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第二話4 命の価値 Bee

「さっさと村まで行きましょう。日が暮れます」

「えぇー歩くん?いややー……俺なんも食べてないねん」

 考えてみれば、この世界に来る前からそもそも飯を全く食べていない。吐いたし。喉乾いたし腹も減った。そんなふうに駄々を捏ねようとした時、ベルがパチン、と指を鳴らした。

「……え?」

 景色が変わる。日が落ちているが、農村だ。

「……え?瞬間移動?」

「そうですよ?私はある程度の魔力を所有してますので。もっともこれは、私の能力じゃなくて、ただの魔法なんですが……」

 違いがわからん。

「……この世界に魔力って、やっぱ存在するの?」

「しますよ。……まぁ、お前が前居た世界に無かったとも言いきれないんですけどね」

「いや……無いやろ」

 科学がオカルトを駆逐した、あの社会では一切。

「異端者って、知ってますか?」

 ……この世界でもその単語を聞くとは。

「……知ってるも何も……俺の世界にもおったよ?」

「なら話が早いです。実は魔力の根本は異端者の血なんですよ」

 少し気分が悪くなった。何故だろう。

「昔は異端者の血を取って魔力を補充していたらしいけど……今じゃ専ら、異端者自身が魔力を使う方が多いですかね。最も、最近じゃ異端者関係なしに魔法は使うようになったけど」

「……へぇ」

「とは言いつつ、異端者の方が魔力は圧倒的に高いんですが……どうされました?」

 怪訝そうな顔をされる。

「……何が?」

「顔色が……悪いようですが」

「……いや。何も無いけど」

 無いとは思うが……多分、真冬や霧生……それからあの人のような異端者が、魔力補充の為に血を取られるところを想像してしまったからだろう。俺も一応人間だ。流石に気分も害する。

 何より、イヌには聞かせたくない話だ。

「……!イヌは?」

「犬?」

「あぁ、いや、その……何でもないわ、すまんな」

「友達ですか?犬が友達って……お友達がいらっしゃらなかったんですね」

「じゃかましいんじゃい」

 そう言いつつ、まぁ、と考え直す。あいつのことだから、どこかで生きているだろう。あいつは『生きること』への執着がすごいから……まるで死ぬことを悪とでも言うように。

「……ともかく、そんなわけなんで、今でも弱者層の異端者は魔力補充のために徴収され、奴隷のように扱われることもあり、かと思えば強者層の異端者は強大な魔力を持ち恐れられたり……と様々ですかね。まぁもはや異端者だからどうって訳でもないくらいの差別化ですよ。一般人でも奴隷はいますし。

 自覚がないから使えなかった、知られてなかっただけで、貴方のいた場所にもあったかもしれませんよってことです」

 さ、行きましょうとベルはくるりと向き直って歩き出した。

「まずは寝床ですね。適当に宿を借りて……その後飯ですね」

 あぁはいいつつも、世話好きなのだろうか、とても楽しそうだ。或いは慣れているのかもしれない。

 逃亡者、か……。死ぬ時は死のう。もしかしたら、ここでなら、『善い』人生が何か、わかるのかもしれない。逃げるのも、死ぬのも、その後でいいや。俺はそう考え、ベルの後について行った。



 目を覚ます。シミのついた天井が見えた。ボロい布団を除けて、うんっと伸びをし、再びベットに身を沈ませる。

 ベルと出会って三日。俺達は村から村へ少しずつ移動しながらどこかへ向かっていた。方角的にはどうやらざっくり西の方へと向かっているらしい。ベルはそこのところ何も話してはくれない。

 その代わりこの世界のことについていろいろと教えてくれた。その様子から、どうやら俺がこの世界の者でないことはバレているらしいということもわかった。一応の警戒としてそうでないフリをしたのが馬鹿馬鹿しい。

 この世界にはたくさんの種族がいること。それらは大きく分けて二つに今分かれていること。純族と魔族。活動時間や凶暴性を基準に大きくそこで分けられており、人間や妖精、小人、巨人などは純族になるらしい。完全に住む場所が違う、というわけではなく、地図を広げてみるとかなり雑に混在しているらしく、適当に歩いていると魔族の村に着くこともあるらしい。その代わり、魔族は純族のように他の種族と混ざって国を作るのではなく、同じ種族で群がって村や集落を作り暮らすことが多く、人々の邪魔になる時には討伐隊が組まれるとのことも聞いた。魔族も人を襲うのでそこはノーカンが暗黙の了解だそうだ。本当にざっくりした説明で、マニュアルでもあるのかと疑う程だった。しかし聞かれたことにはいくらでも答えてくれるので、頭がいいのは間違いないのだろう。

