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第一話4 強欲、猛毒

「魔獣遣い?」

「種族の一種でな。今の代の強欲の大罪人は魔獣遣いなんだ。……大まかなカテゴリーで魔族、その中の魔術師。俺で言う悪魔、の部分だ。そしてその中の魔獣使い。……」

「詰んだ?」

「ああ」

「正直でよろしい。……その感じやと、悪魔と鏡族、の間にあるみたいやね」

「魔術師という種族はそうなんだ。鏡族に該当する部分、すなわち〇〇の魔獣使い、みたいなもっと詳しい種族名もあるのだが……あいにく私は知らん。そこがわかればどのような魔術を使ってくるかも予想がつくのだがな。今代の大罪人は揃って活動が大々的で、先代に比べればいくらでも出るはずだ。今知らないのならば意味が無い。

 種族の能力で、魔獣を手懐けることが出来る。魔獣というのは我々悪魔や吸血鬼、鬼などの自我があるものじゃなく、世に蔓延る自我を持たない化け物のことだ。結構生まれてしまうんだ。主な活動は夜。……そして魔獣は異端者の血の匂いに敏感だ。異端者を狙うのなら絶好のチョイス、というわけだな」

「確かヒナちゃん来る時あそこに防護魔術かけてたよね?」

「軽いものをな。くそ、強欲相手だと微妙だな……」

「負けそう?」

「まさか。ただ間に合うか間に合わないかだ……そうだ、クズ」

 ヒナが飛行しながら話す。

「お前、敵に何を問われても拒否すると答えろ」

「拒否?」

「そう。大罪人に会った時のおまじないだ」

 ヒナがそう言った次の瞬間、爆発音がした。ヒナが舌打ちをする。

「拠点の方からだ。いよいよまずいぞ」

 ヒナは一気にスピードを上げる。

「この魔力は……ライムだな。待て、マズい、あいつは魔力を使ったら……」

「使ったらって、何?どういう……」

 そのとき、拠点の惨状が目に入り息を飲む。

 そこには、巨大な魔獣と見知らぬ男性が倒れており、その近くには、倒れ伏すイヌと、それに縋りつくライム君がいた。双方血塗れだった。

「ライム!イヌ!!」

 ヒナが一直線に駆け寄る。遅れて俺も続き、イヌの脈を取る。

「……まだ息はある。けどこれじゃ……」

 イヌの腹には大きな穴が空いていた。その他にも多くの深い傷。大量の出血。

「……いやだ、おねがい、しなないで……まだ……」

「ライム君、一体何が!?」

「……まだ、言えてないの……おねがいだから……」

 ライムはうわ言のようにそう繰り返して、イヌから決して離れない。

「どけライム。クズも、少し離れろ」

「けど」

「わかった勝手にしろ」

 ヒナが片手を上げた。判断が早い。

「その代わり、どうなっても知らんからな」

 俺はぎゅっとイヌの手を握る。ごついその手は少しも動かなかった。体温が落ちている。

 マズい、このままじゃ本当に……

 ……本当に、何だ?

 俺は何を恐れている?

 そんな思考が一瞬過ぎった。とその時、ヒナの右手から白い光が溢れる。

「えっ、何!?」

「回復魔法」

「唐突やな……呪文とかないの?」

「呪文詠唱は初心者がやるものだ。いざというところでブツブツ言っても仕方ないだろ。

 まぁ技名を言うこともあるが、それは主に気持ちと火力を上げるためだ。どっちにしろ今は必要ない」

「……その回復魔法って、この状態の患者にも有効なん?」

「通常の医学でどうにもならない時の最終手段だ。魔力の大量消費が代償なのと、使うのに相当な技術と知識が必要ってだけだ。

 あとミスったらこいつ死ぬからもう喋りかけんな」

 ヒナが真剣な顔でそう言うのでつい押し黙る。ライムが虚ろな目でこちらを見た。

「……カナウ、さん……どうしよう……僕が……僕の、せいで……カケルさんが……僕を、庇って……」

 意識を朦朧とさせながら、ライムはそう言って、言い終えた時そのまま意識を失った。

「ライム君……翔……」

『どうしよう……叶……』

「――っ」

『俺が……俺のせいで、真冬くんが……』

 なん、だ、これ。気持ち悪い。

「っ、おい、イヌ。死んでんじゃねぇぞ。お前王になるんとちゃうんか」

 誰かの声がする。誰……俺の声。俺の声で誰かが話している?気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。

