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第五話2 交渉、殺伐

-red record-

 悪魔の少年を抱え、廊下と階段をとにかく必死で走る。ここ数日ろくな生活をしていなかったためわずかに息が上がっているが、足を止めずに進む。その様子に気づいた少年は抵抗し、声を上げる。

「あの、大丈夫ですから!僕自分で歩けます!飛ぶのはまだちょっと難しいかもしれませんけど……!っ、ゲホッゲホッ」

「ほら急に叫ぶから……大丈夫。お前みたいな子供背負うのぐらいなんてことないから」

「でも、僕汚れて……」

「ははっ、男の背中は汚れるためにある、なんて言葉をどこかの女に言ったことがあったっけな!今は甘えてえぇから!」

 適当な言葉を連ねる。少年が縋るようにぎゅっと服を握りしめる。

 正直自分だって体力の限界が近いのだが、だからといってこんな小さな負傷した子供の手を引っ張って走るのは気が引けた。というか素直に効率が悪い。この方が速いだろう。

「しかし……お前があいつが言ってた悪魔か!ってことはお前のとこの王様は噂に聞く賢王ってやつ?はあ羨ましい!まあほんとにそうならあんな場所まで来てないか」

 恐らくベルゼと共に訪れた村で捕まった子だろう。種族で群れる悪魔がわざわざあんなところにいたのなら、王様の力不足で逃げたくなったのだろう。そう思い煽ったのだが、少年は首をぶんぶんと横に振る。

「お、長はとっても素晴らしい方です!……僕が、考えなしに行動して、ご迷惑をお掛けしてる、だけで……」

「長ね、はいはい。素晴らしき長ともなればガキの失敗は何の問題でもないやろうから安心しぃ。あー柄じゃねぇ蕁麻疹でる〜!」

 叫びながら走る走る。なんでこんなにテンションが上がっているのかわからなかった。久々のヤニ故か、はたまたこれからあいつをぶん殴るということにウキウキでもしているのか。そんな感情は無いはずだが、動機ならいくらでもあった。直感に従って走っていると、見覚えのある道に出る。

「おっし、もう少しや!多分上に兵いっぱいおるから、一旦様子見よか」

 階段を上りきった時ちょうど兵達が見えた。足を止め、壁を背に様子を伺う。

 さて、何故こんなに兵が一箇所に集まっている?おかげで助かったけど……疑問を抱いたまま王の間を覗き見る。悪魔の少年を下ろすと少年は手を握ってきた。振り向くとはっとして離そうとする。

「いや、そんまま手ぇ繋いでてくれ。俺も勇気出ぇへんかも」

「……はい」

 少年がぎゅっと手を握る。

『……くるし、い……しに、たくない……』

「!?」

 突然ノイズ混じりに聞こえてきた声に驚く。はっと少年を見ると少年は首を傾げた。どうやらこの子の声ではないらしい。何の……いや、違う。

 いつの記憶だ?

「あ、あれ……」

 そう言って少年が指を指した先に、黒い大男が立っていた。誇示するように開いている大きな羽……

「……あれが悪魔の長……怖ぁ俺よりでかいやん……」

 かすかに会話が聞こえてくる。そっと耳をすませて聞く。

「……と、話の前に……邪魔者が多いな」

 ギロリとその男は眼光を光らせた。直感で壁に隠れる。その瞬間夥しい量の何かが床や壁に刺さった音がした。……量おかしいやん……

 恐る恐る再び覗き見ると、針だ、針が壁や床に刺さっており、次の瞬間すっと溶けて消えた。魔術か、あるいは能力だろうか。針が刺さったのであろう兵士達は皆倒れている。ぐっすり眠っているようだ。

「さて、では話と行こうか、道化師よ」

 低い声でそいつは言う。翔は玉座で足を組んでため息をついた。

「相変わらず乱暴な長だ」

「悪魔なもんでな。この乱暴さにお前は何度も助けて貰っているだろうが」

「そしてまた横暴だな。なんだ、恩を売りにでも来たのか。安い付き合いやったなぁ……」

「いちいち鼻につくな。挑発なら買うぞ。先程も言ったように、今日はお前を殺す気で来た」

 ほーん……

「だがその前に交渉と行こう。俺は急いでいるのでな」

 ふん、と鼻を鳴らし翔は手元のグラスに手を伸ばす。

「あぁ、“まずはそれだったか”」

 男がそう言った次の瞬間、グラスは粉々に砕け散った。

「……これ一応国宝やぞ」

 少し呆気に取られていたイヌがすぐに表情を戻してそう言う。怒ってる訳じゃないが、無表情だ。

「七年しか歴史がないだろうが」

「この国に来てからはな。これ自体は随分昔から……」

「ぐだぐだぐだぐだうるっせぇなァ。話を逸らすつもりか?」

「あんたが先に手ぇ出したんやないですか……」

「長はいつもあぁなんです……」

 小声で思わずそう漏らすと少年が苦笑してそう言った。愛されてる王様やなぁ……

「さて、では本題へ行こう。お前が王になってから一ヶ月経って、未だうちの村の捕虜が帰ってこないが、その辺についてはどう説明してくれるのかな?」

「……」

 イヌは黙ったまま悪魔の話を聞いている。どこまでも冷たい薄氷のような目。奴の目だなぁと思う。

「聞けばうちのものだけじゃないらしいじゃないか。貴様は王になってからというもの、少しも異端者問題に手をつけていない。些細なこと、とでも言うつもりか?

