第46話 哀悼 ~鴇汰 2~
徳丸は憮然とした表情のまま、大きなため息をついた。
「必要ないとは言わないが、諜報の人数を増やしてまで調べなきゃならないのは、どんなことだ? 俺には今、おまえがなにを考えてるのか、さっぱりわからねぇ」
巧と梁瀬、穂高はそろって顔を見合わせた。
三人ともなにかを言いたそうな顔をしながらも、なかなか口に出そうとしない。
巧も梁瀬も言い淀んでいると、穂高が話しを始めた。
「おとといの敵襲は敵兵が出てこなくて、どこの国だかわからなかったんだ。でも、撤退して行くときに、戦艦の端に女が一人、立っているのが見えた。その衣装を見て梁瀬さんが、たぶんあれは庸儀じゃないか、って。その女は、真っ赤な髪をなびかせてこっちを見ていた」
「それがどうしたっていうんだ? たかが女が一人――」
徳丸は言いかけてハッと息をのんだ。
「ちょっと待て。真っ赤な髪だって? それは、うちの国だけの話しじゃねぇのか?」
「だって、その家系は今、泉翔に一人しかいないはずッスよね?」
岱胡が徳丸の言葉を引き継ぐようにつぶやき、巧がそれにうなずいた。
「だからなのよ。私は、あの女が本物とは思えないけど、確証があるわけじゃない。どうしても素性を調べたいの」
「――そりゃあ思えるわけがないよな。だって本物は麻乃だもんな」
「鴇汰、あんたも知ってたの?」
ふーっと息をはき、頭の後ろで手を組んで椅子を揺らしながら、鴇汰は天井を見あげた。
「まぁね。俺はさ、ハーフだから外見はこんなナリをしてるけど、中身はちゃんと泉翔人なのよ。文献だってそれなりに読んでるよ。と言っても、麻乃のことに気づいたのは、わりと最近なんだけどな」
鴇汰の母親はロマジェリカ人で、父親が泉翔人だった。
母親の血が顕著に出たせいで、外見は淡い栗色の髪に琥珀色の瞳だ。
ロマジェリカでは血を重んじるため、両親や混血の鴇汰はずいぶんと虐げられ、一家にとってはひどく住みにくい国だった。
「もちろん僕も、自分は泉翔人だと思っている。いくつもの古い文献を読みあさったけど、麻乃さんのことを知ったのは、やっぱり最近だしね」
梁瀬はクウォーターで、ヘイト人の母親を持ち、ロマジェリカ人の父親が泉翔とのハーフだと言う。
鴇汰と違って外見にヘイトの血が濃く出ていて、金髪に翠眼だ。
鴇汰も梁瀬も幼いころ、ロマジェリカからこの泉翔に逃げるようにして渡ってきた。
この国では外見で差別をされることも純血でないがゆえに虐げられることもなく過ごせた。
好意的な人間ばかりではなかったけれど……。
そんな当たり前の生活を送れるこの国で、泉翔人の意識に触れ、それぞれが戦士を目指し、今に至っている。
「もしもあの女が鬼神じゃなくても、なんらかの能力があるとしたら、もう目覚めていると思う。でも、どれほどの力があるのか私らにはまったくわからない」
「対峙できるとしたら麻乃さんだけかも知れないけど、彼女はまだ覚醒していないでしょ。僕らの力で敵うのかどうか、それさえもわらないのはとても怖いことだと思うよ」
「麻乃さんだけに頼るわけにもいかないッスよね。俺たちが期待するぶん、あの人の背中に荷物を積みあげることになるじゃないッスか。少しくらい負担してあげないと、あの人、つぶれちまいますよ」
途中で放り出していた銃を、また手にして組立の続きを始めながら、岱胡が徳丸のほうを見て言った。
「わかった。そういうことなら、俺が直接かけ合ってみる。諜報はまだ何人かは残ってるはずだから、なにか言われても押し切って庸儀へ出してもらおう」
徳丸の答えを聞いて揺らしていた椅子を戻すと机に向かい、鴇汰は組んだ手をじっと見た。
五年前のことを思い出すと、今でも異様な怒りが込みあげてくる。
「もし、上層部が諜報を出さないなら、俺が直接、庸儀に乗り込んでやる。そんで、あのときのクソ野郎を探し出して、今度は逆に情報をぶん捕ってやるよ。例えぶった切ってでも――」
言い終わらない内に徳丸のこぶしが鴇汰の頭を直撃した。
突然降った痛みに目の前がチカチカする。
「この馬鹿は本当に海を渡りそうだからな。そんなまねをさせないためにも必ず出してもらうから安心しておけ」
痛みのあまり抱えるように頭を押さえているのを横目に、徳丸は早々に会議室を出ていった。
「それじゃあ情報が集まり次第、報告書にまとめて速やかにみんなに連絡を回すことにしよう」
「おっと。そういえば俺、シタラさまからみんなに渡すようにって、次の持ち回りの組み合わせ表を預かってたんスよ」
岱胡は胸のポケットから折り畳んだ紙を出して配った。
「あ……」
紙を開いて、全員が声を上げた。




