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蓮華  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士
116/673

第116話 暴挙 ~徳丸 1~

「麻乃はいるか?」


 詰所の談話室でくつろいでいた麻乃と徳丸の隊員たちの会話が止まり、一斉に立ちあがった。


「今日はここには顔を出していません」


 麻乃の隊の豊浦が答える。


「そうか……あいつが使っているのは五番だったか?」


「いえ、一番です」


「わかった。麻乃が顔を見せたら、俺が探していたと伝えてくれ」


 全員が返事をしたのを確認してから、徳丸は一番の部屋へ向かった。

 西詰所は以前に比べ、様変わりしていた。


 設備が増え、宿舎も三部隊が収容できるほどだ。

 予備隊が詰めると宿舎に入りきらず、会議室や談話室で雑魚寝をしていたことが嘘のように思える。


 突貫とは言え、これだけ充実させたとなると、巧が常任は麻乃が自分で申し入れたんだ、と言っていたのは間違いではなさそうだ。

 申し入れが通ると踏んで、前もって増設も頼んでおいたに違いない。


 ノックをしても返事はない。

 ノブを回すと鍵はかかってなく、部屋の中はいくつもの資料の山があるだけだ。


(――まったく、どこに行きやがったんだか)


 思い当たるのは、あとは麻乃の自宅だけだ。

 さすがに戻っていることはないだろうと思いながらも、徳丸は念のため向かってみることにした。

 詰所を出るところで呼び止められて振り返ると、麻乃の隊の岡山おかやまが駆け寄ってきた。


「なんだ? どうした?」


「うちの隊長を探しているって聞いて……」


「おまえ、おとといの晩は麻乃と一緒だったのか?」


 徳丸は、息を切らしている岡山の襟もとをつかんで引き寄せると、そう聞いた。


「ええ、まぁ……」


「ほかに誰がいた?」


「石場と高尾、大石、山口、矢萩……後は富井に住谷すみたにと、ほかに若いのが五、六人です」


「馬鹿野郎が。おまえら古株がそれだけ雁首そろえていて、なんだって止めに入らなかった」


 岡山が考えながらそう答えたのを聞くと、その頭に拳骨を振りおろし、厳しい口調で叱りつけた。


「そうは言ってもですね、あの人を止めることなんて俺たちじゃ難しいですよ。しかもあれは、隊長はなにも悪くないんですから」


「悪い悪くないの問題じゃねぇんだよ。とりあえず、細かい話しは麻乃を見つけてからだ」


「それなんですけど、隊長は多分、砦の辺りにいます」


「砦?」


 驚いて聞き返すと、岡山は頭をさすりながらうなずいた。


「最近はあの辺りにいることが多いですから。銀杏の大木にいなかったら、周辺の高い木にいます」


「登ってやがるのか……まぁいい。わかった」


 馬屋で適当な馬に鞍を着け、砦に向かって走らせる。

 砦の手前にある大木に麻乃の馬が繋がれているのを見て、当たりだと思った。

 わずかに麻乃の気配も感じる。

 徳丸もその横に馬を繋ぎ、坂をのぼった。


 銀杏の木は目に入ったけれど、葉が茂って上のほうはあまり良く見えない。

 遠目で見てもわかるほど大きな木で、根元まで来ると一息ついた。

 徳丸に気づいたのか、少し前に麻乃の気配も消えていた。


「おい。いるのはわかっているんだ。降りてこい」


 目を凝らしてみあげても、木漏れ日に邪魔されて影も見えない。

 眩しくて、つい目を細める。


「登ってきたら? いい眺めだよ」


 抑揚のない声が降ってきた。

 徳丸は腰に手を当ててため息をつき、小声でそれに答えた。


「――高いところは苦手なんだよ」


 枝が揺れて大きな音を立て、銀杏の葉が落ちてくるのを手をかざしてみあげる。

 その葉が落ちるよりも早く、徳丸の後ろに麻乃が飛び降りてきた。


「泳げないのは知ってたけど、高いところも駄目だったんだ?」


 手を払って軽く笑いながら、こちらを振り返った。


「まぁな。それよりおまえ、おとといはとんでもねぇことをしでかしたな」


 徳丸が麻乃の目を睨むと、しっかり見返してくる。


「あれは、あいつらが悪いんだよ。前にも同じことがあって、そのときは見逃したんだ。また同じことを繰り返しやがって、痛い目にあわなきゃわからないんだよ、あの馬鹿は」


 上着の汚れを払い、襟を正しながら、麻乃は吐き捨てるように言いきった。


「おまえはそれでいいかもしれないがな、困るのはおクマや松恵姐さん、それにおまえの隊員たちだ」


「なんでさ?」


「おまえのところは当分のあいだ、柳堀を出入り禁止だそうだ。おクマたちのところは修繕で五日ほど休むらしい」


 麻乃が眉を寄せてうつむいた。

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