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蓮華  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士
120/673

第120話 暴挙 ~修治 1~

「あれは相当重傷みたいね。このところ、難しい顔ばかりして笑いもしないじゃないのよ」


 ドアのところで様子を見ていた巧が、深刻な表情でつぶやいている。


「触れられることでなにかのスイッチでも入るのか? このあいだ、俺が触れかけたときも飛んで逃げたぞ」


「問答無用で手が出ていたしねぇ、不安定云々っていうか、ちょっと危ない感じかも」


 徳丸と梁瀬もただ見守っていた。


「――似ているな」


 巧の横でドアにもたれ、修治は腕を組んだまま眉をひそめた。


「なにが似てるのよ?」


「あいつら……麻乃と鴇汰だよ。感情の幅っていうか、動きが似ている」


 巧の問いかけに答えながら、修治は握ったこぶしを口もとへ当てた。


「いや……違うな。似ているってより、憤りを増幅し合ってる感じだ」


「増幅ねぇ……確かにかなりヒートアップしてるねぇ」


 修治の言葉に梁瀬が答えたとき、麻乃の叫び声が響いた。


「もう、あたしに構わないでよ! 放っておいて! あんたたちみんな大っ嫌い!」


 あっ!

 と思った瞬間にはもう麻乃は窓から飛び降りていた。


「ちょっと……これは問題大ありね。また抜刀しようとするなんて」


「みんな大っ嫌いだとよ」


 廊下では鴇汰と穂高が窓から外を見おろしている。

 苦笑している徳丸をたしなめるように睨んだ巧は、鴇汰に歩み寄った。


「あんた馬鹿ね。追い詰めてどうするのよ」


「俺はただ、話しをしようと思っただけだよ! なのにいきなりパンチ喰らって、揚げ句、抜刀されそうに……」


「麻乃の性格をもっと考えてごらんよ。タイミングを見計らわなきゃ逃げられる一方じゃないの」


 鴇汰はまた窓の外に目を向けた。

 その視線の先には、建物の向こう側に消える麻乃の姿がある。


「このあいだから、麻乃が尋常じゃないのは見てわかってるでしょ? あんたの気持もわかるけど、今はそっとしておいておやりよ」


「あんたに俺のなにがわかるってんだよ!」


 巧に喰ってかかった鴇汰の頬を、修治は平手打ちした。


「おまえまであいつと一緒になってカッカしてどうする。本気で麻乃を相手にするつもりなら、もっと冷静にあいつを見てやれ。以前のおまえなら、それができたはずだ」


 頬を押さえて悔しそうにしている鴇汰を、修治はジッと見つめた。


「おまえのことは気に入らないが嫌いじゃない。麻乃は俺にとって大切な妹だ。生半可なやつにあずけるつもりはない。それだけは覚えておけ」


「…………」


 修治の顔を見ようともしない鴇汰は、黙ったままだ。

 その後ろにいる穂高も岱胡も、今の修治の言葉を意外だと言いたそうな顔で見ている割に、なにも言わない。

 このまま待ったところで、あれほど興奮していた鴇汰に、今は修治が望む答えを出すことはできないだろう。


「どうしても麻乃を構いたいっていうなら、俺を納得させるだけの度量を持てよ」


 そう言ってその場を離れた。

 歩き出した修治の後ろで、鴇汰を慰めるような巧の言葉が聞こえてくる。


「今は様子を見て、気が落ち着くのを待ってあげなさいよ。あんたにそのつもりがあるならね」


 それにしても、麻乃の態度はおかしい。

 修治に殺気を向けたこともそうだけれど、まさか鴇汰にまで、あんなにも怒りの感情を剥き出しにするとは思わなかった。


 医療所で、鴇汰に勘違いされていると泣きながら修治に訴えてきたときには、怒りより悲しみのほうが先立って見えたのだけれど……。


(あのあと……麻乃にまた、なにかあったのだろうか?)


 ろくに口を聞きもしない、目も合わせようとしない麻乃から、なにかを聞き出すことは不可能に近い。

 しかも今は、高田の呼び出しからも逃げているらしいし、両親が訪ねていっても毎回、留守にしていると言う。


 廊下の角を曲がるとき、修治がふと視線を向けた窓の外に、トラックが二台停まっているのが見えた。

 建物の裏手から走り出てきた麻乃が、その荷台に乗り込むのを見て、修治はため息をもらすことしかできなかった。

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