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第四話6 地下牢

「……ん…………あれ……?」

 ぼんやりとした意識で目を覚ます。冷たい床の上に寝かされている。右足に足枷が付けられていた。足枷に繋がっている鎖を目で追う。身体は動かせない、拘束はひとつだが気力が湧かない。鎖は石の壁に繋がれている。壁に縞模様の影がついているのを見て、反対側の壁を見ると、牢の檻が目に入る。あいつほんまに牢に入れやがった……

 俺が起きたことを確認した兵が上に上がっていく。暫くすると再び戻ってきた。交代でもしたのだろうか、顔は見えないが別人が降りてきている。やってきた兵は水の入ったコップを置いた。顔を窺おうとするが鎧や甲で見えない。喉の渇きを覚え無意識にコップに手を伸ばす、がそのまま意識を手放してしまった。


 次に意識を取り戻した時、目の前には皿の上に置かれたパンが追加されており、身体には薄いタオルケットが被せられていた。頭がぼんやりする。どうやらあいつは本気で頭を冷やさせる目的で牢に入れたらしい。頭を冷やさせるために本当に牢に入れるバカがどこにいるんだ。

 俺がいつまで経ってもパンや水に手を伸ばさないのを見て、再び先程の兵が牢の中に入ってくる。そいつは俺に無言で皿とコップを差し出してきた。

「……いらん。ほっといて」

 そう言うが聞かない。強情な兵はお節介にもコップをさらに近づける。

「やかましいねん。ほっといてって」

 そのまま瞼を閉じようとすると、兵は俺の身体を乱暴に揺さぶった。

「チッ……構わんといて言うんがわからんのか。上に何言われたか知らんけど、もうえぇねん。全く納得はしてないけど、そもそも俺は別に生きてるつもりもなかったし。死んでえぇと思っとーから。ほら、そう伝えてこい」

「……」

 兵は動かなかった。黙って水を差し出してくる。ほんまにどんだけ強情やねん。……あぁ、

「……知っとると思うけど、俺はあいつの意見を汲まないと決めたら汲まへんからな。納得いかないことに従うのは『善く』ないやろ。

 俺はどっかの王様と違って変わらへんねん。わかったらほっといて」

「……」

 見えていなくても妙な引力がある。いや、認識したせいか。

「……チッ、わかった。食うし飲むから。わかったから一旦出て。邪魔」

 そう言うと兵は渋々外に出た。約束通り水を飲み、パンを口にする。味は感じず、ただの小麦粉の塊に思える。その様子を見届けて兵士はどこか安心したような仕草をし、階段を上っていく。以降二度と地下に降りてくることはなかった。内政が忙しいのだろう。


 それから毎日、水とパンが運ばれてきた。俺は囚人のように言われるままにそれを胃に詰め込む。絶対に善くはない生き方。何よりニコチンがないのがキツい。しかしここでは妥協するしか無かった。そのまま死んでもいいかなとも思った。

 そんなある日。監禁されてから五日後。

「や、久しぶり」

 彼女は突然現れた。


-red record-

「……ほう。そのような態度を。しかし急な変貌だな、らしくもない。愚行を急くような男には思えなかったのだが」

「ですから、やはり人間は……」

 そう呟く使者に機嫌を損ねたのか、彼は使者を睨みつけ立ち上がる。大きな羽と恵まれた体格、黒い威圧がゆらりと影を揺らした。

「なんだ。お前ごときが俺の意志に反論できるとでも?」

「いいえ、そんなことは!」

「まぁいい。俺も早計だった。いくら異変があったと言えど、大事な時に奴から離れたのはよくなかったな。よりにもよって、“憤怒”か……」

「……それは、どちらの」

「どちらでもないよ。欠けても満ちてもない。おそらく器そのものだ。それが七年も前からあの王都に……何者かが仕組んでいると考えるのが妥当だろう。

 留守は頼んだぞ。俺は奴に果たし状を送った。今から向かう」

「……異端者如きに、どうしてそこまで」

「異端者云々ではなく面目の話だよ。俺は長、奴は王。共犯関係を五年もやってきて、この仕打ちはいささか不愉快だ。責任ではなく私自身の話だよ、分かるな?では、行ってくる」

「はっ。承知致しました」

 使者の返事を聞くと、彼はバサリと羽音を立て夜空に身を投げる。月夜を鋭く切り裂く紅色の魔力と黒い体躯に、周辺の木々は怯え、獣はバタバタと倒れていく。風は毒に変わり、音は恐怖に染まった。彼は下々の景色には目もくれず、視線の先の人の明かりに舌打ちをする。

「マヌケな道化師めが。俺の期待を裏切るなど、万死に値しようなあ」

 紅色の月の下、白く小さな花が毒気にあてられ揺れていた。

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