 窓の外を眺めると、日が高く昇っている。随分と寝てしまったようだ。仕事が無いっていいなぁ……

「……あ、やっと起きましたか」

「ちょ……ノックぐらいしてよ」

 勝手に扉を開けてベルが入ってくる。

「何度も起こしてるんですがね。……まぁいいや。飯できてるので食べたくなったら下に降りてきてください」

「おぉー……何?これからもずっと同居する?」

「ヒモ男はごめんです」

 持っていた盆を目の前に突き出された。

「昨日もろくに食べないで。本当に自分の命に興味が無いんですね」

「逆に命に価値なんてあると思う?」

「……愚問ですね」

 ベルはちらりとこちらを睨んでそう言った。

「この世に価値があるものなんてないんですよ。価値あるは自分のみ。尺度は自分が決める。私は価値ない全てを吐き捨てて、価値ある物を全て喰らい尽くす。そんな人生を送りたいものです」

 宗教じみたことを言うのかと思えばそんなことはなかった。ここ数日の様子からもわかるが、恐らくベルはかなり勉強している……というかまぁ、やっぱり地頭がいい。ちゃんと自身の考えがあるのだろう。知識だけじゃなく思考力もあるのは褒められたことだ。

「……流石は暴食の悪魔、と言ったところか」

「は?暴食?悪魔?」

「いや、なんでもない」

「というか、他人のことを『悪魔』だなんて酷いことですね。私はそんな種族じゃないですが?それに『暴食』とは……貴方は少し言葉に気をつけた方がいいですよ」

「あぁー……この世界って、悪魔はちゃんと種族なんだっけ?」

「そうです。どういう種族がいるかとか、そのことは街に出てから説明した方が早いでしょうから、また今度です。街の方が種族は多いですから……ここは比較的人間の多い村ですよ。よかったですね」

「うへぇ」

「うへぇ?」

 ベルゼが首を傾げる。人間は得意じゃないんだよなぁ……

「……じゃあ、暴食がいけない理由って?もしかして、憤怒とか嫉妬とか怠惰とか強欲とか、あと〜なんだ、色欲か。それから……傲慢?もあかんの?」

「ご存知なんですね。共通の認識があるみたい」

 ベルゼは瞬きをしてそう言う。

「人や地域、種族、年代によってどの代の大罪人を指すのか変わるので場所場所で評価は様々ですが……私は機嫌を損ねますかね。えぇ、損ねます。私の認識では全部嫌いです。それを言うということは割と最大の侮辱だったりもするんですから」

 お前のベルゼは多分ベルゼブブのベルゼだから暴食の悪魔に違いないけどな、と内心思う。名付け親に悪意を感じる。

「因みに七つのうちどれが一番嫌い?」

「憂鬱です。陰気臭い」

「憂鬱虚飾もあんのかい。じゃなんで嫉妬はあるんや」

「時代によって変わるって話したでしょう?確かに形上はその二つはありませんが、本を読んでてイライラしてしまいまして。そんな貴方はどちらが嫌いなんですか?」

「俺?俺は……

……強いて言うなら、怠惰と傲慢、かな」

「お前今怠惰ですよ」

「うるせぇな口出す女はモテねぇぞ?」

「休日に怠ける男は嫌われますよ?」

 カウンターパンチを食らうなんて……

「それに、私には主がいらっしゃるのでいいんです」

「負け惜しみにしか聞こえへんな」

「あら、今負けたのは明らかに貴方では」

 口上手いので基本彼女に勝てることは無かった。くそ、いつか見返してやる。……なんて、イヌもいねぇのに心の中まで人のフリしても意味無いか。

「……突然興味を無くしますね、あなたはいつもいつも」

「すまん、癖で」

「……それは、癖で興味を持ってしまう、みたいな言い草ですね」

「さすが〜ベルちゃん頭えぇなぁ〜」

「本心の時のみ言って欲しいものですね」

 つい、とベルゼは顔を背け、下に降りていった。

「……つまらんな」

 そうとだけこぼし、タバコに火をつけた。


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