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蓮華  作者: 釜瑪秋摩
島国の戦士
113/673

第113話 離反 ~鴇汰 1~

 飛び出しては来たものの、どこへ向かえばいいのか鴇汰は迷った。

 とりあえず、ここから一番近い軍部に向かい、麻乃の部屋のドアを勢い良く開けた。

 中は変に閑散としていて、人の気配はない。


「いねーか……」


 大きく深呼吸をして息を整えると、今度は宿舎に向かって駆け出した。

 階段を上がる途中で息がきれ、踊り場でもう一度、深呼吸をしてからまた走る。


 麻乃の部屋がある三階の廊下へ出た。

 ちょうどドアが開いていて近づいてみると、突然、中から見知らぬ女の人が出てきて驚いた。


「あれっ? ここ……麻……藤川の部屋じゃ……?」


 鴇汰は息が整わないまま、部屋から出てきた女の人に問いかけた。


「あぁ、藤川さんはここを引き払われたんですよ。今日は掃除と備品の交換に入っているんです」


「引き払った……? わかった。ありがとう」


 お礼を言って今度は階段を駆け降りた。

 胸の奥がギュッと痛む。

 不意に穂高の言った言葉を思い出した。


(もうここへは来ないかもしれない。ちゃんと姿を見るのはさっきが最後かも)


 シタラの組み合わせでは、今回は持ち回りに西区はない。

 それどころか、修治と二度も一緒だ。

 会議でしか顔を合わせることがないって言うのに、その会議にさえ、本当に来ないんだとしたら――。


 宿舎を出て中庭を突っきり、もう一度、軍部を通り抜けて入り口に立ったとき、鴇汰はようやく、車に乗り込もうとしている麻乃を見つけた。


「麻乃!」


 階段の上から思いきり叫ぶ。

 ドアに手をかけていた麻乃の動きが止まった。

 近づこうと思うのに、近寄りがたい麻乃の雰囲気に、階段の途中で足が止まる。


 ずっと駆け回って呼吸がままならない。

 おまけに言いたいことが言葉にできず、喉の奥に詰まっているようだ。


「なに?」


 振り向きもせずに麻乃が答えた。


「あ……俺、あのさ……」


 なにか言わなければと思うほど、言葉が出ない。

 なによりもまず、あの日に医療所で言ってしまったことを謝らなければいけないのに。


「俺、このあいだは……」


「ねえ。なにか急ぎの用事?」


 言葉をさえぎってわずかに顔がこちらに向いた。

 それでもこの場所からは、髪に隠れて顔の輪郭も見えないくらいだ。


「えっ? あ、いや、急ぎってわけじゃねーけど……」


「悪いけど、向こうにみんなを待たせているんだ。急ぎじゃないなら、また今度にしてくれないか」


 いつもと違う口調に戸惑って、鴇汰が返事もできないでいると、麻乃はそのまま車に乗り込んでしまった。

 それを確認した杉山が鴇汰に向かって軽く会釈をしてから運転席に乗り、車が走り去る。


 門を出て見えなくなるまで鴇汰は立ち尽くしていた。

 止めることさえできなかった。

 結局、麻乃は一度も振り返らないままで、それは顔を合わせるつもりはないってことだろうか。


(いつでもあいつのあとをくっついて、甘ったれてるそんなおまえの姿、見てるこっちが恥かしくなる。イライラすんだよ。つき合ってるんだかなんだか知らねーけどよ、やりにくいったらねーよ)


 思い返すほど、ひどいセリフだと今は本当にそう思う。

 切なくて刺すように鴇汰の胸が痛む。


 走り回ったせいで心臓が激しく鼓動する痛みとは、明らかに違った。

 その場に座り込み、膝の上で腕を組むと、鴇汰は顔を伏せてため息をついた。


 あの日、あんなことにならなければ、今ごろは買い出しにでも出かけて夕飯を作り、一緒に食事をしていたかもしれない。

 今、隣に麻乃がいたかもしれない。


(そこには絶対に違う時間があったのに……)


 昔に比べたらだいぶ近づいたと思ったのに、また一気に遠くなってしまった。


(なにをやってんだ俺は……一人で苛ついて憤って、麻乃を傷つけてるだけなんて。自分の感情に振り回されてどうすんだよ)


 力無く立ち上がりジーンズの埃をはらうと、重い足取りで宿舎に向かった。

 部屋に戻ると、すぐにシャワーを浴びて横になった。

 眠かったわけではなく、単になにもする気になれないだけで、食事をするのもわずらわしい。


 次の持ち回りの荷作りだけはしてあったから、このまま寝てしまったとしてもなんの問題もない。

 問題なのは明日からだ。


 考えるのも面倒で、鴇汰はただぼんやりと、開け放した窓の外を眺めていた。

 ノックが聞こえた気がして時計に目をやると、いつの間にかもう深夜一時を回っている。

 気のせいだと思い、頭から布団を被ると、今度はハッキリとドアをたたく音が聞こえた。


(こんな時間に誰だよ……)


 仕方なしに起きあがり、ドアを開けると穂高が立っていた。

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