第二話2 世界崩壊説
「……え?」
俺も霧生も空を見上げる。果てしなく澄んだ空だ。雷雲なんてない。もう一度雷鳴。直後、空に大きな亀裂が走った。空が割れる。瓦礫のような鈍色の塊がゆっくりと落ちていく。
「っ、阿呆!」
呆気に取られていると、霧生が思いっきり体当たりしてきた。二人揃って倒れる。今まで立っていた場所に瓦礫が落ちる。
「おい、ここにおんのまずい!はよ逃げるぞ!」
「逃げ……逃げるってどこに……?」
「知らん!」
霧生が懐から銃を取りだした。……え?銃?
「……なんで銃出すの?いやてかなんで銃持ってんの?」
「……は?あれが見えないのか?」
霧生が困惑したように言うが、俺がさらに困惑しているのを見て、なにか納得するような素振りをした。
「翔!」
「な、何!?」
「じゃ!」
「は!?」
霧生はそう言って、瓦礫の間を抜けてどこかへと走り去った。小柄な彼を、隣にいた俺でさえ見逃してしまった。
「くっそあいつ……どうしよ?」
「……」
「え、あ?叶?」
俺は困っているイヌの横を通り過ぎる。
「……おい、どうしたんや……おい?」
「……」
「……叶?」
俺がイヌの質問に全く答えず進んでいくのを見て、さらに混乱している。
「……どこ……行くんや?」
「どこやろうなぁ……」
周りを見ると、ビルが崩壊し、道路が割れ、人々の悲鳴が響いて、まさに地獄絵図だった。
俺は瓦礫を跨ぎ、走る人を避け、歩いていく。
「……そっか、お前は。死んでも、えぇんやったな……」
イヌが小さくそう言った。俺は大きくため息をつく。
「……別に死ぬために歩いてるわけじゃないで」
「え?」
そもそも死に場所があるならもっと早く死んでいる。
「……あのな、叶」
「何や」
「俺な……?」
不安そうなその声に、思わず足を止め振り向くと、イヌは俯いて立ち尽くしていた。その姿が、『あの子』に重なって見えて、俺も立ち尽くした。
「……生きたいねん」
翔は小さくそう零した。
「……生きな、あかんねん。……勿論お前も」
「………………はぁ」
俺は大きなため息をつく。そして一言返す。
「もし違っても恨むなよ」
イヌと目が合う。淀んだ空色。
「……当たり前や。そん時は……」
「……そん時は?」
「ぶん殴る」
「恨んどるやないかい」
「嘘や嘘や、行こ行こ!」
まるでこれから飯でも食いに行くかのように、翔は楽しそうにそういう。俺は再び前を向き、思うがままに歩き出した。何故だろう、わからない。けれど……
道がこの先に広がっている。俺はそう確信していた。