒鳴っていた。
「もう一度報告しろ!」
「はい、鄙菱山からの奇襲と敵の強行作戦で我が隊は壊滅状態です」
「同じく、伊東への侵攻も失敗です」
「下田も苦戦しています」
エルネストは首を振り、椅子に座った。
「情けない・・・これが世界に誇るストライダム皇国の軍隊か?」
副司令官は叫んだ。
「エルネスト総督!ご指示を」
こうなったら、力でねじ伏せるしかない。エルネストは大声で叫んだ。
「三島方面の軍を動かせ!総攻撃だ!」
「了解!」
愛斗は敵の様子を伺っていた。通信からカノンの声が聞こえた。
「閣下、見事な指揮でしたね」
しかし、愛斗はまだ油断していなかった。
「なんてことは無い。敵の選択肢を絞っただけだ」
そこで愛斗は不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、敵はどう来るか?」
その時、通信が入った。
「閣下、三島方面の敵軍が動き始めました!」
愛斗は鼻で笑った。
「敵はやけになったな。一番、単純な選択肢を選んだか」
愛斗は慎重に言った。
「待機させていた熱海防空隊で一気に叩き落せ、それで勝敗はつく」
山の合間からの対空砲火で三島からのヘリ隊は全滅寸前で退却を始めた。結果、皇国軍は敗走、晴れて帝国の勝利となり、第一次伊豆戦争は終結した。
キャラ紹介を、兵器紹介を更新します。