プロローグ『流転02』
こうして記述する段階にまでなってみれば、ある意味で当然の人選だったのかもしれない。
一つ前があの悍ましき三日月島での惨劇であり、その場で魂の清算までやり切った者など、むしろいた方が驚きだ。あの人たちのことを大罪人だ、償うべきだなどと糾弾するつもりはないが、大したものだ。私が直接体験したわけではない、けれどあれは酷い。殺したし、殺されたし、殺させたし、死なせた。あれは、酷い。前任者も、彼らも、あの子たちも、あまりに報われない。何より、前任者が穏やかな死を迎えたのも許せない。これは私怨か、罪悪感というか、それってない。
取り乱したが、あの過ちを繰り返すわけにはいかなかったから、こうした。ゆっくり書く暇も隙もなかったほどに切迫していたから、こうした。あの人には悪いけど、こうするしかなかった。なんせ今回はあまりに複雑、影を作って、落として逃がし、既に改変されてしまった世界を改変前に戻したうえで辻褄を合わせる。大仕事、これは生身ではできない。幸いこの本は全ての線を越えられる。受け渡しにさえ気をつければ、何の問題もない。
それにしても、あっちのブラコン病弱兄の方は、まあわかるにしても、あの泣き虫が誰より先に立ち上がり、旗を上げるなど、はじめのページの私に予想できただろうか。
できたのだろうな、きっともともとあの人は、それほどの人なのだから。
一つ前が「娠」の字、三日月島の敗戦と記されたというのなら、今回のはそうだな。
「進」の字。執着を抱かぬ者が、他者の執着に触れ、共にその罪を贖う戦い。再開の戦い。故に、底界の宣戦、として、書き伝えよう。
これは私に殺された罪人の魂の器、九頭龍結叶の旅の話である。