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魔王を悪役令嬢に転生さすな!  作者: 兎角送火
第一章 初等部一年生
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4話 入学初日

 王立グランタニア学園からの合格通知が届き、お母様は狂喜乱舞した。

 私はといえばその頃にはもう試験のことなどすっかり忘れ、クロスワードパズルなるものにハマっていた。


「マリア、入学式は明日だろう?仕度しなくていいのかい?」

「後でやりますわ。お兄様、『な』ではじまって『の』で終わる五文字の動物ってなんでしょう?」

「まったくこの妹は、この前の感心を返してほしいな。答えは『なまけもの』だよ」

「なるほど、さすがお兄様ですわ!」


 とは言いつつも、お母様と一緒に教科者を買いに行ったり、お父様に約束通り学術書をプレゼントしてもらったりしているうちに、私もグータラ学園、じゃなくてグランタニア学園に入学するのだという自覚が芽生えてきたところだ。


 明日の仕度を済ませ、天蓋付きのベッドにダイブする。


「ねぇセシリー、学園はどんなところかしら」

「高貴な生まれの方達が通う、素晴らしい学舎と聞き及んでおります」

「そうなの?じゃあ私にピッタリね」

「左様でございます」


 布団に潜り込むと、セシリーがランプの火を吹き消した。


「おやすみなさいませ、お嬢様」

「おやすみ、セシリー」

「…………はい」


 寝室を出る前、セシリーが一瞬くすりと微笑んだ気がした。






 グランタニア学園の入学式は、入門試験と同じ講堂で行われた。


 尤も式典らしく模様替えされているので、試験の時より華やかな印象を受けた。

 他の新入生達にならって席に着く。


「新入生諸君、入学おめでとう。私は王立グランタニア学園に於いて、理事長を務めているクラレンス・フォグニーだ」


 登壇した黒髪を撫で付けた神経質そうな理事長は、緊張した面持ちの幼い新入生達を見回して、フンと鼻を鳴らした。


「この学園の初等部に入学することができるのは、高貴な家柄に生まれ、かつ高い教養を兼ね備えた者のみである。つまりこの場にいる君達は、この学園で学ぶ最低限の資格は持っているということだ」


 私はといえば気もそぞろにソワソワと当たりを見回していた。

 隣に座った大人しそうなメガネの女の子が居心地悪そうに身をよじる。


 きっと話しかけてほしいのね。


「ねぇ、そこのあなた」

「うぇ、わ、私ですかっ?」


 メガネちゃん(仮称)はビクッと肩を跳ね上げ、身を引きながらこっちを見た。

 お尻をすっと動かして開いてしまった距離を詰める。


「あなた、お名前はなんていうのかしら?」

「え、え、あっ……ど、どろ、ドロシー、です」


 私はにっこり笑った。


「私、マリアっていいますの。よろしくお願いしますわ、ドロドロシー!」

「ドロシー、です……」

「仲良くしてくださいね、ドロシー!」


 無理やり握手して腕をぶんぶん振ると、メガネちゃん改めドロシーは私をまじまじと見て、困ったよう小さく笑い返した。


「……よろしく、お願いします。その……マリア様」

「様はいりませんわよ?だって同級生ですもの」

「い、いえ、そういう訳には……」


 歯切れの悪いドロシーの態度に首を傾げる。

 理事長が咳払いしたのをきっかけに、私達はどちらからともなく前に向き直った。


「学力が著しく劣っているもの、素行に問題ありとされたもの、貴族社会に相応しくないと判断されたものには、この学園を去ってもらう。諸君にはグランタニア学園生徒としての自覚を持ち、たゆまぬ努力と品位ある振舞いを心掛けてもらいたい」


 拍手の中でクラレンスが降壇する。

 途中、私の方を睨んだ気がしたが、たぶん気のせいだろう。






 教室の中はざわついていた。


「ここで授業を受けるのですね。なんだかワクワクしてきましたわ」


 一番前の席に陣取った私は目を輝かせる。

 一方、隣の席ではドロシーが肩を縮めていた。


「うぅ、なんだか見られてる気が……」


 この子は何を言っているんだろう。

 たしかに、さっきから私達の方を見てヒソヒソと囁くグループが三つくらいあるけれど、それが何か問題なのだろうか?


「相席してもいいかしら」


 ドロシーがいるのとは反対側の方から唐突に声をかけられた。

 振り返ると、いくぶん背の高い少女が髪を耳にかけながら微笑んでいる。


 彼女を見たドロシーが「ぃっ!?」と引きつった声を漏らした。


「あら、どなた?」

「フローラといいます」


 優雅に一礼するフローラ。


 なるほど、これが人間社会における貴族らしい挨拶なのか。

 ならばこちらも相応の返しをしなくては……!


 私は制服の裾から扇子を取り出し、バッと広げて口元に当てる。


「マリアと申しますわ。お見知りおきくださいませね?」


 そう言って、余裕たっぷりに縦ロールを払ってみせた。

 いざという時使おうと思って、お母様から扇子をお借りしてきた甲斐がありましたわ!


 お兄様は『そんなもの何に使うんだ?』と言って心底不思議そうでしたが、全く分かっていませんわね。

 見なさいな、このドロシーとフローラのぽかんとした顔を。

 きっとあまりの気品に言葉を失っているんですわ。

 フローラも中々いい線いっていたけれど、かつては月光の吸血女王と呼ばれた私には及ばなかったようね。

 なんだかとてもいい気分ですわ。


「オーホッホッホッホッ!」

「マリア様っ、みんな見てますから、声抑えて……っ!」

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