 どういうつもりだ、俺との約束を違えるなど」

「……少し手こずってるだけや。お前んとこの異端者は今すぐ返す。だからお前も、今日のところは帰ってくれないか?」

「そういう話をしているんじゃあないんだよ」

 悪魔は声色を強めてそう言う。こちらからは顔が見えないのに、あまりの威圧にゾッとした。イヌも息を飲む。流石は悪魔……ということか。これに比べたら確かにベルゼは悪魔ではなかったなぁ……

「異端者解放はどうした?お前も玉座についてみれば、力は重宝すべきだと、異端者は同等に扱うべきではないと思い直したのか?王は皆そうなのか?」

「違う。何度も言うが手こずっているだけだ。約束を破ったつもりはないよ。お前は俺の実力を見誤っている」

「手をこまねいているだけじゃないか。簡単なことだろう?お前は地下の収容施設を開け、被害者を治療し、元の場所に返す。法律でも改正して、異端者の捕獲を止めさせる。たったそれだけのことだ。お前ならその程度容易にできるだろう。なぜやらない?」

「それだけのことちゃうねん。国民はそう簡単に納得しない。上から改革したところで、異端者は悪だという考えはなくならない。

 お前は、異端者を元の場所に返せばそれで役目は終わりだと思っているだろう。しかし、民衆の異端者に対する偏見と差別の目は酷すぎる。元の場所に返したところで、また酷い仕打ちに遭うだけだろう」

「ほう……だからお前は、代わりにそいつらから血を採って有効活用してやっていると。民衆がしたであろう酷い仕打ちを代わりにお前が請け負っているのか。それはご立派な事だ。お前は国民の分の罪や責任まで全てこなしてやっているんだな。

 なら俺は、お前にその分の罰を与えねばなるまいよ」

「お前は自分の施政に余っ程自信があるんやろうな。約束通りそいつは返してやるよ。そいつが帰ったあとどんな目に遭うかは知らんが」

「同志……いや、王よ」

 悪魔は玉座に歩み寄り、イヌにぐい、と顔を近づける。

「いくら王でも、暴虐を尽くせばそれは暴君ですよ?」

「……安心せぇ。俺がなりたいのはあくまで王や」

「その通り!」

 何がきっかけなのかは自分でも分からない。ただ、俺はここだ!と思いそのまま声を上げる。玉座の二人が揃ってこちらの方を見た。波の空色と、薬品のような紅色。俺は旧友を指さし、声を張り上げる。

「お前は悪い王を目指すでも良い王を目指すでもなく、ただ王でありたいだけ!」

「クズ……!」

「しかし、それは果たして、本当に善いと言えるのだろうか!」

「は?お前……今自分で良い王を目指すでもないって」

 演説じみた登場をして見せた直後、悪魔が旋風を巻き上げこちらに飛んできた。

「っ、叶!離れろ!」

「は?」

 気づくと悪魔はすぐ目の前にいた。ローブの下からはっきりと紅色の瞳が覗いた。思わず息が止まる。次の瞬間再び風を巻き上げていなくなった。

「……なっ」

 言葉を失っていると、隣にいた少年がいなくなっていることに気づく。

「……って!あれ!あの子おらへんやん!手繋いでくれてたのに!?あれ!?」

「あの子って……」

「今ここに子供連れてきてん!それが」

「子供?お前のか?」

「ちゃうわふざけんな」

 今の速さで持ってかれんの……?あまりに必死すぎひんか?

「その子供は悪魔か?」

「……せやけど、なんで?」

「……そうか」

 イヌは、どうやら悪魔の言っていた異端者が子供だったことすら知らなかったようで、心の中で、子供か、しかもクズが背負えるほどの……と呟いている。俺は一息ついて煙を吐き出す。イヌが俯いていた顔を上げこちらを睨む。

「何を呑気にターフなんか吸っとんねん」

「ちゃうぞ。煙草や」

 覚悟を決めてそう言うと、俺の内心が伝わったのか、イヌはジリ、と敵に対峙するかのような態度をとった。

「パンと水ごちそーさん。美味かったよ」

「嘘が上手ないな」

「うまいこと言うやんけ」

 戯けてみせる。味なんか気にならんくせに、と翔はらしくないことを心の中で呟く。やかましいわい。

「てかよう言うわ、お前誰の嘘のお陰で王様になれたと思っとんねん」

「お前らやな。そして、それを全部利用した俺やね」

 やはり切羽詰まっていたか……

「……ま、えぇねんそんなことは」

「……そうやな」

 翔は今度は俺を真正面から見据えてくる。俺も睨むようではないが、しかし意志を持った目で奴を見る。

『お前は……頼むから、変わらんといてや』

「……なぁ旧友。

 今すぐ手にした力を……力を手にするチャンスを手放せ」

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