「……ふふっ、そうかそうか……私の邪魔をするか」

 突然、ヒナが小さく笑いそう言った。俺は隣の悪魔から感じるその殺意に息を飲む。

「……治療は大方終わってる。お前は絶対ここを離れるな。増援の可能性も警戒し、何かあればこいつら連れて走れ」

「……どうしたん?急に」

 ヒナが立ち上がり後ろを見据える。視線の先を追うと、血塗れになって倒れていた男が立ち上がっていた。銀色の双眸がヒナを、いや……イヌを見つめている。

「ははははっ、人間が、大したものですよ……見誤りました、ふふ、ごめんなさいねぇ……せっかく会えたのに、あんな粗末な対応をしてしまって」

「楽しそうに喋っているところ悪いが、お前の相手は今度は私だ。勘違い野郎、強欲とやら。例の合図を早く言え」

 ヒナの挑発を聞いて男はヒナを睨みつける。

「流石、聞いていた通りクソ生意気じゃないですか……たかが悪魔如きが、うちの傲慢野郎よりずっと……」

「うちの、とは随分な言い様だな。まるで大罪人同士で仲良しこよししてるみたいじゃないか」

「何を言ってるんです、俺達大罪人は先代から交流を持つようになってるんですよ。寿命の短い悪魔はどうしようもなく無知で残念ですねぇ」

「どうも。ほら、早く」

「ははは、請われてやるのは初めてですよ。ではお言葉に甘えて」

 強欲と呼ばれたその男は、見た目俺より若いくらいで、瞳の色が特徴的な、嫌な銀色だった。隣に倒れている魔獣は先程ヒナが言っていた彼の使い魔だろうか。このレベルの魔獣がぽこぽこ生み出されてたらそりゃあ放置できねぇな。万が一ヒナやイヌに恨みのある人間がいてこれを実行しているのだとしたら、相当頭がキレる。俺は握っていたイヌの手をまた握りしめる。

 もしかしたら、もしかしたらこいつは、自ら生を諦めたんじゃないだろうな?もしそうだとしたら、翔、俺はお前を……

「クズ」

 後ろから聞こえた声に目を開ける。ヒナがこちらを見ていた。

「ボケっとするな。いいか、五秒で終わらせてくる」

「五秒、五秒か!ハードルが高いですね!仮にも悪魔の長を五秒ね!はいはいりょーかい」

「ほうら早く開くといい。そしてお前の強欲な世界を見せてみろ」

「ヒベルナ=ジギタリス=ナルコレプシー。

 強欲を問う」

「承認する」

 次の瞬間、ぐらりと空気が揺れた。何が起こっているのかさっぱりわからなかった。二人は対峙したまま動かず、そして二秒後、ヒナと対峙していた男がガバッと血を吐き倒れた。

「……五秒と、かからなかったな」

「……ちなみに聞くけど何したん?」

「奴の身体を見ればいい」

 ヒナは片手に結晶を持ち上に投げてはキャッチしてを繰り返す。男の方を見ると、そいつの身体はズタボロに溶けていた。

 ……毒だぁ。しかもこの溶け方、内からも外からも浴びせられてる。そして説明になってねぇ……

「さて、終わった。イヌも一先ず一命は取り留めた。ともかくここにはいられない。移動するぞ」

 イヌの治療を再び始めて数分後、ヒナはそう言い出した。

「移動って……」

「多分私が懸念していたのはこいつらだ。ここに留まる理由は既に無い。

 まぁそうじゃなくても、適切な治療をしないとイヌの命が危ない。これから少しずつ南下し、私の村……鏡族の村に向かう。それまでに幾つか村を経由し少しずつ治療を進めていく。そうする他ない」

「……」

「お前が背負え。俺はライムを持つ。こいつは魔力の使いすぎだ。まだ制御が出来ないのに使うとこうなる」

「……」

「おい早くしろ。置いてってもいいんだ。そうしないのは、こいつがライムを守ったって言う仮定の下だってことを忘れるな。

 死なせたくないなら早く移動しろ」

 俺は無言で翔を背負った。どうやら俺はまだ平静を取り戻せていないようで、イヌに触れた瞬間先程までの動揺が戻ってきてしまったようだった。ぐったりとしているから重い。スーツに温かい血が染み込んでいく。俺はヒナの後について歩く。

『俺が……

 殺したの、か……?』

「……チッ」

 俺は舌打ちをし、足を進める。過去を思い出した自分にも腹が立ったし、過去自体が腹立たしかった。

 ああ、気持ち悪くて叶わない。

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