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魔王を悪役令嬢に転生さすな!  作者: 兎角送火
第一章 初等部一年生
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2話 転生

「はっ!?!!??!?!!??!?!?」


 それは王立グランタニア学園入門試験当日のことだった。


(何、今の……。夢…………?)


 私はルーベンス伯爵家の長女マリア。

 天蓋付きの寝台で小さな体を起こす。

 縦ロールにした髪が視界の端で揺れる。

 瀟洒なカーテンの隙間から漏れ出す朝日が妙に見慣れない。


 今朝は妙ちきりんな夢を見たせいでらしくもなく早起きしてしまった。

 いや、あれは本当に夢だったのだろうか。


 広場で行われた新年の儀。

 魔族に対する人類の宣戦布告。

 歴代最強の大魔王の赦しを得た人間達は世界中に散らばり、やがて魔法技術を発展させて魔族を次々と倒していく。

 最後のひとりとなった我は、空を覆い尽くす魔法の雨を前に歓喜で満たされていた。


『実に見事であった人間共!嗚呼、惜しいかな!ようやくお前達に興味が湧いてきたところだったのに!』


 やがて塵一つ程の消し炭にされた我は最早これまでと悟った。

 しかしただで死んでやる魔王ではない。

 人間達に聖水をかけられる寸前、我は最後の力を振り絞り、己の魂に魔法を掛けた。

 今世の記憶を来世に引き継ぐ魔法を。

 人間を知りたいという渇望を、今度こそ叶えるために──。


 頭を振ってベッドから飛び降りる。

 きっと勉強のしすぎだろう。

 毎日家庭教師の厳しい監視のもとで、訳の分からない知識をこれでもかと詰め込まれきたのだ。

 それらは全て、今日の試験に合格するためのもの。

 ふとドアがノックされ、メイド服を着た使用人のセシリーが部屋に入ってきた。

 セシリーは既に身支度を始めている私を見て驚いた顔をする。


「お嬢様、今日はお早いのですね」

「当たり前でしょ?今日はグランタニア学園の入門試験があるんだから。ほらセシリー、あなたもさっさと準備して」

「は、はい。かしこまりました」

「全く、使えないわね」


 服を着替えさせた後は、お父様とお母様、それから愛しのお兄様と一緒に食卓を囲む。

 お父様であるベルラント・ルーベンス伯爵がナイフを動かしながら、強張った顔で朝食を取る私に水を向けた。


「マリア、今日はいよいよ試験当日だね。緊張しているかい?」

「いいえお父様、私なら受かって当然だもの」


 即座に強がると、ドレス姿のお母様、イルダ・ルーベンス伯爵夫人が頬に手を当てて微笑んだ。


「まあ、マリアちゃんたら頼もしいわ。王立学園の中でもグランタニアは名門中の名門ですもの。優秀な息子と娘を持って、私も鼻が高いわ」


 もう合格した気でいるお母様に、肩がどっと重くなった。

 そんな私に、対面に座るお兄様のヘリオス・ルーベンスは優しく微笑む。


「心配しなくても、マリアなら大丈夫だよ。僕でも合格できたんだから」

「あらいやだ、お兄様ったら。私は心配なんて、ちっともしていませんわ」


 背筋に冷や汗を垂らしながら、私は精一杯強がってみせた。

 いや、強がりなんかじゃない。

 これは強者の余裕なのだ。






 お母様と荷物持ちのセシリーに付き添われ、王立グランタニア学園の前に立つ。

 周りでは同じように礼服を纏った受験生達が、緊張した面持ちで学園の門を潜っていく。


「さあ、行きましょうか」

「は、はいですわっ」


 上擦った声で返事して、大きく足を踏み出した。

 大丈夫、私は伯爵令嬢マリア・ルーベンス。

 絶対、落ちたりなんかしない。

 浅い呼吸を繰り返しながら学園の門を潜り──。


「ぐっ!」

「マリアちゃん!?」

「お嬢様!?」


 強烈な頭痛に襲われて、思わずその場にしゃがみ込んだ。

 お母様が悲鳴を上げて、セシリーがすぐさま駆け寄ってくる。


 違う。

 我が名はウリフィンクラ。

 至高の吸血鬼にして魔族の王。

 我は大魔王ウリフィンクラである!


「──」


 どうして忘れていたのだろう。

 あれほど恋焦がれた人間の営みが、今目の前にあるというのに!


「マリアちゃん?何をしているの?ほら、早く立って?試験に遅れたら大変よ?」


 お母様が私の顔を覗き込んで、ヒステリックに急かしてくる。

 ばっと立ち上がった私に、メアリーは気遣わしげな声を掛けた。


「お嬢様、大丈夫ですか……?」


 私は両手を腰に当て、仁王立ちしながら胸を張った。


「当然よ!さあ行きましょう!最高の生活が私を待ってるわ!」


 そう叫んでずんずん歩き出す私に、お母様もメアリーも呆気に取られた様子で立ち尽くしている。


 ああ、ああ、遂にこの時がきた!

 人間を知ることができる……あの非力で弱々しく、それでいながら時に魔族よりも残酷でずる賢く、遂には地上の全てを手にした、あの痛快極まりない人間達を!


 ルンルン気分で颯爽と校舎へ歩いていく私の姿に、お母様はセシリーの肩を揺さぶった。


「ねぇ、マリアちゃん本当に大丈夫かしら!?ねぇセシリー!?」

「き、きっと試験を前に気が昂ってらっしゃるんでしょう。きっと大丈夫ですよ………………たぶん」

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