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蓮華  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士
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第47話 哀悼 ~麻乃 5~

 小走りで帰ってきて宿舎に駆け込むと、麻乃はまず鴇汰の部屋に向かった。


 時計は七時四十分。


 夕飯には少しだけ遅い。

 ノックするとドアが勢いよく開いて驚いた。


「やっと来たか」


「ごめん、遅くなってるのに悪いんだけど、もう少しだけ時間ちょうだい」


「何でよ?」


「走ってきたから汗をかいたんだ。シャワーと着替え」


「あぁ、そういうことなら……」


 鴇汰の答えにうなずくと、すぐにまた駆け出して自分の部屋に帰った。

 数十分後、鴇汰の部屋に戻ってくると、さっきは気づかなかったけれど、部屋の外までいい匂いがしている。


 もう一度ノックをすると、中から入れよ、と鴇汰の返事が聞こえ、麻乃はためらいつつドアを開けた。

 途端においしそうな匂いが広がって食欲をくすぐり、おなかが鳴る。


「待たせてごめん。思ったよりは早く済んだんだけど、夕飯には遅い時間になっちゃったよね」


「別に構わねーよ。待ってるって言ったのはこっちなんだし、麻乃が来てくれたことのほうが重要だから」


 急にそんな言葉が返ってきて、麻乃は顔が熱くなるのを感じた。

 そういえば鴇汰は昔、いつもそばに女の子を連れていた。


 それに鴇汰は口がうまい。

 こんなふうに言われて嬉しくない女の子はいないと思う。

 誰にでもいうんだろうと思うと、麻乃の胸がチクリと痛む。


「お邪魔します……」


 沈んだ気持ちのまま部屋に入ると、こちらを向いた鴇汰の動きが止まった。


「――えっ? なんでパジャマ?」


「うん。戻ったらすぐ寝るから」


「なんだよそれ? 麻乃って本当に変わってるよな。色気より食い気だしよ。髪も濡れたままじゃんか」


 まくりあげた袖を戻しながら、鴇汰は呆れた顔を見せる。


「だって色気で腹がふくれるわけでもあるまいし。いいの。あたしはこれで」


 椅子を引いてくれたので腰をおろすと、首にかけたタオルで髪をワシワシと拭いた。

 鴇汰が調理場で忙しなく動いているあいだ、あらためて部屋の中を見回した。

 本当に奇麗に片づいている。

 棚を見ればいろいろと本や小物が置いてあるから、ものがないわけじゃないのに散らかっていないことが不思議だと思った。


(ほかにどんな女の人がこの部屋に招かれたんだろう……)


 不意にもたげた疑問を持てあまし、麻乃は頭を振って思考を飛ばした。

 朝、言っていたとおり、鴇汰はずいぶんと手の込んだ料理を出してきてテーブルに並べていく。


 鴇汰が向かいの椅子に腰をおろすのを待ってからいただきます、と言って食べ始めた。

 戦争ともなると大剣を振るっているそれと同じ手で、なんでこんなものが作れるんだろう?

 見た目だけじゃなく味も西区のお気に入りの店よりおいしい。


(まぁ、そもそも、ほかのみんなも自炊やらなんやらでちゃんとしていて、人間の食べられないものを作るのは、あたしくらいか……)


 口に運びながら、つい一人で苦笑いをした。


「そんで、どうだったのよ? 選別」


「うん、どうも今ひとつ、って感じかな」


「だって訓練生だろ? 経験が浅いんだし、しょうがねーよ。けど、あいつらは化けるからな。意外とあとで面白いことになるかもよ」


「うん、修治にも同じようなことを言われたんだよね」


「ふうん」


「鍛え上げて育てるのもいいんだけど、時間がね……あたしは一日も早く部隊を立て直したいから」


 チッ、と軽く舌打ちをして、そっぽを向いた鴇汰を上目遣いに見ると、麻乃は自分の気持ちを正直に打ち明けた。


 鴇汰の目が驚いたように麻乃に向く。

 フッと小さく息をついて真面目な表情をした鴇汰から、今度は麻乃のほうが視線を外した。


「急ぐのもわかるけどよ、おまえの部隊は息が長いから、焦って選ぶとあとで後悔するぞ?」


「人数が多いぶん、経験の浅い子を増やすと動けない時間も増えそうでさ」


「そこは残ったやつらも協力してくれるんじゃねーの? 取る気がないと、いいやつも見逃すぜ」


「ん~、そうかなぁ?」


「まぁ、今日はあまり良くなくても、まだ三カ所も残ってんだし、まずは手広く見てだんだんと詰めていけよ……って、聞いてんのかよ?」


 鴇汰が話してるあいだも、箸を休めず食べ続けていたからか、眉をひそめて麻乃の顔をのぞき込んできた。


「えっ? うん、ちゃんと聞いてるよ。そうだね……言われたとおり、手広く見てみることにするよ」


「いいよ、もう。食ってるおまえに真面目な話しは無理だもんな。食い終わってからにするよ」


「そんなことはないよ、ちゃんと聞いてるってば。でも本音を言うと、話しはあとのほうが嬉しいかも。だって、どれも凄くおいしいもん」


 一度、箸を止めると姿勢を正し、むくれた顔でため息をついた鴇汰にそう言った。

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